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出来事と瞬間

 窓の外をふと眺めた時に、そこに揺蕩う雲の間をさす太陽にまぶしさを感じた時、私は人生とはそれの繰り返しに過ぎないと悟った。この瞬間は永遠であり、そしてそれが無限に連なっていくと知ったとき。

 ベランダで過ごす何でもない時間が、意味も言葉も与えられる前のその世界すべてを受け取っているあの感覚が、人生において最大の価値を持っている。

 それに気づいている美しい誰かが、同じようにその瞬間のかけがえのなさをひとつも欠けることなく受け取り、それを感じている。それをもうひとつの目で眺めるとき私たちの心は確かに思い出すのだ。

 生きるというのはただそれだけのことであるのだと。

 それだけのことのために、私たちはすべてを懸けているのだと。


 たとえば庭で走り回る子供たち。とってきた虫を嬉しそうに見せてきたとき。喧嘩をして泣いてしまった時、親に言われるでもなく、謝るでもなく、気づいた時にはまた前と同じように喧嘩した相手と楽し気に遊んでいるとき。

 私たちの不幸はすべてその瞬間の時の為だけに用意されたのだとしても私は少しも不思議に思わないのだから。

 世界における最大の感動は最小の出来事の中にあり、私たちはただそれに気づいて、それを大切に抱きしめるだけで十分だったのに。


 あなたとつないだその手が暖かいというただそれだけのことで、私たちはすべての苦難を乗り越えていけるだろうと本気で信じていたのに。


 いつの間にかひとりになって、いつの間にか何もかもが足りない気がして、このままでは今手に握っているものすら零れ落ちてなくなってしまうような気がして、私たちはいつの間にか、何が大切なのかもわからずに、自分自身にできる最善の努力を最悪の形で行い続けてしまっているのだとすれば、私たちはいつ、どこで、どのように間違えたというのだろうか。


 生きることは苦痛などではなく、ただそこにあるものを感じて、ただそこにあるものと共に生きることだけだったのなら、私たちに生じたこの絶え間ない苦痛は、私たちに生じた、すべての義務と権利は、私たちの身体のどこから生えてきたものだというのだろうか。


 育った。育って実った。それは熟れて地に堕ちた。私たちは生きている。生き続けている。



 苦痛。苦痛。


 堕落。不幸。無価値。無関心。逃避。逃亡。


 助けを求めた先にあるものが、酒場の喧騒であったとき、私たちは何を感じればいいというのだろうか。

 笑いが泣き叫ぶ声をかき消すにしても、絶叫が笑い声をかき消すにしても、耳を塞ぎたくなるという意味では同じことで、私たちはただ、静かに生きていたいのに、他でもない私たちの身体が、静けさに耐えられなくなってしまって、喧騒と自分を繋ぐスイッチを気づいたら押してしまうのだ。


 静けさが訪れるために、自分自身の声が世界に鳴り響く。私たちはそれを聞きたくない。自分自身の話を聞くのが自分自身だけなんて、そんなのは耐えられない。

 何もせずただ黙ってじっとしているだけなんて、私たちには耐えられない。

 こんな日々を過ごすくらいなら、地獄にでも落ちた方がマシだ!

 そうして私たちは今日も喧騒の中に混ざって酒を飲み、くだらないことで喜んだり、悲しんだり、悔しがったりする。


 そうしていない人間なんていないのだから、それに負い目を感じなくたっていいけれど、その先に待っているのがどうにもならない痒みであることだけは確かで、どうにかするということもできず、私たちにとって一番幸福なことは今すぐ死ぬことではないかと冷静になって考えてしまうとしても、それは病気でもなければ反社会的な発想でもない。

 私が間違っていなければ、社会はそれ自体が一種の病巣であり、私たちを蝕む依存性の薬物のようなもので、私たちは一度それを摂取したら、もう二度とやめることなどできないのだから、むしろそれを正しいことだと信じて、それとともに生きて、それが定義する健全性の中で、自分を高めていくしかないのだと割り切って。

 そうして不幸になる。

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