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橋姫の良薬と騎士様の毒薬①

「ひひひひ姫様の命でなければここここんなと、ととところになど、」

目の前のガラスの器具。

その前で強がる言葉はいつものようにどもっている。

「好きでしょ、こういう環境。」

薬草の匂い。

まだ、彼女のいる部屋には満ちてはおらず、僅かに匂ってくる。

「わわわ私は、ひ姫さまの側に!」

「その姫の願いを叶えるのが君の本願でしょ。」

にこやかに答えるのは、崇拝する姫の愛する夫である。

ここは、王立薬学研究所。

生活に役立つ薬の精製、研究をする場所。万能ではない魔術を補い、特に凌駕する効果をもたらす薬学。

ヨアンナ・ロッドは、ロイヒシュタイン公爵家で虐げられていたブランカを陰ながら助けてくれた侍女だった。

公爵家乗っ取り事件の被害者だったが、死ぬ間際、彼女の体の中に鬼姫の眷族が魂ごと住み着いた。消えていくヨアンナの魂の記憶を読み、他の眷族同様、「本人の記憶を元に生きてゆけ、記憶が愛するものを愛せよ」と主に命じられたが、如何せんヨアンナの魂が少なかった。

何せ例の事件の際、一番先に命の灯火が消えそうだったのがヨアンナだった。

「おかしいと思ったのよ……。ヨアンナとの会話が弾まないのだもの。」

姫の言葉に頷く面々。屋敷の人間達が寝静まってから行われる深夜の座談会。

「元いた使用人達が、ヨアンナを怪しんでます。」

苦笑しながらアルフォンスが言う。

元々屋敷にいた面子で、眷族に体を与えたのはヨアンナだけだ。リチャード、サンディ夫妻は元々はブランカの祖父母の使用人で通いだった。

「ヨアンナは、確か身寄りがなかったわね。」

と仲間の一人が言った。

「私の記憶では、家族を魔物に殺されて一人助かったのですって。助けたのがお母様と相棒の騎獣のグリフォンだったらしいの。お母様がまだ嫁ぐ前の話で、ヨアンナはロイエンタール領の孤児院に預けられて育ったのよ、成長してお母様が恩人だと知るとロイヒシュタインに押し掛け侍女としてやって来たの。ヨアンナの基本情報だけど、橋姫は理解しているかしら?」

可愛らしく首を傾げる姫の微笑みに一瞬見とれた後、ハッとなり、皆の視線に目を伏せた。

((((やっぱり。))))

前世名、橋姫は、かつて毒のスペシャリストだった。毒を用いてたくさんの人、鬼、獣を殺してきた。実験が大好きな鬼だった。自分の知識欲のために手段を選ばなかった。自分の作る毒には絶対の自信があったのに敗れた相手、それが姫こと鈴鹿だった。互いに命を削り会うような戦いだったが、毒を受けながらも毒の解毒に瞬時に対応し、優れた知識を身に付けていた鈴鹿に心酔し、許しがない以上人を殺めないことを条件に鈴鹿の眷族になった。

新しい毒が出来る度、仲間がある程度の『毒耐性』を身に付けているのをいいことに、何度、実験台にされたか分からない。橋姫、別名毒姫の名に恥じぬ行動をしているだけと吃りながら言う彼女に腹を立てバトル勃発になったこともあった。その度、鬼姫の大事にしていた菊の鉢植えや旦那様の盆栽が被害に合うため橋姫は無自覚な問題児として、拳骨をよく食らっていた。野放ししてはいけない鬼と認識されていた。

新しい世界に大好きな姫と仲間達と移り住み、高貴な姫の世話をする優秀な侍女の体も手に入れた。

なのに、姫から離れた場所で働けなどと言われたのだ。

他でもない姫に。

姫曰く、

「優秀だったヨアンナより、日常生活系落第者である橋姫の意識が強すぎるの分かってるのかしら?貴方の自我が強すぎて、屋敷の者達の目も誤魔化せなくなってしまったことを自覚なさい。暫く趣味に没頭したら、冷静になれるのではと旦那様と考えたのよ。」

やんわりと告げられたロイヒシュタイン公爵家からの戦力外通告だった。

「普段、草とか、虫とかに触れ合ってたのに、かけ離れた生活をしてる女の体を貰っちゃって、ストレス溜まったんでしょ。これ以上のやらかしは、おひいさんに、愛想尽かさ……心配されちゃうよ。」

ヨアンナの体で蛇や蜥蜴を平気で掴み、嬉々として皮を剥ぐところを使用人に見られてしまった。

記憶を消すことなら姫には容易かったが、ヨアンナのやらかしは、キリがなかった。

「可愛い子には旅をさせろと言うでしょう?ここでの奇行が誉められる場所に行って、人の暮らしもついでに学んでらっしゃい。人間は、我々に比べたら、余りにも脆弱よ。だから、上司の許可のない人体実験は禁止します。」


王立薬学研究所の寮に入れられ時折定期的にやって来る虎熊に姫の近況を聞いたり託したりして過ごしている内に落ち着いてきた。

虎熊を通してのみ、連絡可との制限までされてしまったため、虎熊は大忙しだ。けれど、姫との距離感もこれくらいが丁度良いと思えるようになったし、僅かに残ったヨアンナの魂の記憶との折り合いもつけた。


「ヨアンナさん、マジで北の森に行くっすか!」

最近仲良くと言うか懐つかれた子犬系の2つ年上の護衛騎士。

研究所には機密も多いため高位薬剤師ほど護衛が付くのだ。

「ししし新鮮な材料こそ、りょりょりょ良薬の基本。」

北の森は、大穴に近く、瘴気と呼ばれる魔素が強い。

「だ、……ジ、ジオン殿下からの許可証貰ってる。」

ヨアンナは、基本そこら辺の魔獣や魔物より遥かに強い。正直言って護衛など必要ない。

しかし、ルーカスの妹の緩和に関わったことで縁が出来た。医療魔術も匙を投げる痛みに対してせめてもの安楽をと研究所に依頼がきた。人としての自我を保つように痛みを取る薬草の調整はとても難しく橋姫に改めて人間の脆弱さを知らしめる経験となった。

以降、人間としての良心を喚起するためにジオン殿下より付けられたのがルーカスだった。


ちょっと長くなった。

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