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第14話 一度ある事は二度や三度あるよね


「今回のこと、(わし)からも礼を言わせてくれ。――ありがとう、ネクト殿」


 爽やかな木の香りが漂う、キコリーフの王城。


 まるで森林の中に居るような心地よささえ感じられる謁見の間にて、僕はこの国の王様から感謝の言葉を掛けられていた。



「いえ、僕は大したことをしていません。それにこの国に住む者として、できる限りのことをしたまでですので」


 ちょっとだけ照れ臭くなって、僕は頭を掻きながら謙遜(けんそん)の言葉を述べた。


 この場では王様だけじゃなく、ツルッパ宰相や他の人たちまで僕の功績を拍手でたたえてくれている。



 魔王討伐の報告をサウスレイクでした時もそうだったけれど、褒められるのはやっぱり嬉しいね。


 ……でも、僕が行く必要って本当にあったのかなぁ?


 だって僕が勇者クンを捕まえた現場に、この国のスパイであるラクヨウさんは普通に居たからね。


 僕が勇者を捕まえてこなくても、彼女一人でどうとでもなったんじゃないかな……。



 複雑な表情をしていたのがバレたのか、宰相のツルッパさんが苦笑いを浮かべた。



「ネクト殿が考えていることも分かるがの。こっちも世間体というものがあるんじゃ」

「世間体? あー……なるほど」


 つまり、隠密衆は隠密しているから隠密衆なんだってことを言いたいのかな?


 隠密衆の存在があんまり大っぴらになっちゃうと、活動自体がやりにくくなっちゃう。


 塩梅としては、他国に『そんな陰の存在があるのかもなー』って警戒されるぐらいが丁度良いんだろうね。


 あんまり脅威にとられちゃうと、邪魔だからって理由で積極的に排除されちゃうだろうし。


 要するに、この国に隠密衆は存在していないってことにしておくのが、どの国にとっても一番丸く収まるってことか……。



「その点、黒の英雄殿のネームバリューは非常に使いやすいのだ。『黒の英雄がトチ狂った勇者を捕らえた』ってことにしておけば、どこにも角が立たん」

「……ツルッパさんは正直者、ですね。普通、それを本人である僕に言います?」

「ふはは。恨みを買うのは陛下ではなく、私の役目なのでな。恨まれついでに言うと、今回は存分に利用させてもらったよ。その分の報酬も弾むから、どうかそれで容赦してくれ」


 ツルッパさんはそのツルツルの頭を撫でながら、茶目っ気たっぷりにお願いしてきた。


 悪役を引き受けたっていう割に、人の良さが全く隠せていないですよ?



 ……まったく。僕相手に、本気で腹芸をするつもりはないようだ。


 でもまぁ、これは彼の一面のひとつに過ぎないのだろう。


 本気で脅威と感じた相手には、一切の容赦をしないに違いない。


 国の為を第一に考えるのが、宰相であるツルッパさんの役目だもんね。



「今回のことは貸しにしておきますよ、ツルッパさん」

「ははは。あまり利子はつけないでくれたまえよ! この国の財政はあまり(かんば)しくないのだからな!」

「おい、ツルッパよ。それを言う必要があったか?」


 ツルッパさんの頭を、陛下がキコリーフの木で作った杖でペシリと叩く。


 この人たち、いつもこんなやり取りばかりしているのかな。


 横で控えている他の官僚たちは国のトップ二人の漫才を見て、プルプルと笑いを(こら)えている。



「ぷっ、ふふ。あははは。良いですよ、別に。この国が破産しちゃったら、国民である僕も困りますからね」

「おっ? こりゃあ、ネクト殿に一本取られましたな陛下!!」

「しかり!! ふははは!!」


 めでたく円満解決と相成ったキコリーフの城に、みんなの笑い声が響き渡った。


 僕も平穏な日常が戻ってきて、ひと安心だ。


 さて、そろそろお(いとま)して家に帰ろうか。



「では、愛国心溢れる黒の英雄殿に、次なる依頼を授けよう」


 帰る旨を伝えようとしたところで、先に王様から声を掛けられた。


 ん~? 次の依頼ってなんだろう。



「どうぞどうぞ! なんでも頼んじゃってくださいよ!! 僕が居れば、どんな依頼だってこなしてみせますよ!!」

「おぉ、頼もしい限りじゃ。実はな、今度の依頼は最近できたダンジョンの攻略なのじゃ」


 お、新しいダンジョンだって?


 未踏破のダンジョンだなんて、お宝の宝庫じゃないですか。



 僕はまだ銅ランクの冒険者だけど、実績は一番上の虹ランクにだって見劣りはしないと思うんだよね~。


 何て言ったって、僕は魔王を討伐した英雄なんだし??



「お任せください! ダンジョンのひとつやふたつ、僕があっさり踏破してみせますよ!」


 しかし王様直々の依頼だなんて、僕も出世したなぁ!!


 これはまた一段と、僕の夢に一歩近づいたんじゃない??


 でも新ダンジョンだなんて、いったいどこにできたんだろう?


 そんな話、街じゃ全く聞かなかったけれど?



「ははは、威勢が良いのう。そのダンジョンはハラハラ大砂漠にあるんじゃがの」

「ハラハラ大砂漠に? 初耳ですね……」

「情報源はネクト殿が捕らえた勇者じゃ。あの後、いろいろなことを聞かせてもらったところ『ピラミッドがダンジョン化している』と言っておってな。どうやら今回のこともそれが関係しておったようじゃ」


 あぁ、あの頭の悪そうなビビリ(笑)の勇者が情報源なのかぁ。


 とても勇者(勇気がある者)とは思えないような無様な姿だったっけ。


 自分と同じ黒髪だったのは少し気になったけど、僕と勇者は関係ないだろうし。



 んー、ていうかさぁ。


 こうまで世界を救ってきたんなら、僕が代わりに勇者を名乗っちゃってもいいんじゃない??


 魔王なんて当分出てこないだろうし、勇者って肩書きがあれば仕事だって舞い込むはず!!



 そんな妄想をしていた僕に、満面の笑みを浮かべた王様が楽しそうに口を開いた。



「ネクト殿には、そのダンジョンの奥に生まれた新たな魔王を討伐して欲しい」

「はいはい、魔王の討伐ですね。余裕で倒してきま……え、待って。いま王様、新たな魔王って……うそぉ!?」

「頼んだぞ、キコリーフの英雄……いや、勇者よ!!」

「えぇぇええ!?!?」



 ちょっと待って王様! 前言撤回させてぇええ!?


次回が最終話となります。

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