悪戯
「トリックオアトリート!
お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ!」
「どんないたずらをしてくれるのかな……?」
「えっ」
私はいたずら大好きな美少女小学生エミ。
今、私の目の前には不審者が立っています。
不審者のコスプレではなく、どうやら本物だったようです。
突然の遭遇に面食らいましたが、
ここで退いてはいたずら少女の名がすたるというものです。
相手が不審者なら尚更です。
一矢報いてやるくらいの気持ちが大事だと思います。
いたずらの極意は“相手をびっくりさせる”ことだと思ってます。
よくバラエティー番組とかで料理に激辛調味料を混ぜるだとか、
電流でビリッとしてリアクションみたいなのがありますが、
ああゆうのはなんか違うと思います。
映像的には面白いのかもしれませんが、私の哲学には反します。
「ふ、不審者め!
僕のエミちゃんから離れろ!」
同級生の山田?山本?君が何か言ってましたが、私の耳には入りませんでした。
これは私と不審者さんの一騎討ち。
負ける訳にはいきません。
勝負は一瞬。
──刹那、
私の導き出した“相手が最もびっくりすること”は、
“防犯ブザーを鳴らされる”でした。
そして、私がブザーに手を伸ばすよりも先に不審者さんは行動に移しました。
(速い……!)
私は出遅れ、先手を取ったのは不審者さんでした。
ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!
閑静な住宅街に、けたたましい防犯ブザーの音が鳴り響きました。
それに気付いたご近所さんたちが窓から顔を覗かせてます。
相手をびっくりさせるつもりが、
逆にびっくりさせられたのは私の方でした。
なんと、防犯ブザーを鳴らしたのは不審者さんの方だったのです。
誰かが通報したのでしょう、数分後に駆け付けた警察の人が
不審者さんに口頭注意をしてました。
逮捕されるほどのことはしてないし、
ブザーを鳴らしたのは私じゃないので妥当な対応です。
それにしても私にはなんともいえない悔しさが残りました。
これが敗北感というものなのでしょう。
試合に勝って勝負に負けたという言葉がしっくりきます。
警察立ち会いの下、私は不審者さんに握手を求めました。
和解の証であり、「次は負けない」という意志表明でした。
どうやらそれは伝わったようで、不審者さんは無言で頷きました。
後日、不審者さんは別件で逮捕され、またしても私はびっくりさせられました。
さすがはこの私が認めたいたずらの師匠です。
まだまだ追いつけそうにはありません。
これはどうでもいい話ですが、
ブザーの音に怖くなって逃げ出した男子の苗字は鈴木でした。