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橋姫の良薬と騎士様の毒薬②

ルーカス・ライダースには兄がいる。将来侯爵家を継ぐライナスが。元々は兄弟でジオン殿下の護衛騎士だった。兄とは5つ年が違う。代々武門の家で、幼い頃から剣と魔術の腕前が天才的と言われ、兄の勧めで騎士を目指し、15の年で兄と同じ立場となった。兄よりも優秀だとの自負もあった。その驕りが殿下拉致に繋がった。見つかった殿下の姿に自分の罪を知った。兄弟共々護衛騎士の辞退を願い出た。しかし、目覚めたジオンから辞退は許されなかった。周りからの非難の目に耐えながら殿下の護衛を続ける。兄は、周りの目よりも殿下の命を優先出来る騎士だったが、エリート意識が高く、少々傲慢だったルーカスは初めての挫折を味わった。

その上、愛する妹が病に冒されている事実を隠されていたことで荒れた。妹が医療魔術でも手の施しようのない痛みと戦いながらルーカスのことを気遣い、微笑む姿に情けなくなり、ますます落ち込んでいった。

すると、兄に殴られた。

圧倒的な力だった。兄よりも優秀だと驕っていた心も折れた。

そして、主からヨアンナ・ロッドと言う薬剤師の護衛を命じられた。

ジオン殿下の護衛から外されたことで、其までのルーカスに対して蟠りを持っていた騎士仲間の溜飲が下がった。

護衛対象となったヨアンナはロイヒシュタイン公爵家の侍女だった異例の経歴があった。結婚適齢期をとうに過ぎた女性だった。

独自ルートで薬の材料を採取しているらしく、ルーカスを良くまいた。

そして、妹の緩和医療のためにライダース家に派遣されたのもヨアンナだった。

「ああああなたは、貴女として、この世を去りたいですか?」

妹、ルーカス、そして、ヨアンナしかいない部屋で問う。

「どういう意味だ?」

「わわわ私の開発した薬、病、そのものを消す力ある。けれど、人間の魂に干渉するから、病は治っても人間としては生きられない。」

兄妹は目を見開く。

「この薬ではなく、鎮痛剤での痛みの調整をするなら、最期は眠るように死ねる。その時がくるまで、貴女は貴女として死ぬことができる。」

ルーカスは病を直してもらえと言った。妹は答えない。

「この薬を使うと魔力の強い者に従うようになる。力こそ全てと考えるようになる。家族との記憶もなくなる。理性が保てなくなる。」

力こそ全て。

ヨアンナは違うが、本来の鬼の本能だ。彼女は、鬼姫と出会い、接することで本能ではなく、理性で動けるようになった。理性を得ることで研究が一層論理的になり、大幅に成功率が上がった。

(この薬は、鬼の魂を持つ者にとっては、万能薬なんだけど、人間の魂には猛毒だ。)

ルーカスは悩む。妹を苦しめる病そのものは取り除きたい。けれど、妹ではなくなるとヨアンナは言った。

「い、妹の自我を保ったまま、病を消すことは……?」

「この国(世界)の文献に“エリクサー”と言う万能薬のことが書かれてあった。しかし、材料が揃わない。天上界に実ってる桃など取りに行きようがない。天上界がそもそも存在する場所なのかも不明。あと、ドラゴンの鱗が必要。しかも、七色揃えろとか無理難題。」

淡々と語るヨアンナに妹が言った。

「私は、私のまま死にたい。」

その後の疼痛緩和は困難を極めた。人間の適量、しかも、元々の生命力値も低い人間の適量はヨアンナにも手探りで、改めて人間の脆弱性を思い知った。しかし、ルーカスの妹はその魂の質が高く、強かった。前世の自分なら迷わず狩り取るほどに。

程なくして妹は亡くなり、ルーカスはヨアンナに懐いた。

「解せぬ。」

今日もヨアンナは呟くのであった。


ルーカスは、護衛をする内にヨアンナがとてつもなく強いことを知った。

「ルーカス様、貴方は弱い。護衛対象に護衛される騎士など意味がない。」

いつも辿々しく喋るくせに本当に語りたいときは怖いくらいに凜とするヨアンナ。そのギャップにルーカスは心が射抜かれていた。

今までの傲慢さが消え、ストイックに鍛練に励むルーカスに周りの目も変わっていく。

ある日、ジオン殿下に呼び出されたルーカスは自身の近衛に戻るかと言われたが、

「今、ヨアンナ嬢を口説いている所なので、お断りします。」

今までのルーカスなら、出世をとっていただろう。ジオンは心から笑い、兄は驚いた。

「ヨアンナは、人の機微に疎い。だから、押して押して押しまくれ。でなければ気付いてはもらえんぞ、」


ルーカスは、ヨアンナに愛を囁く。来る日も来る日も。ヨアンナは抗う。自分は普通の令嬢とは違う、虫も蛇も平気で、魔物すら薬草のために扱うと。しかし、ルーカスは折れない。ヨアンナは強い、けれど、そんな貴女の側にいたいのだと、例え足手まといになったとしても、貴女の側にいたいのだ、最期の時も貴女の前で迎えたいのだと語る。

「それと、私と結婚すれば、父から子爵位を受け継ぐ。そうしたら、貴女の敬愛するロイヒシュタイン公爵令嬢とも御近づきになれる、可能性がある!」

ロイヒシュタイン公爵家をクビではなく出た経緯をジオン殿下から聞いたとルーカスは告げる。

平民であるヨアンナは表立って、公爵令嬢と話は出来ない立場となった。許しが出るまで夜の座談会への参加も許されていない。鬼の仲間は大型猫となった虎熊だけ。

ルーカスは弱点を付いてきた。

「ルーカスは、ずるい。」

甘い言葉は毒のようだとヨアンナは頬を染めた。


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