白竜
目の前には、高さ5メートル全長10メートルほどの、大きな、白い竜が、いた。
「、、、、、、、、、」
この白竜に比べると先程追いかけられていた小型の竜は、まるでトカゲの様。
本当の、竜が、そこにいた。
言葉が出ない。
その美しさに。
この竜に殺されるのなら、それも構わないと思うほどに。
太古の昔、世界を支配していたという竜。先程の小型のどう猛な竜が世界を支配していたと思った。
弱肉強食、数で圧倒して弱者を虐げて統治する、のかと思った。
しかし、この白い竜ならば。
どの様な生き物でさえも、従うだろう。
その目で見つめるだけで。
白竜はパブロを見つめている。
パブロは動けずにいた。
その時がどれほど続いただろう。
その静寂を破ったのは
×××「お待ちしておりました、パブロ様」
少しキーの高い女性の声だった。
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そこに現れたのは、兄たちが血眼になって探している、王女様だった。
パブロ「お、、、」
王女様、と言おうとするが言葉が詰まる。
ここのところ急展開が多すぎて思考が間に合わない。
驚くべき事ばかりだ。
王女様は白竜に手をやり、
王女様「彼を助けてくれたのですね。ありがとう。」
と、やわらかい声を白竜にかけていた。
クエエエエエエエエエエエエ
白竜は余程嬉しかったのか、雄叫びを上げる。
そして大きな翼を、、、
ばさっばさっ
と、二度ほど羽ばたき、空へ飛び上がる。
空へ。
、、、その一連の動きは実に無駄がなく、美しかった。
まるで白竜の周りだけ重量が無くなったかのように、実に軽やかに。
パブロが、じっと、その姿に見惚れるほどに。
ふと、、、
気がつくと、白竜の姿は見えなくなっていた。
「あれ、、、、」
「消、えた、、、、、?」
自分が呆けていたのか、白竜が消えたのか。
とにかく姿が見えなくなってしまった。
ふふ、
と、微笑む声
王女様「彼は一箇所に留まっているのが苦手な様ですね」
空を見上げ、まるで、子供のやんちゃぶりに困っている保母さんの様に肩をすくめる王女様。
王女様「さて、パブロ様。」
白竜を見届け、王女様はパブロに向き直る。
パブロ「は、はい、、、」
聞きたい事は山ほどある。
何故ここにいるのか、さっきの白竜は何なのか、父はどこにいるのか、一体何が起きているのか
王女様「私に聞きたい事があるのは重々承知です。ですが、まずは私に付いてきて下さい。
話はそれからしましょう」
と、言うと、こちらの返事を待たぬまま、王女様は何処かへ歩き出した。
パブロ「あ、あの、王女様っ」
呼び止めようとするが
王女様「こちらです。付いてきて下さい。」
王女様はこちらに合わせる気はさらさら無いらしい。
早足で歩いていく。
とにかく付いて行くしかない。
パブロもまた王女様の後を追い、歩き出す。
王女様「ごめんなさい、パブロ様。時間が、無いのです。」
声だけでパブロに急ぐ理由を簡潔に伝える。
「は、はい。分かりました。」
(時間が無い、、、か、なんだろう。
父さんも、一緒にいるんだろうか?)
そして、王女は崖のふもとにある割れ目の中にスルリと入ったいった。