19話 都合よく使われる演劇部 その4
美人局というのはこういう気持ちなのかもしれない。
……なんて。演劇部の女子が練習に参加しはじめ、それに分かりやすくテンションが上がっている野球部員たちを尻目にそんなことを思った。
「――おいおい、ストライク入ってねーじゃん! 女の子相手に意識しちゃってんじゃないの?」
グラウンドからマウンドに向かって飛ばされた内輪ノリの野次。それを言った奴に無言で中指を立てるピッチャー役のムーブ。そして起きる笑い。
それら全てはまるで『酷いことも気軽に言い合えるムードが良い俺ら野球ぶっ!』の演出にしか見えない。
そんな邪推をしてしまうのはきっと、その雰囲気と俺たちに対する扱いが乖離しているせいなのだろう。
もし本当に雰囲気の良いチームだったのなら、他校の生徒を呼び出してボール拾いなんかさせるわけがなく、女子だけ練習に参加させるなんていう下心を丸出しのことをやってのけるはずがない。
だから、グラウンド内で行われているのは演出であり演技であり、女子に対する見え透いたアピールにしか見えなかった。
そんなのは、演劇部を無下にしてる時点で無駄だというのに。
「そんじゃ、俺らもやるか」
奴らの視線が女子に釘付けになってることを確認した俺は、折ヶ嶺と顔を見合わせて行動に移す。
「ちょっといいか」
そして、ボール拾いをしている一年生の一人に話しかけた。
「な、なんですか……」
彼は、急に話しかけられたことに戸惑っている様子。
「質問なんだが、おかしいと思わないか?」
「おかしい……ですか?」
「ああ。俺ら違う学校の人間が呼び出されて、ボール拾いをさせられてるこの現状がだよ」
その一年生は肯定も否定もなく戸惑ったまま無言。だが、疑問を抱いていない時点で、何かしら思うことはあったのだろう。
その何かが、不満や罪悪感といった負の感情だったなら、きっとこの言葉は効くだろう。
「俺はこのこのとを、お前らの監督に報告するつもりだ」
そして予想通り、その顔には緊張が走ったようにみえた。
「えっと、報告って……」
「部活を手伝って欲しいと言うから来たのに、あいつらどう見ても遊んでるよな?」
そう言って俺は校庭の方を親指で指してやる。
「それとも、これがいつもの練習なのか?」
「そ、それは……今日は監督がいないからで」
彼の視線はグラウンドに向けられ、それは俺から視線を逸らす誤魔化しの手段。
それでも、咄嗟に出てきたのであろう言い訳は、野球部の弱みを呆気なく晒していた。
「へぇ、監督がいないなら何してもいいんだな」
「いや、そういうわけじゃないと思いますけど……」
そんな彼の近くにいる別の一年生が、こちらをチラチラと見ては聞き耳をたてていた。
「なぁ、そこの奴もそう思わないか?」
「あ、えっ……なにがですか?」
その一年生に話しかけたら、わざとらしく聞こえてなかったフリ。
「この練習がおかしいって話だ。こんなの一体誰が指示したんだ?」
そして、首謀者を問い詰めてやる。
彼らは互いに顔を見合わせて、視線だけでどうするかを窺いあった。
チクるのが一人なら後のことを考えて口を割らない可能性があるが、二人三人ならチクる可能性は大いにあがる。
賛同を得られればそれは正義となり、問われる責任は分散されるだろうと錯覚するからだ。
無論、それは彼らがちゃんと不満を持っていることが前提ではあるのだが。
「俺たちはここの野球部が一生懸命練習をするんだと思って手伝いに来たんだよ。なのに、当の本人たちは談笑しながら遊んでる。俺たちは遊びに付き合わされるためにきたわけじゃない。こんなのは他の学校の野球部じゃありえないし大問題だ」
だから、適当な脅しを加えておいた。
「で、誰がこの練習を指示したんだ?」
そして再び問い詰めてやるも、彼らが交わし合う視線にはまだ、「言ったら怒られるかも……」という不安が垣間見えた。
だが、「この現状が悪いことだ」と思わせた時点でほぼ勝ちは確定したようなもの。
なぜなら――、
「よく考えたほうが良いぞ? 敵に回しちゃいけないのは、奴らなのか監督なのかをな」
それを咎めるのは、俺たちではなく奴らの上にいる指導者なのだから。
「あと……あいつらうちの女子に〝良い野球部アピール〟しているが、同じ部員である俺たちが不満持ってるんだから意味ないぞ。このまま傍観するつもりなら、お前たちも同じだがそれでもいいのか?」
黙秘とは奴らに協力することであり、それはデメリットしかないのだと丁寧に説明してやる。
これで彼らはどうしたって何かを発言しなければならなくなったはず。
そして、発言するのなら『それでも奴らを庇う』か『首謀者の名前を口にする』かの二択。
それでも迷ってる彼らに、俺は分かりやすくため息を吐いてみせた。
「お前たちは、ちゃんと野球部らしいと思ったから相談したのに残念だな。折ヶ嶺、このまま女子連れて学校に戻るぞ」
そして、彼らに背を向ける。折ヶ嶺は一瞬戸惑っていたが、俺のあと追ってきた。
そして、追いかけてきた足音はそれだけじゃなく、
「あ、あの――!」
振り返るとそこには、決意を固めた表情の一年生二人がいた。




