俺と君の1つ目の願い3
ポップコーンとジュースを買った俺達は、中に入れるようになったから列に並び、買った席へ向かった。
「……なぁ弓宮三結さん、本当にこれに座るのか?」
「なんで急に星児君は、私の事をフルネームで呼んだのかな? もちろん買ったんだから座るに決まってるよね?」
「ですよねぇ……」
三結はあっけらかんとそう言ってきたが……カップルシートだから距離が近いのは、何となく理解できる……だけど、なんで寝そべれる様なシートになってんだ!?
「寝そべりながら映画見れるってなんか良いね! ほら、星児君も早くおいでよ♪」
俺の心配を他所に三結は既に寝そべっていた。制服のスカートから出てる太ももとかに視線が釘付けになりそうなのに、三結自身は全く気にしてない感じで、なんだかドギマギしてる自分が変なのかと錯覚させられるほどだった。
「今座るところだよ」
俺は極力平常心を装い、普通に座った。意外とシート自体の座り心地はかなり良かった。俺が座ってたら突然袖をグイグイと引っ張られる感覚がした。
「ねぇ、なんで横にならないの? ……もしかして、緊張してる?」
「そ、そんなわけないだろ? ほら、これで良いだろ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた三結に、内心ドキッとしながらも俺は横になった。すぐ横を向けば、今日話したばかりのクラスメイトの顔が近くにあって、落ち着かなかった。
暫くしたら、部屋全体が暗くなり映画が始まった。映し出される映像を見ているが、全く頭に内容が入ってこなかった。
視線の横にチラチラ三結が見えるが、それは普通のシートでも見えるから気にしなかったのだが、映像を見ようとしたらどうしても三結の足が見えてしまうのだ。俺は時々動くその足に毎回視線だけで反応してしまっていた。それに距離が近いせいもあり、凄く甘い香りが三結からしていた。
気がつけば映画も終盤で、告白してるシーンが映し出されてた。映像はヒロインが涙を流しながら、好きな人と付き合える事がとても嬉しく、主人公を思いっきり抱きしめていた。そうしてすぐにエンディングが始まり、映画は終わってしまった。
映画が終わると室内は一気に明るくなり、明るくなったと同時に、三結も何か慌てた様子で俺から距離を取ってた。
「と、とりあえず映画も見たし行こっか?」
「そうだな」
俺は立ち上がり、背伸びをして映画館を出た。
映画館を出た後スマホを見たら、晩御飯の時間にちょうど良かった。俺はどうせならこの辺で食べようと思い、三結と解散しようと考えた。
「とりあえず、これで1回だからな」
「もう、そう何度も言わなくてもわかってるよ」
「それじゃ、俺はこの辺で飯食べて帰るから解散でいいよな?」
「え? 星児君、家でご飯食べないの?」
「ま、まぁアレだ、今日は親にバイトあるって嘘ついたからな。 普段はバイトある時、賄い出るからそれですませてんだよ」
俺は三結の質問に対して、まるで誤魔化すように説明した。だって仮に、家で食べてないなんて言ったら、絶対面倒なことになるのが、予想出来たからだ。
「ふーん……まぁ、なんで嘘ついたかは聞かないようにするよ」
「そうしてくれると助かるな」
「なら、どっかで食べて帰ろっか♪」
「そうだな……って! もしかして、弓宮さんも来るのか!?」
「いいじゃん♪ 折角なんだし一緒に食べて帰ろうよ♪」
何故!? なんで、三結まで一緒に来ることになってんだ!?
「そ、そんなこと言っても、急だし弓宮さんの親も困るだろ?」
俺は、どうにかして一緒に食べに行くのを阻止しようとしてたが、三結はずっとスマホを弄ってた。
やばい! 今絶対親に連絡してる! 無理だと言ってくれ!
俺がそう願ってたら、三結はスマホをしまって、ニッコリして俺の方を見てきた。
「親の許可貰っちゃいました♪ さぁ、これでなんの問題も無く行けるね♪ 何食べようか? 星児君何処か決めてたりする?」
「いや特には……って、本当に着いてくるのか!?」
「だってもう親に晩御飯いらないって伝えてるし、外で食べなきゃ私、今夜晩御飯抜きになっちゃうよ?」
「そ、それはそうだけど……」
「まぁまぁ、星児君が決めてないなら、私が行ってみたいところでもいいかな?」
「はぁ……わかった。 弓宮さんの行きたい所に行こう」
俺は諦めて、三結と一緒に食べに行く事にした。なんで今日に限ってこんなに面倒な事が続くんだよ……はぁ、面倒臭いな……
俺は、また思考が沈みそうになってた。周りの音が雑音に聞こえ始め、嫌な方へばかり思考を巡らせそうになった時、不意に俺の腕が引っ張られる感じがした。
「ふふっ♪ ありがとう♪ ほらこっち、早く行こ」
そう、三結が俺の腕を引っ張ってたのだ。俺はそれに気がついた瞬間、周りの雑音が消え、いつも通りに戻っていた。今まで隆司が何度話しかけてきたり、触れてきてもこんなに直ぐに戻った事が無かったのに……
俺は何故いきなり戻れたのか理解できずに腕を引っ張られても動かず、ただ三結を見つめていた。
そんな俺の様子を不思議に思った三結は、俺の近くまで寄ってきて、下から見上げるように俺の方を見てきた。
「そんなに私を見て、星児君どうしたの? 何処か調子悪いのかな?」
「え? い、いやそんな事は無いから、少し考え事してたんだ。 ほら、弓宮さんの気になる店に早く行こうか。」
「もう……そんなにお腹すいてるなら、早く行こ♪」
そう言って、俺の腕を掴んで離さない三結と一緒に晩御飯を食べに行った。
まぁ……偶然すぐ戻っただけだろう。 俺はそう思い、それ以上は考えないようにした。