谷の下で
はあ、はあ、はあ、
この先は生きては帰れぬとされる死者の谷。
(、、、、引き返せ!)
後ろからも死が迫ってきている
(、、進むしか、、、、、)
こんな森の奥には行った事がない。
脇見をすれば、人の骨がちらほら見て取れた。
森の奥に行ってはいけない、という騎士の教えは脅しや吹聴ではない。
俺が知るだけでも何人もの騎士がこの森に入り込み、帰ってこなかった。
さらにはこの辺りに出る変質した獣は常軌を逸して、魔獣と呼ばれる。
それはこの世の生き物ではなく、地獄に住む魔物、と言われても頷くしかない。
そんなモノと出会えば後ろの竜どころではないだろう
ならば何故俺は前に進んでいるのか、、、、
それは後方の確実な死から逃げているだけだ。
なにか奇跡が起きるかもしれない、
もしくはこちらの魔獣の方が楽に自分を殺してくれるか、、、
そんな一抹の希望に賭けての前進だった
何か、、、、奇跡が、、、、
!?
すると森を抜けた。
魔獣に会わずしてこんな所まで来れるというのは運が良いとしか言い様がない。
いや、もしかしたら本当に奥地には何も無くて、このまま森を縦断出来るかも
なんて考えが浮かんでくる
馬はもう限界だが
馬とて走らねば死ぬだけだ。
それは馬も分かっているのだろう。
文句を言わずに走ってくれている。
「すまん。もう少し頑張ってくれ」
そして森を抜け、少し走ったところで
ズルッ
馬が足を滑らせた
「うわっ!」
落ちる
落馬をする
ああ、これで終わりだ
落馬をすれば死ぬだけだというのに
ここで俺は落馬をして、竜に追いつかれて
喰い殺される
その光景が目に浮かぶ
まいった、、、、
俺は、ここまで、、、
だ、、、、、、、
そして
俺は
地面に激突
激突
しなかった。
そこに地面は無く
代わりに黒い空間があるだけだった
「うわああああああああああ」
落ちて行く
どこまでも。
馬と共に
果てしなく落ちる
どこまでも
どこまでも
どこまでも、、、、
、、、、、、、。
、、、、、、、。
、、、、、、、。
「ん、、、、、、」
気がつくと体全体を草木で覆われていた。
手、足、体と植物のツルに絡まり僅かに体が地面から浮いていた。
「なんだ、、、、?」
周辺をを見れば折れた木の枝が散乱していた。
ズキン、、、、
体全体が鈍い痛みを発する。
「いてててててて、、、、」
ふと隣をみると先程まで一緒だった馬が佇んでいた。
「そうか、お前も無事だったのか、、。
良かった。」
、、、しかしながら俺の声掛けに馬は全くの無反応。
俺の言葉など、右から左。
馬は優雅に佇んでいる。
、、、まったく、俺と君は一緒に死地を乗り越えた盟友だと言うのに。
、、まあ、いいさ。
体に絡まったツルを外し、立ち上がる。
足元は膝の高さまで深い草木で覆われていて、まるで弾力のあるベッドにいるよう。
隣には大きな木の幹。
、、、俺は大きな木の根元にいるようだった。
ズキン、、、、、
また鈍い痛みを感じる。
「いててててて、、、、」
「えっ!?」
立ち上がり、周囲を見て驚いた。
草木に覆われているのは自分の周囲2メートルのところだけだ。
その2メートルより外は硬い岩場で草一本生えていない。
冷たく、枯れた大地。
、、、まるで生命の息吹を感じない。
死、を連想させる、、、
そして、、、、
「人の、、、骨、、、、」
そして、そう。
その岩場の至る所、
人の骨が散乱している。
所によっては山積みになっている箇所もあった。
、、少し歩き状況を確認する。
ここは、深い、大きな谷の下だ。
自分のいる周囲に生えている植物がうっすらと発光しているようで(不思議だ)、
そこだけ明るいだけで辺りは暗闇に覆われていた。
10メートル先は何があるのか全く見えない。
「ここが、、、、死者の谷、、、、」
そう、誰にそう言われた訳でもないのにここがその、死者の谷だと、肌で感じ取れた。
死者の谷、、、あるとされていた所、、、誰も確認していない場所、、、そこに近づいた者は生きて帰れない場所、、、、
生きて、帰れない、、、、、
上を見上げる。
よく、先が見えないが、そうとう切り立った崖だ。高さは、、、50メートルくらいはあるだろうか、、、
登る、というのは考えられなかった。
「とはいえ、、、、よく助かったものだ。」
そう、俺は落ちたのだから
、、、あそこから、、、、
切り立った崖を見上げる。
あそこから、ここへ。
ちょうど、この木の根元に向かって。
、、、きっとその位置が30センチズレていただけでも助からなかっただろう。
まさに奇跡、、、というやつだろう。
「生きて帰れたら、さらに奇跡なんだけどな、、、、」
ここは生きて帰れないとされる死者の谷。周辺のシャレコウベの仲間入りは避けられないのかもしれない。
「餓死で死ぬのと竜に喰い殺されるのはどっちが良かったかな、、、」
比べようもない、無為な疑問だった
「さて、、、これから、どうしたら、、、、」
馬は何も答えてくれない。
状況が分かっているのか分かっていないのか、ただ優雅に佇んでいる。
「そういえば竜は上にいるかな、、、」
この切り立った崖を登ったところで竜に喰い殺されて終わりそうだ。
万事休す。
結局、結果は同じだった。
それが先延ばしにになっただけ、、
ならば、、、、
腰にかかる剣に手がかかる。
苦しんで、死ぬならば、いっそ、、、、
そんな考えを頭がよぎった時、、、
ずしっ、、、、ずしっ、、、、
「!?」
、、、、と、
大きなモノの足音が聞こえた。
ずしっ、、、、ずしっ、、、、、
巨大な生物の足音
ずしっ、、、、ずしっ、、、、、
目の前には
高さ5メートルほどもある
大きな白い竜が
現れて
こちらを見ていた、、、、、
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