竜
パブロ「ああああああああああああ」
叫んでいるつもりで、その実、声が出ていなかった。
声が、出ない、、、、
目の前に、少し前まで兄だったモノがいる。
生まれたばかりの子供の様に、ソレはキョロキョロと辺りを見ている。
何かを確認するかのように。
周りの竜と何かを、確認、して、、、
いる、、、?と思った瞬間
こちらを、見た。
兄だったモノが。
周りの竜が。
一斉に、
こちらを。
こちらを。
俺を。
俺を。
俺を!
パブロ「ああああああああああああ」
瞬間、馬に鞭打ち駆け出していた。
出口へ!
同時に竜達も地を飛び跳ね、パブロを追う
逃げなければ!
殺される!
竜達は、
お前が最後の一匹だ
と言わんばかりに
パブロだけを
追いかけるっ
キシャアアアアアアアアア
甲高い金切り音
それは竜達の口から発せられていた。
まるで戦いの前の雄叫びのよう。
口元が笑っているように見える。
これから、人を咬み殺す、という快楽を
想像して
待ちきれないかの
ように、、
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「はあ、はあ、はあ、」
森の中を馬で駆ける
後ろを見れば竜の顔、顔、顔。
気を抜けば殺される、という緊張感が体力を奪ってゆく。
馬ももう限界だ。
地面がぬかるんできたのが分かる
、、。ここまで逃げて来られたのは竜達がそこまで素早くなかったからだ。
一時、逃げ切れるかと安堵した。
しかし
そんなはずが無かった。
奴らはそこまで素早くない、とは言っても馬とさほど変わらぬスピード。
かつ、(奴らの体力は底無しなのか、、、)全くスピードが衰えない。
馬が倒れれば即座に追いつかれ、殺されるのは明白だった。
もう一度後ろに目を向ける
「はあ、はあ、はあ」
五匹ほどか
10メートル程、、の位置の差
後方にはもっといるだろう
森の中に逃げ込んだのは
平地では逃げられないと思ったからだ。
障害物のある、森なら、と、、、、、
しかし樹木、草木という障害物では奴らの足を抑える事は出来なかった。
、、もうすでに先ほど兄達と探索した所よりも奥地に入っている。
これ以上奥には行くな、と言われている場所よりも奥、、、、。
この奥には谷がある
そこに近づいた者は生きて帰れない、、、
それは本当だろう。森の奥地の異様さ、言い知れぬ悪寒、太陽の光の届かぬ場所、、、それら全てが、死をイメージさせる。
しかし、、
「はあ、はあ、はあ」
馬も限界だ
俺は選ばなくてはいけない。
竜に喰い殺されるか、これより奥地で死ぬか、、、
竜か、
それとも、、、、、
「喰い殺されるより悪い死に方はあまり無いだろ、、、」
手綱を握り、俺は、さらに奥地へ駆けた、、、、
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コツ、コツ 、コツ、、、
城の王座の間を歩く1人の男がいる。
部屋の隅から反対の隅へ
行ったり来たり、行ったり来たり。
スラっと高身長で初老。
服装は気品を感じられる落ち着いた色。
足元まで隠れるローブを身に纏っている。
部屋にはその男1人。
「何故だ、、、何故王女が見つからん」
「この部屋から煙のように姿を消したとでも言うのか、、」
「何者かが匿っているのか?」
「いや、もうその可能性もなくなった」
「この城に人間はいない」
「、、、ん?」
「なんだ、、、この隙間は、、、」
王座の裏手の床、、、うっすらと線が、、、
「む、、、」
ガタッ
王座が動いた
「なるほど、、、そういう事だったのか、、、」
王座の裏には人1人入れるほどの抜け穴があった
「くくくく、ここか!」
くくくくくくく、、、
口の端が、裂けたかのように釣り上がる。
奥歯の位置から、大きな、牙が、顔を出す。
「おい!誰か!!」
「はっ!」
男に呼ばれて来た兵士は
「手練れを五匹ほど連れてこい、王女の居場所が分かった」
人の顔をしていなかった
「はっ!」
バタバタバタ
ソレは二足歩行が慣れていないようだった
「くくくくくくく、待っていろ、王女よ、、、直ぐに殺してやるからな、、、くくくくくくく」
「くくくくくくく、アハハハハハハ」
「ハーハッハッハッハッハーーー」
城に人間はいない。
その男の言の通り、城には竜ばかりがうごめいていた、、、、