酒呑童子と宵闇の無能姫
4。
優しい人達に囲まれて、学ぶことの楽しさを知った私は貪欲に知識を求めた。暇があれば王立図書館に通いつめた。きちんと働けば貰える身分証明書があれば、誰でも利用できると教えて貰ったからだ。そして、通う内に王立図書館の司書夫妻から養子縁組の話がきたことを、公爵家の家令のジョセフに教えられた。夫妻は勉強熱心で知識欲に溢れた子供を望んでいた。自分は呪い持ちで実の親からも棄てられる子供だと望まれるなんてあり得ない、なにか裏があるのではと、現在の職を失う恐怖で震えた。そんな私に夫妻はクロノス様薦めてくれた子供が私なんだと教えてくれた。
「とても綺麗な宵闇の瞳をした女の子がいる、あの瞳がキラキラ光るところを見てみたいんだ。」
クロノス様の言葉だと伝えられた。
頬に集まる熱がむず痒い。
夫妻は公爵家に縁があると話をした上で、元々、足しげく図書館に通い、黙々と独学で学ぼうとしている私の姿にちゃんとした教育を受けさせたいと思っていたことを話してくれた。今までの辛い経験を乗り越えてきたご褒美だと言われ泣いてしまったことを思い出した。
もとあれ、私は家族を得て、例の装置のお陰で国に貢献もできた。
新しい家では両親が家庭教師となって、家族が経営している事業所が行っている通信制の学園で卒業資格も貰えた私はダメ元で王城の試験を受けて、なんと合格した。
最初は普通に総務課に配属されたけど、実家に私が城で働いていることが伝わったらしく、どんどん閑職へと追いやられていった。今の部署も総務課の一部だけど、下請けの下請けっぽく、やる仕事と言えば、資料整理か、ゴミ集めってとこだ。職員寮で暮らす私は、そんな生活を送っていることを両親には言えなかった。だって、出来る限りの愛情と教育を受けさせてくれた彼らに報えないなんて辛すぎる。
しかも、未だに呪いが解けない私に解呪の報酬を支払えないことを負い目を感じさせているのに。
大穴の第一駐屯地となれば、簡単に帰ってこられない。大穴から漏れ出る瘴気(魔素)を防御結界魔術で防ぎながらの作業となる。私は魔術不適合者だから、それなりのお札を身に纏わなくてはならないし、本当なら支給されるはずなのに上司は予算がないの一言で切って捨ててきがた。実家にいる元父親は財務省にいて、この部署の予算を決める立場にいるから無理だと判断した。だから、いつも魔力注ぎの時に知り合った友人夫婦に自分で御札が作れないか尋ねた。持つべきは友である。
「大穴に行くのに御札の支給がされないなんて、あり得ないぞ!」
装置を作り上げた魔術省の技術開発部で働く友人は上に訴えてくれると言ったが、彼らに被害が及ぶのは嫌だったから事情を説明し、説得した。元父の所属先が財務省となると技術開発部の予算に影響が出る可能性を考えた。渋々納得してくれた友は御札の作り方を教えてくれた。装置を通した魔力は結界に八割、御札に二割変換されているそうで、望めば自分の魔力で作られた御札はただで貰えるらしい。ただ、一枚しか貰えないのでそこら辺は、友人達が融通してくれると言うことだった。大穴への派遣期間は3ヶ月。御札の効果も約3ヶ月だと聞かされた。派遣期間中に友人達が御札のことなどを自分達の上司を通じて訴えてくれたと聞いたのは派遣から帰ってきた時だった。
派遣が決まった時に例の事件?が起きた。ベヒモス、カオスドラゴン襲来である。
国中に響き渡るサイレン。誰もが怯えた。
王族を降り、公爵家となったあの方は先陣をきった。
どうか無事で!願わずには居られない。彼の活躍を聞く度に心が騒いだ。あの地獄から助けて貰った恩をまだ返せてないの!
時折、旅先で買ったお菓子や民芸品が送られてくる時があった。
自分が拾ってきた孤児に責任があったのだろう。
ちょっと意味の分からない物もあったけど、今の家に移る時にも持って出た。掌に収まる小さな人形を手に装置の元へと走る。
王族の方々が結界魔石の元へと走ったと聞いた。
公爵家閣下が総隊長として作戦本部に入られたと城内アナウンスが流れた。こうした緊急事態に備えて訓練をしていた私は、指定の装置の元へと走った。
大穴の調査をしていた部隊に被害が出たと耳にした。不安がよぎる。
場外に設置された装置には既に大勢の人がいて、友人を見つけた。
「ルチア!」
「フィン!」
駆け寄る。
「に、兄様が先月から第一駐屯地に派遣されてるの!ど、どうしよう、ルチア!兄様に、兄様に何かあったら!」
フィンは、技術開発部に勤めている男爵令嬢で学園を首席で卒業するほどに頭がいい。魔力保有量が少ないのを技術と知識量で補っている。
フィンのお兄さんは、義兄とは違い実力で王立魔獣騎士団に所属している。将来有望な青年だ。
「と、とにかく、注ごう!祈ろう!」
そういうしかなかった。