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プライドと自己欺瞞

 ずっとどんな海よりも深い孤独の中で生きてきた。

 思っていることも感じていることも伝えられない。

 伝えようと努力してどんな方法を取っても首を傾げられるだけ。


 わかってる。人が共感できることは、自分が経験したことだけ。

 想像力が豊かな人だけが、自分の経験をバラバラに分解して、その部品で相手の経験を再構築して自分の中に生じさせようとするけれど、それはしょせんその場しのぎの演出。

 そもそも共感なんていうものは、もともと一種のまやかしに過ぎなくて、人と人とを繋ぐための一時的な感情に過ぎないんだ。

 だから、共感されたかったわけじゃない。


 でも、それでも、わかってほしかったんだ。自分のことを。この複雑さを。


 傷つかないために距離をとることを学んだのは、自分自身で自分自身の機嫌を取るすべを見つけてからだった。

 僕の中の三角座りで部屋の隅で拗ねている5歳の子供は、永遠に放置されている。彼に手を差し伸べるのは僕以外にいなかったし、彼は結果として、ひとりでも平気な子供に育った。

 そうさ。彼は言った。この世界に意味も価値もないって。自分を愛してくれない連中が回す世界なんて、どうなったっていいって。

 彼に何を言っても無駄さ。彼の言っていることは、他のどんなことよりも正しい。

 そして彼は、同じように傷ついている子供を見ると、その子供がこの無価値な世界の中で唯一守る価値のあるものだって言うんだ。泣きながら、歯を食いしばって、こぶしを握り締めて。

 そう。悲しいほどに、彼は優しい少年だった。そんな優しい少年を、僕はずっと馬鹿にして、放置し続けてきたし、それは今後も変わらない。

 そんなナイーブさは生きるのに役立たないから。


 そうだろう。僕は強くなった。意味もなく。自分の中の幼稚な部分を受け入れたうえで、笑い飛ばして、克服したことにした。ただ無視して虐待しているだけなのに。


 僕はずっと孤独だし、この先も孤独でいるだろうと思う。

 この深さと温度になれて、当たり前になった。もう自分が無理しているのか無理していないのかもわからない。だってそうだろう? ここにもう十年以上いるんだ。人生の半分以上をこうやって暮らしてきたんだ。

 自分の気持ちを素直に誰かに語ることはなく、ただ静かにひとりきりの部屋で、くその役にも立たない文を書き続ける。

 それはきっとある人が見ればSOSにも見えるだろうし、別の人から見れば、単なる精神的なリラックスの手段にも見えるだろうと思う。

 それが実際になんであるかなんてどうでもいい。ただ、書くことによって、救われたような気持ちになることだけは本当なんだ。


 僕は一生孤独だろうと思う。僕を理解できる人間がいるとすれば、その人間は、存在していない方がいいくらいに苦しんできた人間だろうと思う。他でもない僕自身がそうなんだからね。

 そいつが生きているだけで、周りの人間が気の毒な感情になって、集団の幸福のレベルが少し下がってしまうような。

 そういうことにならないように、自分が不幸ではなく、世界で一番幸福であるかのようにふるまうような。


 僕は一生孤独だろうけれど、そうじゃない人間の方が珍しいことを僕は知っている。きっと僕はほとんどの人よりも深い場所にいて、一時的な共感と共同を得られる可能性が低いだろうけど、それはそんなに具合の悪いことではないと思う。

 期待する機会が少ないということは、がっかりする機会も少ないということだから。

 決して救われない人間は、救われるかもしれなかった人間よりは幸福だろう。だから僕は前者になったんだ。


 僕の人生は決してよくならないし、よいことも起こらない。他の元気なみんなが言うように、人生は可能性に満ちたものではないし、幸福を目指して前進していくものでもない。

 時代は停滞する僕らを置き去りにしていく。進まない僕らはよどんだ水だまりの中で、干からびるのを待っているんだ。

 そういう生の何が悪いんだ? 何も悪くないさ。

 この世はもともと最低なものなんだから、僕らが最低であることなんて、なんでもないことなのさ。そのことで悩んだり苦しんだり悲しんだりするのは、この世にまだ生き慣れていない証拠さ。


 そうさ僕らは絶望している。誰よりも明るく、健康的に暮らす僕らは、どうしようもなくろくでなしで、何の役にも立たない。

 でも何かの役に立ったとして、その何かには何の意味もない。何もかもが、全部ただの自己満足さ。僕らはそのなけなしの自己満足さえ諦めて、ここで貴重な時間を怠惰に貪り続けるのさ。

 勤勉な人間が発狂するような生活を、死ぬまで続けるんだ。

 幸福を望む人間が失神するような感情を、味わい続けるんだ。


 こういう人生が最善だって思う人間の気持ちが、誰に理解できる?

 思想も理論も必要なく、人を説得するための道理も必要なく、ただ自分が感じたこととして、これが自分の最善であると感じられる人間に、誰が共感できるというのだろう。

 そうさ。きっと、みんなそうさ。年老いて、病気になって、連絡する相手もいなくなって、そうなればみんなそう思うさ。

 誰も自分を理解しなかったってね。それに不満を思ったりしない。不公平ではないし、不条理でもない。それが当たり前で、むしろその方がよかったって思うのさ。


 僕らはずっとひとりきりなんだ。



 孤独

 素晴らしき孤独

 これ以上のものはないのさ

 真っ暗な空間にたったひとつの魂

 面白いものはなにもなく

 退屈にも次第に慣れていく


 生きることに意味はないし

 目的も努力も

 くだらなくてやってらんない


 素晴らしき無意味

 永遠に存在し続けるわけじゃないことが唯一の救い

 とっととおさらばしたい自分自身

 でもまぁ切り離せないものもある

 落ち着いて深呼吸して

 僕はカス野郎

 それのどこが変なんだい


 あぁ楽しいな

 生きることを否定することは

 誰からも相手されず

 何も存在しない空間に

 悪い言葉を並べ立てる

 誰かを傷つけるような言葉を

 決して傷つかない存在にぶつけるんだ

 強化ガラスをひっかき続けるみたいなものさ

 そう人生なんてそんなもの


 くだらなくて馬鹿らしい

 真剣になるに値しない八十年

 努力する予定のない空白だらけの人生設計

 路上で野垂れ死ぬよりひどいことにはならない安心安全な現実的予測

 そうどんなにひどくなったって爪をはがされたり目玉をくりぬかれたり

 そんなちゃちなスプラッタ映画じみた行為の被害者になるだけ

 この世でどんな不幸な人間もそれよりひどい目に遭ってないんだから

 この世はなんて穏当なのだろう


 

 平和主義者の仮面を被ってきた。

 でもさ、僕は人から奪うことに躊躇なんてしない。

 僕は結局普通の人間だから自分の利益をいつだって最大化しようとする。

 僕にとっての利益がたまたまお金や人間関係じゃなくて、自由な時間だっただけ。

 自由に考えて、自由に怠惰を貪る。それこそが僕にとっての利益であり、それ以外には本当に価値がなかったんだ。

 他の人間のことなんて全部どうでもよかったし、使命だとか義務だとかも、結局は高圧的な連中が押し付けてくるものでしかなかったんだ。

 望んでもいない恩恵を与えてきた対価を強制的に与えてくるなんて、理不尽だろう? でも普通社会はそういうものなんだ。

 ただ僕の生きている時代とこの国は、他よりも少し甘かったから、僕はまだ生かされているし、おそらく死ぬまで生かされ続ける。僕みたいな自己中心的で反社会的な人格を持った人間でも、その生きる権利までは奪おうとはしてこないし、労働の義務を過度に押し付けてくることもない。

 僕はただ、死ぬまで何もせず、楽しく暮らすだけさ。呑気に、永遠に続く罪の意識の苦しみをどれだけ噛み続けられるか試しながら。


 この世は案外優しくて、みんな自分と同じくらい家族や友達のことを大切にしている。関係のない人たちには、それより一段階下がるけれど、できるだけ迷惑をかけないように苦心しているよね。

 僕は違う。自分以外のことは全部どうでもいいし、もっといえば、自分のことでさえどうでもいい。ただ死ぬまでの間、どれだけ生まれながらに背負ったこの苦しみを軽減できるか試す遊びをし続けるだけさ。

 今のところの進捗はなかなかいいよ。いろんな思想、いろんな習慣を試したけれど、他の人間のお節介なアドバイスがクソの役にも立たないことだけは判明したよ。あと、学問とかいう見た目と理念だけは立派な、個別の人生にはまったく意味のない不毛な活動には距離を置いた方がいいというのも大切な学びだったね。アレは最初に固有の精神性を売却することを要求してくるし、対価には名誉と金と自己満足以外を用意してくれない。

 学問の中で一番マシなのは神学だろうと僕は本気で思ってるよ。二番目にマシなのは数学だね。


 生きることは本当にくだらないね。

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