17話 都合よく使われる演劇部 その2
折ヶ嶺の言う野球部とは、隣町にある高校の軟式野球部だった。
練習場は学校の校庭であり、見たところ部員は20人ほど。
そして、折ヶ嶺の言っていた「サポート」とは――。
「……これただのボール拾いじゃねぇか」
校庭の横に生い茂る山のなかへと分け入り、落ちているボールを見つけることだった。
「ファウルボールがよくここに飛び込んでくるらしくてさ。ほら、ボールもタダじゃないから」
折ヶ嶺は言いながら、落ち葉や木の枝や草を踏み分けながら落ちているボールを探す。
「タダじゃないのはわかるが、これは俺たちがやるようなことじゃないだろ」
「ちゃんとここの部員だって一緒に探してくれてるだろ?」
「……ああ、まだベンチにも入れないような一年生たちがな」
ボール拾いをしているのは折ヶ嶺の言う通り演劇部だけじゃなく、野球部の一年生たちも一緒になって草を踏み分けていた。
対し、先輩であろう部員たちはバッティング練習の真っ最中であり、時おり彼らの打ち損じのボールがこちらに飛んできたりしている。
「私さ、虫嫌いなんだけど」
如月がそう言って、暗に「ボール拾いなんかしたくない」と態度で示してくる。
「校庭に近いあたりならあまり虫いないよ」
それに折ヶ嶺はそう返し、如月はあてが外れたと肩をガックリ。
その光景に俺も思わずため息を吐いてしまっ。
「折ヶ嶺。演劇やったって、たぶんあいつら観になんてこないぞ」
だから、せめて彼の気が変わるよう仕向けるしかない。
「そんなのは……分からないじゃないか」
「いいや、わかるね。あいつらはお前のことを奴隷かなにかだとしか思ってないし、下に見てる人間の演劇なんかに観に来る奴なんていない」
「約束を破ったら気まずいだろ」
「学校が違うんだから気まずいわけないだろ。それに、風邪でもないのに風邪だと言い張って休んで平然としてる奴らなんて腐るほどいるぞ」
「そう、かな」
「そうだろ」
それでも、折ヶ嶺の視線はボールが落ちているかもしれない藪から逸らされることはなかった。
折ヶ嶺は――ずっとこんな事をしてきたのだろうか?
まるで染みついたその動きに、そんな疑問が浮かぶ。
その疑問の答えを無意識に求めてしまい、ふと、ファーストフード店で絡まれた他校の生徒たちを思いだした。
そして、クラスメイトである如月梓からの悪い印象。
それらの情報が一つの線となり、演劇部のために人脈を作ってきたはずの顛末は、ボール拾いをする折ヶ嶺へと集約されていく。
「……」
まぁ、そりゃそうだよな。
そんな感想しか出てこなかった。
いくら積極的に動こうと、いくら親しくなろうと、他校の生徒にとって俺たちは所詮、外の人間でしかない。
内輪のなかで楽しく過ごせるのに、わざわざ外の人間と仲良くなる必要なんてなかった。もしもそれを必要とするのなら、内輪でうまく人間関係を築けなかった者たちだけだ。
はみ出したから、はみ出した者と仲良くなった。
ただ、それだけの話。
もちろん、そうでない者たちだっている。
内輪のなかで楽しくすごし、その上で外の人間とも仲良くなろうとする人間はいるだろう。
そして、彼らは外の人間と仲良くしているメリットを内輪のなかに落とし込もうとするのだ。
例えば……演劇を観にきて欲しいがためだけに近づき、ボール拾いを押し付けるがためだけに呼びだす。
最初から目的ありきで近づき、それを分かったうえで受け入れたのなら、たぶん奴らも折ヶ嶺も変わらないのかもしれない。
類は友を呼ぶ。同じ穴のムジナ。
結局、同じような人間同士は集まるのだろう。
そして、その集まりが嫌なのならば、自分が変わり違う人間になるしかない。
「深井沢、ちょっときてよ」
そんなとき、もはやボールなど探してすらいない如月が俺を呼んだ。
なんの話かなんてのは、だいたい察しがつく。
「深井沢さ、あいつらに「もう帰ります」って言ってきてよ」
「なんで俺なんだ」
「仕方ないじゃん。折ヶ嶺はあんな感じだし、桃花も一緒になってボール探してるし、なぜか白崎さんも大人しく従ってるし……深井沢だけが頼りなんだから。ね? 一生のお願い!」
そう言って、如月は都合の良い声色で手を合わせてきた。
気持ちは分かるのだが、断りたくなるのはなぜだろうか……。
とはいえ、このままにしておけないのも事実ではある。
どうすっかな。
そんな時だった。
「おーい折ヶ嶺ー! ちょっとこいよー!」
校庭にいる野球部の連中の一人が、大声で折ヶ嶺を呼んだのだ。
「もしかしてもう帰っていいとかかな……?」
それに如月が希望の声を呟く。
見たところ、折ヶ嶺を呼んだのはキャプテンらしいのでその可能性は十分にあったのだが、彼の近くで輪になっている奴らのニヤついた表情を見れば、如月の想像は甘い気がする。
そのニヤついた表情が、なぜか演劇部の女子たちに向けられていたからかもしれない。




