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酒呑童子と宵闇の無能姫

3。


捨てられた理由は、この見た目。痣が出始めたのは4歳頃。お母様が亡くなって暫くした時だった。『呪われている娘は我が家には相応しくない。母親に呪われてるんじゃないのか?とにかく、貴族の娘が醜い呪いの痣を身に纏っているのは、家の評判を落とす。お前は死んだことにする。』言われた言葉は忘れていない。魔術不適合者は働き口も少なく、下働き以下に扱われる場合もある。貴族に生まれた不適合者より、逞しい庶民の不適合者の方がまだ働き口がある。教えてくれたのは、私を買った裏社会で生きる男。ましてや、私は呪い持ちだ、まともな社会に出ても就職なんて絶対出来ない、平民の底辺の底辺まで落ちるしかないだろうなって言われたし、私も思っていたのに、拾われた。


この国の英雄の一人に。

その名は、クロノス・オーヴェルシュタイン、後のティガー王立魔獣騎士団長。王族から臣下になった元王子様だ。

彼の身分を知ったのは随分後だけど。当時の彼はまだ王子殿下で、10歳だった。母上であるナディア妃の命でスラム街への潜入視察に来ていた。視察なら一人で充分と供は誰もいなかった。(もちろん、侍従さんや護衛の騎士さん達は少し離れた所で待機。)突然入ってきた子供に組織は驚愕したらしい。当時から彼の力は大人を凌駕していたから。そんなスラム街の闇組織の視察がお題だったそうだ。(ナディア妃様からお題は壊滅だとクロノス様は受け取っていたらしい)10歳の子供に何させてんのと今なら思うけど、壊滅が出来たら二週間の武者修行に出て良いとナディア妃と国王陛下から言質をとったそうだ。実家から追い出され、貴族籍を失った私は、この闇組織に、小銭の値段で売られた。下女、奴隷として扱われたがそれは実家にいた時からだったので大したことではなかった。気配なく現れたクロノス様は、大男を引き摺っていた。

「なんだ、お前。こんな闇組織の地下で何してる?」

確かに地下に私はいた。

蝋燭しか灯りがなかった場所には月光が降り注いでいる。彼の濃い金髪にも光が降り注いでいた。

彼にとっては気紛れ。醜い呪いにかけられた私への施しに過ぎない行為。

「お前、すげぇ魔力持ちだな。えっ?魔術が使えなくて棄てられた?なんだ、それ。大丈夫だ、魔術が使えなくても問題ない時代はくる。」

彼は、実家に捨てられて、行くあてのなかった私を拾い、公爵家の下女として働かせてくれた。孤児院に行くのだと思ったが、教育も余りされてこなかった私に勿体なくも教師を付けてくれた。

「叔父上、こいつ、自分の名前がないだって、読み書きも出来ないんだ。」

強面の公爵閣下は、騎士団総隊長で黙ってるだけで人を殺せそうだった。夫人もキリリとしたカッコいい女性だった。男装の麗人と言うらしい。

「あなたは、学びたいか?」

呪いの痣がある私の頬に触れてくる夫人に驚いて一歩さがる。

「わ、私は、呪われてます。触れてはいけません。」

そういうと、夫人も閣下も笑った。

「自分のことより、私のことを心配してくれるのか、いい子だ。」

初めて頭を撫でられた。髪の毛を鷲掴みではない、叩かれた訳でもないのに涙が出た。


ティガー公爵家では、どんな使用人も文字が読めて、書けなければならないらしく、他の使用人や経営している孤児院の子達と一緒に文字を学んだ。優しい人には優しい人が集まってくれるのだなと思った。

公爵家の方々の恩に報いたい。私は、使用人の仕事も進んでした。魔術がなくても時間がかかっても丁寧にすることを心がけた。

家政婦長のイザベラ様は、男爵家の出身で魔術が使えない使用人が仕事をしやすいような工夫をしてくれて小さな魔石を用いて掃除や洗濯をする方法も教えてくれた。

「魔術や魔石を用いて仕事をするのは容易いわ、けれど、どんな仕事も心を込めてしなければ色褪せて見えてしまうものよ。ルチアの仕事はとても気持ちの良い仕上がりだわ。頂いた名前の通りね、キラキラしてる。」

イザベラ様以外の仲間達も褒めてくれた。

ルチア。それが私の名前だ。

呪いに負けない光が私を包み込みますようにと夫人が付けてくれた。

大切な名前だった。




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