俺と君の1つ目の願い
放課後俺は家に帰らず、図書室に向かっていた。
朝母さんにバイトと言っていたが、実は休みだったのだ。ただ、一緒に食事をしたくないから着いた嘘だったのだ。
図書室は、誰もいなく静かだった。
とりあえず勉強でもやるか。俺は適当な席に座り、カバンから教科書とか取り出して勉強を始めた。
ある程度まで勉強を終えた俺は、ふと今日のことを思い出してた。弓宮三結か……アイツのせいで今日は散々な日だったな……
なんか抜けてるのか、真面目なのかよく分からない感じだったしな。てか、普通初対面の男子にあんな事するか? でも……なんかあの笑顔が頭から離れないんだよな……視線が合っただけでなんか恥ずかしくなったし……
俺はそんな事を考えながら、おもむろに開いてたノートに文字を書いていった。
『迷う君に苛立つ俺は 気づけば君に怒ってた
言わなくてもいいことまで言ったのに
勘違いした君は 俺に礼を言ってくる
束ねた栗毛を靡かせながら
少し不思議な栗毛の君と 再びあったその時に
ふとした事で怒りだし 気づけば皿にサーモンフライ
皆が驚くその顔に 何故か驚く栗毛の君
本当は素直にお礼を言いたい だけどできないダメな俺
大きな声で怒鳴って怒り さっと逃げてくダメな俺
だけど最後に礼を言い さっさと消えるダメな俺』
……何書いてんだ俺? はぁ、勉強のし過ぎで頭が疲れてるのかもな。 チラッと時間を確認したら、あと1時間ほどで、図書室が閉まる時間だった。
日も傾き、窓からは夕日が差し込み、図書室をオレンジ色に染めていってた。
俺はまだ時間があるからと、荷物をそのままにして、飲み物を買いに行った。
俺は学校にある自販機で珈琲を買って飲んでから、図書室へ戻ることにした。なぜって? 図書室では飲食が禁止されてるからだよ……
図書室に戻った俺は、ちょっとした違和感を感じた。
ん?……誰かいるのか? 俺は、開いたままのノートを思い出して、慌てて席へ向かった。
あんなの誰かに見られたら、俺の高校生活が終わっちゃうだろ! だが……無情にも俺が座ってた席に、1人の女子生徒が居た。 そう……1番見られたらいけない人物で、なんでここに居るのかわからない人物……弓宮三結だった。
俺は三結に気が付いた瞬間、全身の体温が下がる感じがし、暑くもないのに身体中から、冷たい汗が出てきてる感じだった。
「あ、あの……何してるのかな?」
「ひゃっ? ……えっと……やつ……星児君? な、なんでここに?」
俺が急に声をかけたら、三結はビクッと肩を上下させ、そっと振り向き、俺を確認するや視点を泳がせながら、苗字じゃ無くて名前で呼んできた。
夕陽が差し込む淡いオレンジ色の光に照らされながら、慌ててる三結を見て、俺は一瞬胸がドクンと大きく弾む感覚がした。
「い、いやそこで俺勉強してたんだけど?」
「えっ? あっ、これ星児君のノートだったのね……」
そう言いながら三結は、チラッと開いてるノートに視線を向け、俯いてしまった。 俺は、その開かれたノートを見て完全に凍りついてしまった。だって、開いてるページがあの文を書いてたページだったからだ。
「い、いやこれは……」
「これ……私の事だよね?」
「そ、それは……」
「栗毛にサーモンフライとか、お昼の時の事と私の事だよね?」
俺が口を開いたら、三結は俯いた顔を上げ、俺の方を見てきた。そして、ジーッと俺の方を見て徐々に追い詰めるように、俺に確認してきた。
「そ、そうだよ! その悪かったなこんな気持ち悪い文章見たら嫌だろ? もう書かないからこの事は、誰にも言わないで欲しいんだ。 たのむ!」
俺は両手を合わせ、拝むように必死に三結に頼んだ。 もしこの事がバレたら……そう思ったら……やっぱ、それだけは阻止しないと!
三結は何も言わず、顎に手を当て考え始めた。暫くして、何かを思いついた三結は、ニコニコしながら俺の方を見つめてきた。 俺は何を言われるのか分からず、怯えながら口を開くのを待った。
「ねぇ星児君は、この事を誰にも知られたくないんだよね?」
「はい……」
「サーモンフライ貰った事を、お礼が言いたいんだよね?」
「はい……」
「いきなり怒鳴るから、私怖かったなぁ~」
「それは……理由も知らなかったのに、急に怒鳴って悪いと思ってます……」
「あの時、言わなくてもいい事まで、言って怒ってたんねぇ~」
「そ、それはなかなか決めないからつい……」
「私今日初めて学食利用したんだよねぇ~ だから、勝手とかわからなかったんだけどなぁ~」
「そ、そうだったのか……話も聞かず、怒って悪かった」
俺はただ、素直に質問を答えたり、謝る事しか出来なかった。
それに、なんでそんな事を聞いてくるのかわからずにいた。
「つまり星児君は、全部で4つ私に申し訳ないとか感謝してるって事だよね?」
「え? ……そ、そうなるのかな?」
「そうなるんだよ? だから星児君には、私のお願いを4つ聞いてもらいます♪」
「はぁ!? なんでそうなるんだよ?」
「あれ、良いのかな? 私喋っちゃってもいいのかな?」
そう言いながら、三結はその幼げな顔に笑みを浮かべ、どこか小悪魔みたいな笑みを感じた。俺はもしかしたら、恩を売ってはいけない相手に売ってしまったのかもしれない。
「そ、それは困る! わかった……俺ができる範囲でいいって事なら、願い叶えるよ」
「やった♪ 約束だからね? それじゃ、早速1つ目お願いしようかな♪」
「え!? もう1つ目使うのか?」
「もちろんだよ! ……ってもうこんな時間! 行きながら説明するから星児君早く荷物片付けていくよ!」
「ちょ、いきなりなんだよ!」
三結は話しながら何かを思い出し、時計を見て慌てて俺を急かしてきた。 俺は、わけも分からず急いで教科書とかをカバンに詰め込んで、三結と図書室を出て下駄箱に向かった。