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第13話 異国の忍者は案外、口が軽かった。


 砂漠を漂う蜃気楼に隠されたピラミッド。


 その最深部にあった隠し部屋に、目当ての人物が隠れていた。



「な、なんだよお前は! どこから現れたんだ!?」


 なんて珍しい。僕と同じ、黒髪の少年だ。


 彼は部屋の壁際に突然現れた僕を見て、信じられないような表情を浮かべた。



「やぁ、お邪魔しているよ。……おっと、こっちは非武装なんだけどなぁ」

「うるさい! お前はいったい……いや、その顔ってまさか!?」


 咄嗟(とっさ)に立ち上がって戦闘のポーズを取ったのはまぁ、及第点かな?


 右手には小さな折り畳みナイフが握られている。


 だけどとても緊張しているのか、その刃はガタガタと震えてしまっていて、狙いが全然定まっていない。


 これじゃあ、人を刺し殺すことはできないと思うよ?



「キミが勇者……ってことだよね? 僕の方もいろいろ聞きたいことはあるんだけど、取り敢えず――ゴメンね?」

「――えっ?」


 悪いけど、僕は油断はしない性格なんだよね。


 僕は姿を再び(くら)ませると、勇者クンの背後に素早く移動。彼の後頭部を思いっきり殴った。



「――ッ!?」


 彼は何が起きたのかも分からないまま、意識をプツンと手放した。


 ナイフを取り落とし、脱力した身体がグラリと地面に向かって落ちていく。


 ドサリと音を立て、地面に横たわった勇者クンはそのまま動かなくなった。



「呼吸はしているね。良かった、母さん仕込みの気絶術が成功したみたいだ」


 夫婦喧嘩で母さんがブチキレた時は、父さんにこの手をよく使うんだ。


 父さんの浮気がバレた時なんて、母さんが魔王に見えたもんなぁ。



 まさか僕が勇者に使うことになるとは思わなかったけれど……うん、成功して良かった。


 殺さずにキチンと気絶できたのを確認したあと、すかさず僕は背中に背負っていたバックパックからロープを取り出す。


 そして勇者クンの手足を何重にもグルグル巻きにしていく。


 彼がもし目覚めても何もできないように、しっかりと拘束しないとね。



「……見てるんでしょ? どう? 僕なりに中々の手際(てぎわ)だったと思うんだけど」


 何も無い空間に向かって、僕はそんなセリフを吐いた。



 この隠し部屋には、僕と勇者クンの姿しかない。


 途中で居た鋏鱗(きょうりん)族の人たちには気付かれなかったから、ここにはまだやって来ないはず。


 それにもかかわらず。ここには僕たち以外の気配があった。



「驚いたでござる。まさか隠密術で隠れた(せつ)の存在を(さと)られるとは思わなかったでござるよ」


 驚嘆(きょうたん)した声と共に、乳白色の壁に同化していたラクヨウさんがスゥと現れた。



 こんな熱い砂漠の中だというのに、ラクヨウさんは相変わらずの全身黒装束姿だ。


 暑くないのかな、と思うんだけど……。


「……あんまり乙女の身体をジロジロと見ないでほしいでござるよ」

「いやー。貴重なものだったので、つい。御馳走様です」 


 やっぱり暑かったらしく、ラクヨウさんのぷりっぷりの生太ももが汗だくになっている。


 汗まみれになっている美女もこれはこれで、そそるものがある……。



「ネクト殿?」


 おっと、殺気の篭もった目で見られてしまったぞ。うひひ、ゾクゾクするなぁ。



「さすがラクヨウさんだ。そちらこそ、普通に見ただけじゃ全然分からなかったよ」

「……誤魔化そうとしても駄目でござる。あとで受付嬢殿に報告、確定でござる」

「僕は嘘は言わないよ? 本当に凄いと思う。あと告げ口は勘弁してください、ごめんなさい」


 布の隙間から見える眼がジト目になっている。


 これ以上は本気で怒られるやつだ。今回はこの辺にしておこう。



「ネクト殿も……あれはスキルでござろう? 勇者の視界から一瞬で消えた時は(せつ)も驚いたでござる。いったいどんなスキルなのか、できれば教えてほしいでござるよ」

「ふふふ。じゃあ僕の彼女になったら教えてあげます」

「それは魅力的な提案でござるが、簡単には頷けないであるなぁ」


 あらら、残念。振られちゃった。



 でも僕の方は、別に方法は隠してなんかいないんだよね。


 僕のスキル、ジャンクション(連結)でこの部屋の壁と繋がって身体を擬態させただけだから。



 ちなみに僕がラクヨウさんが隠れていると気付けたのも、このスキルのおかげだったりする。


 壁と接続していた時に一瞬、壁以外の異物感があったから。



 キコリーフの城で彼女が壁に同化しているのを実際に見たことがあるけど、今回も同じスキルを使ったんじゃないかな。


 それもたぶん、隠れることに関してはラクヨウさんの方が僕よりも上位のスキルだ。


 視覚だけじゃなく、匂いや体温まで感じられなかったからね。



 いいなぁ、隠密術。頼んだら僕にも教えてくれないかな?


 彼女は僕のスキルが知りたいって言っていたけれど、正直言うと僕の方こそ彼女に興味津々になっちゃったよ。


 是非とも一度、ラクヨウさんにジャンクション(連結)してみたい。


 ……させてくれないかな。駄目?



「ともかく、この勇者クンもゲットできたことだし。一緒に僕らの国に帰ろうか」


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