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信頼と尊敬

 僕が今この時期に持つべき課題は「存在しない存在になること」ではなかった。

 はっきりとわかった。今僕が、達成できることの中で、現状できていないことは「他者の、自分への印象を確実に見て取ること」及び「自分への印象をコントロールすること」だ。

 僕は、ある人が別の人、あるいはその人自身を見ている時に、そのとき何を考えているのかある程度予測を立てることができる。しかしその見ている対象が自分となると、それが一気に難しくなる。当然だ。僕は「ごく自然に動いている僕自身」を見たことがないからだ。それに、たとえ僕がそれを見ることができたとしても、おそらくそれに対する印象は「僕が自分自身を何らかの方法で見た時の印象」でしかなく、「ある人が、この人物を見た時の印象」とは異なってしまう。


 僕は現状、あるひとりの人物に対して、その人が大切にしているものや、弱点、根本的な性格といったものをかなりの精度で言い当てることができる。この能力を手に入れられた最も大きな要因は「どんな人に対しても、適切に対処できるようになるため」であった。人に意図せず傷付けられたり、意図せず傷付けてしまったりしないためだった。

 そしてこの能力が、もっとよいことに用いることができると数年前に知り、その方法も学んでいる。

 だからこそ、僕はそこからさらに一歩進めるし、そうすべきなのだ。


 本来人は逆の道筋をたどるのだろう。表層を見て取り、学び、その後深層に気づいていく。僕は逆だった。表層を完全に無視し、深層の部分だけに焦点をあて、それに触れるすべを手に入れた。そこに来て僕は、表層の重要性を知った。僕は表層を学ばなくてはならない。


 印象とは表層である。僕は、様々な「印象の抱き方」を知らなくてはならない。人それぞれ違うその感性の瞬発性や、不安定性、または確実性を知らなくてはならない。


 それが何の役に立つか、最終的にどのように用いるのか、それは考える必要がない。僕はそれを、必ず「よいこと」のために使うことができる。


 僕の肉体は、僕の精神を信頼はしていないが、尊敬はしている。今はそれで十分だと思う。


 いつだって、僕がする努力のほぼすべては「意識すること」だけでいい。あとは体が勝手にやってくれる。それに必要なことを勝手に見つけて、動き始めてくれる。

 もしそうならないなら、それは、自らが本当は必要としていなかった、ということなのだ。

 僕は肉体を尊敬はしていないが、信頼はしている。それで十分なのだということを、ついに精神は学んだ。


 今日は喜ぶべき日だ。

 僕が「凡人」になってから、はじめて自らが肯定できる指針を見つけることができた。

 今日は喜ぶべき日だ。本当に、心からそう思う。


 他者に、自分が望んだ印象を抱かされる能力。僕はそれを手に入れる。

 どのような印象を抱かせるかは決めていない。決める必要もないし、僕はそもそもそれを望んじゃいない。必要なのはその力だけ。

 いずれ、その力が必要になるときが来る。そのときに備えて、僕を自らを整えようと思う。


 思えば、「存在しない存在となること」は、このための準備だったのだ。ニュートラルな状態からの方が、作りやすいから。印象をコントロールするためには、先に「印象が残らない」状態にしなくてはならないから。


 楽しみにしていてくれ。君もきっと驚くよ。僕はいずれ、自らの本質を変えずに「変身」することができるようになる。僕が信じるものや愛するものを壊さずに、さまざまなものを「演じられる」ようになる。

 それで何ができるのかまだ僕にはわからないが、それでいいんだ。こんなに嬉しくて楽しい気持ちになったのは久々だから。

 まだ自分に成長できる余地があり、しかもそれに確信を抱くことができている。僕は君たちに感謝したい。教えてくれてありがとう。導いてくれてありがとう。僕は君たちを愛しているし、信じてもいる。ありがとう。僕を愛してくれて。見捨てないでいてくれて。

 僕を、信じてくれて。大丈夫だ。あとは任せてくれ。僕はきっとうまくやるよ。君たちが何を望んでいるかはわからないけれど、きっと、君たちが望んでいるようになる。君がわかっているのかわかっていないのか、僕にはわからないが、それで構わない。

 僕も君を信じているのだから。


 これ以上の言葉は不要だろう。これは記録だ。君が望んだものであり、僕が望んだものだ。

 僕は君を愛している。心の底から、これ以上ないほどに。

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