娘と1冊のノート
来ていただきありがとうございます!
「ほら、もう寝る時間だから、読んで欲しい絵本持っておいで」
「はいパパ、今日はこれ読んで!」
そう言って娘は艶のある漆黒の髪をなびかせ、1冊の古びたノートを持って、トテトテと可愛らしく歩きながら、ベッドの中に潜り込んだ。そんな微笑ましい娘を見て笑みが零れたが、俺は娘が持ってきたノートを見て、思わず笑みが凍りついてしまった。だって……そのノートは、高校生の頃にある詩を書いた、黒歴史そのものだったからだ。
「ねぇ唯花、そのノートだけど、どこで見つけたのかな?」
俺は、恐る恐るノートを受け取り唯花に聞いてみた。唯花は、「えっとね、えっとね」と顎に手を当てて考えてる素振りを見せ考え始めた。一体その仕草は、誰に教わったんだよ……
そんな事を思ってたら、唯花は、「思い出した」と言って、俺の方を嬉しそうに見てきた。
「今日ママが、押し入れ掃除してたら出てきたの! ママが最初に中身を読んで、クスクス笑ってたから、面白いお話なんだと思って、持ってきたの!」
そう言って口元まで布団を被ってる唯花は、クリっとした大きな瞳をキラキラ輝かせながら、じっと見つめてきた。俺は、ただ乾いた笑み見せる事しか出来なかった。俺は読むべきか誤魔化すべきか悩んでいた。
「ねぇパパ、早く読んでよ!」
なかなか読み始めない俺に、唯花はむくれてしまい、そう言って布団から顔を出し、頬をプクーっと膨らませ、怒ってますアピールをしてきた。うん、凄く可愛らしい!
俺は諦め、唯花の両頬に手を添え、プニっと柔らかい頬を挟んで、空気を抜いた。唯花は「プシュー」と可愛らしい声を出していたが、それでも不機嫌なままで、眉間に皺を寄せ、ムッとした顔で、ジトっと見つめてた。
俺は思わず、妻が拗ねてる時とそっくりでクスッと笑い、拗ねてる唯花の頭に、そっと手を置いて、ゆっくり撫でながら話した。
「そんなに拗ねるなら、読むの辞めようかなぁ~」
「読んでくれるの? 拗ねるのやめる!」
そう言って、無邪気な笑みを浮かべ、瞳をキラキラ輝かせてた。俺は、ノートを捲り、一つだけしか書いてない詩を読んであげた。
「人を信じず自分が嫌いで、拒絶の黒で染った景色と、ノイズだけのこの世界。
抜け出す術も分からなく、藻掻く事も諦めた。
ある日君が現れて、僕の世界を変えてった。
いつしか芽生えたこの想い、今はまだ言えないけど、いつか想いを伝えたい。
洒落た事は言えないし、ありふれた事しか言えないが、2文字じゃ足りないこの想い、5文字に込めて伝えたい。
そよ風みたいな優しさと、太陽みたいなその笑顔。
眩しい程に輝く君に、僕の想いは陰ってく。
君に出会う昔の僕が、悪魔の様に囁きかける。
「また1人になっちゃうよ?」
絡め取られたこの想い、呪いの言葉に抗えず、踏み出せないこの1歩。
君は優しく微笑んで、僕が来るのを待っている。
天使の様なその笑みは、僕に勇気を与えてくれた。
今こそ想いを伝えたい。
ムードは全くないけれど、シンプルな言葉しか出ないけど、スキじゃ足りないこの想い、アイシテルに込めて伝えたい」
俺は、必死に照れ臭さと恥ずかしさを我慢しながら、読み上げた。流石にまだ小さい唯花には、難しかったらしく、「うーん、うーん」悩んでるようだった。
「難しくて、よくわかんない!パパ分かるようにお話して!」
「そうだなぁ……」
俺は少し考えて、ゆっくりと話し始めた。
「昔ある男の子がいました。その男の子は……」
そう言いながら俺は昔を思い出し、懐かしみながら、ゆっくりと唯花に昔話を話し始めた。もちろん詩の続きも含めてだ。