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18話 都合よく使われる演劇部 その3


 戻ってきた折ヶ嶺から聞かされたのは、女子にバッティングをさせるというものだった。


 それはボール拾いをしてくれた俺たちに対する配慮のように捉えることもできたのだが、女子だけという部分から考えるに下心ありきの話なんだろう。


「は? 普通に嫌なんですけど。バッティングするならバッティングセンター行くし」


 如月が分かりやすく拒絶。桃乃木と白崎は何も言わなかったものの、乗り気でないことはすぐに察せられた。


 そうなのだ。そもそもボールを打って楽しいのはおそらく野球部だけで、普段野球なんかしない俺らにとってそれはただ面倒なだけに過ぎない。


「でも、せっかくの話を無下にするのも悪いよね……?」


 桃乃木はそう言ったが、折ヶ嶺を気遣っての意見なのは視線でまるわかりだ。


「そもそもの話だが、ボール拾いさせてる時点で俺らを無下にしてるだろ。気なんて遣う必要ないと思うがな」


 もちろん、相手じゃなく折ヶ嶺に対してだが。


「断ってきてよ。ついでにもう学校戻ろ?」


 如月はここぞとばかりに折ヶ嶺にそう言ったが、彼の反応はかんばしくない。


 まぁ、折ヶ嶺が奴らを拒絶するのは難しいのだろう。


 なにせ元々の関係を持ちかけたのは折ヶ嶺自身なのだから。それを拒絶することは不義理になるとでも思っているのかもしれない。それか、まだこんな関係が演劇部のためになるとでも思っているのか……。


 維持してしまった関係を断ち切ることは、彼じゃなくても難しい。


 それでも、この関係を断ち切れる者は折ヶ嶺だけ。


 柚原先生は「物語を終わらせられる者が主役になるのだ」と言っていた。その理論で言うのなら、この関係における主役はやはり折ヶ嶺しかいなかった。


 嫌そうな如月ではなく、ぽっと出の俺でもなく、彼らを拒絶するのは折ヶ嶺新太でなければならない。


 だとするのなら――。


「白崎、あいつらのところに行って適当に相手してやってくれ」


 それまで黙って話を聞いていた白崎にそう言う。彼女は俺を見てから、やがて無言のまま頷いた。


「如月と桃乃木も一緒に行ってくれると助かる」

「は? なんでよ? そんなことしたら奴らの思う壺じゃん」


 如月がすこし怒ったような声音を出したが、俺は反対に笑ってやる。


「いいんだよ。これは奴らを油断させるためだから」

「……油断させる?」

「そうだ。そもそも、他校の生徒にボール拾いをさせるなんてのがまかり通ってるのは指導者がいないからだ。勝手に部外者を練習に参加させるなんてのも同じ。だから、それを指導者に報告するんだよ。なるべく最悪な形(・・・・)でな」


 そう言うと、如月はははーん? と腕組み。


「他校の女子生徒を練習に参加させて遊んでたーってチクるのね? でも、その報告ってあんたがやるわけ?」

「なんで俺がやるんだよ。そんなのは最悪じゃないだろ?」

「最悪じゃない……? じゃあ、折ヶ嶺?」

「いや、折ヶ嶺でもない」


 如月は眉毛を寄せて小首を傾げる。


「じゃあ、誰がチクるのよ」

「あいつらに決まってるだろ」


 そう言って俺は背後に視線を向けた。


 そこには、俺らと同じようにボール拾いをさせられている一年生たちの姿。


「組織ってのは不和を起こして、内部崩壊させるのが一番最悪なんだよ。一度問題が起きればいくら表面を取り繕っても長い間遺恨がのこるからな。それを取り除くには、最終的に問題を起こした人間を排除するしかない。まぁ、どちらが排除されるかは知らないし知ったことじゃないがな。ああ、それと問題を大きくするために後から俺たちもチクらせてもらう」


 折ヶ嶺が相手を拒絶できないのなら、いっそのこと相手を壊してしまえばいいのだ。


 そんな説明を終えると、如月は分かりやすくドン引きしていた。桃乃木も心なしか引きつった表情を浮かべている。


「深井沢って……陰湿な性格してたんだ」


「何言ってんだ。人ってのは、どうしたら相手に一番ダメージを与えられるのかをよく知っているものなんだよ。俺が陰湿なわけじゃない」


 そう反論したのだが、彼女たちの反応は変わらず。


 それでも、誰も「嫌だ」とは言わなかった。


「折ヶ嶺。いいよな?」


 そして、俺はこの関係性の主役に問いかけた。


 彼は、「なんで俺に訊くんだ」という表情をしたが、そんなのは答えるまでもなく主役だからに決まっている。


 折ヶ嶺新太は味方にするべき人間を間違えていた。


 今現在、不和を起こして内部崩壊しそうなのは野球部じゃなく、俺たち演劇部のほうだったからだ。


 そして、そのことを理解できているのなら、折ヶ嶺はこの結末をハッピーエンドへと導くしかない。


 やがて、彼が口を開くまでにそう時間はかからなかった。



「わかった。やってやろう」

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