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カテリーヌ

 キャシー

 君が言葉を失ったのは

 君が武器を手に取って戦うことを選んだのは

 何がきっかけだったかな


 生きることは奪うことだと

 君は無数にある真理の中でそれを選びすべてを賭けた

 生きることは奪うこと

 適切かつ慎重に

 正当な方法で

 搾取すること


 君の友達は

 奪われるのも奪うのも嫌いだった

 もっと嫌いなのは弱い人が何もできずに奪われていく様を黙ってみていることだった

 その人は弱い誰かを守るために死んだ

 君はその生き方を否定も肯定もしなかった

 ただ自分が生きるために

 奪う側に回った

 殺す側に


 僕は君を否定できない

 奪うことも奪われることも拒み

 できる限り知らないでいようとする僕は

 君のことを知らないではいられなかった

 僕は君のようになりたかった

 君もかつて僕のようになりたかったと言ったことがあった

 今もそうだろうか


 僕らは互いに学ばなくてはならないのかもしれない

 僕はじょうずに人から奪うすべを

 君はじょうずに人から逃げるすべを

 でも僕らはすでに生き方を決めてしまっているから

 僕の思うように変わることはできないだろうと思う


 君は奪い

 僕は逃げる

 僕は君から奪われることはなくて

 君は僕とは関係のない誰かから奪って豊かになる

 僕はそんな君を見て少し悲しい気持ちになる

 君は誰からも奪われる心配のない僕を見て

 自らの奪ったものの価値を疑う

 そうして奪われる心配のない僕を羨ましがるんだ


 いつか君が僕を見つけて

 君が僕から奪えるものが何もないことを悟ったとき

 僕らは互いに何も持たずに

 生きることについて語り合えるかもしれない

 僕のもとに奪う価値のあるものがなければ

 君は奪わなくていい

 僕も奪われなくてもいい

 そうだろうキャシー

 君が罪なき人であるためには

 この島から一切の価値が消え去らなくてはならないのだから

 僕はいつかそうしたいと思っているんだ

 君とまた友達になるために

 互いの存在を笑って許せるようになるために


 時々思うんだ

 この世界から価値のあるものが何もなくなって

 誰かから何かを奪われる恐れも何もなくなって

 そうしたとき僕らは真の平和と幸福が得られるのではないかって


 皆怖いんだ

 人を傷つけるのも

 お金のためにずるいことをするのも

 結局は怖いからなんだ


 君はそんなユートピアはつまらなくてくだらないと言ったよね

 僕もそう思う

 だからこの世界はゲームであればいいと思うんだ

 真剣になるに値するようなものは何もないから

 僕らが楽しむためだけにお金とか資源があればいい

 そうすれば誰かが傷つくのもずるいことをするのも

 全部が冗談であり遊びになる

 そのゲームが一旦終わってしまえばみんな安心して眠ることができる

 そんな世界になればいいと思うんだ

 君はありえないと言って笑うだろうけど

 僕は本気でそうなってほしいと思っているんだ


 ねぇキャシー

 僕の声を君が聞くことはないだろうと思う

 争っている人は忙しいから


 いつか君が争いに敗れて

 人から奪われるしかない側に回って

 そのまま死んでいくことを受け入れるようになった時

 僕らの夢や思い込み

 賭けていた真理を忘れてしまった時

 僕らはまた違う人間として出会うのだろう

 君は争いの不毛さを学び

 僕は言葉の無力さを学んだ

 そんなつまらない老人同士

 今日は天気がいいということだけで笑い合えたら

 もうそれ以上の幸せはいらないと僕は思うんだ

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