ある日、異世界から召喚された聖女様が私の国にやってきて、そしてなぜか私の婚約者の王太子殿下といちゃいちゃするようになりました。そのあと、聖女様を殺そうとした罪で私と婚約破棄すると殿下が言われて…
「世界の危機といいますと…」
「世界の平和と安定を祈る聖女様がお亡くなりになって十七年、あらたな聖女がお生まれにならぬことは君も知っているよね?」
私はある時、婚約者の王太子殿下に、聖女召喚の儀に付き合うように言われました。
私は確かに召喚師ではありますが、他世界から人を呼び出すようなことはしたことはありませんが…。
「この国のトップレベルの召喚師10人がいれば、他世界に転生した聖女を召喚できると賢者から聞いたんだ!」
「はあ」
実は聖女様がいなくなっても世界は別に危機などにはならず、魔王も復活していません。
世界の平和と安定を祈る人柱などいらないかなという話まで出ているほどでした。
「頼む力を貸してくれ!」
まあ王族としては聖女様がいたほうが対面が保たれるのかなと私はこの頼みを引き受けたことをあとで死ぬほど後悔することになったのです。
昔と違い、今は召喚をして無責任にこちらの世界においたままなどということもなく聖女様に選択権があったものですから。もしいやといわれるのなら……。
誰か代理をこの世界で立てればいいかなどと思っていたのです。
「聖女様、よくぞおいでくださいました」
「え、え? 私」
「おお、その黒髪に黒い瞳、確かに聖女様の証!」
召喚の陣に現れたのは、黒髪黒目の少女、年齢は私くらいの娘でした。
見慣れない服を着た娘は不思議そうにあたりを見回しています。
賢者が聖女のことを説明しはじめますが、殿下が座り込む彼女に手を差し伸べたときに小さく「乙女ゲーのレオン様みたい…イケメン」と小さく少女が意味不明なことを呟いたとき、いやな予感はしたのですわ。
それから聖女様は城に滞在することになったのですが…。
「確か2百年前にも聖女が他世界に転生したとき、召喚を行ったときに『元の世界へ返せと聖女が暴れたが元の世界に…返すことはできず』」
「…リリス様、何をされておられますか?」
「賢者イース様、聖女召喚の記録を読み返しております」
「あまり…それは」
「ええもうやめます」
何度繰り返そうとも過ちは消えない、と書かれていたこれは先代の賢者の悔恨の記録に近い…。
「賢者様、どうしてあの聖女は元の世界に帰せと言わないのでしょう」
「帰す手立てがないと思われているのでは?」
「今は…違いますが」
賢者様は年のころは殿下ほどに見えますが実は百歳近いのですわねえ。とてもそうは見えませんわ。
私はふうとため息をついて本を閉じました。
図書室から私は出ましたが、廊下を歩いてくるのは聖女と殿下、そして護衛騎士と神官たちです。
どうしてこう男を侍らせるのがお得意なのか。
しかし元の世界に帰してあげたほうがいいのかと思い始めていました。
無責任に呼び出したこちらに非があるのではと…。だが、賢者様曰く、聖女様は元の世界に帰りたいとか一言も言われていないとか…。
「悪役令嬢…」
ぼそっと聖女様が私が通りかかるときにいつも言うのですわ。今日もでした。
本当にこれイライラしますわ。みんな聞いていても知らないふりです。
「…わけがわかりませんわ」
聖女様は神殿に入り、世界の平和を祈るもの、でもいつも男性を侍らせて、聖女様はお勉強すらしようとしません。
何回か殿下に進言をしましたが、まだこの世界に慣れてないからとかなんとかいわれてはぐらかされておりました。
そして…。
「リリス・ファーガソン、お前は聖女アイラ様をいじめて殺そうとしたそうだな!」
「はあ?」
「悪役令嬢、悪役令嬢、悪役令嬢!」
私は殿下に呼び出され、聖女様と取り巻きたちがいる中で、その罪とやらを宣言されました。
いえ悪役令嬢ってどういう意味ですの?
「その罪により婚約破棄し、辺境の神殿に追放とする!」
「いえ、殺そうとしたりいじめたりはしてませんわ」
私がいくらいっても殿下は聞いてくれません。聖女様はクスクスと笑い、悪役令嬢はそろそろ退場する時間よと笑うのです。
彼女が召喚されて二か月目でした。
「あなたが元の世界に帰ることができない復讐で呼び出した私をこんな風にしたいのなら、あの帰すことはできますわ! なかなかお話できる機会がなかったので言えませんでしたが選択権はあなたにあります!」
「帰らなくてもいいわよあんなところ、帰りたくもない! この乙女ゲームの世界で私は生きるの! 聖女として、王太子殿下の婚約者としてね!」
「え?」
「悪役令嬢リリス・ファーガソン、そろそろ退場の時間よ!」
頭がおかしいのか? と思いますが真面目に何か言っているようにしか見えません。
真面目というのもおかしいですけど…。
私は取り巻きたちに手を取られ、辺境行きの馬車に乗せられて…。
「リリス様、やはりこんなことになりましたねえ」
「賢者様!」
馬車がいきなり止まり、どうした? と扉を開けて外に出ると。そこにはにこにこと笑う賢者様が一人いて、御者も兵も倒れていました。
「…あの聖女、少しまずいとは思っていましたが」
「…あの聖女がすべてを仕組んだのですか!」
「ええ、とんだ茶番です。多分何か魅了系の力を持っているのでしょう。私に迫ってきたので撃退したら、どうして賢者カインが自分のものにならないのよとか怒ったいたみたいで…」
「賢者様以外はみな魅了の力で?」
「私、魅了の力などにはかからない人でして、後の人はみなかかってしまったようですね。調べている途中でしたが、あなたにこんなことをするとは」
助けてくれてありがとうございましたと頭を下げると、聖女なんてどうせ形だけのものだから、あなたやってくれませんか? と笑う賢者様。
「え?」
「どうですか? なら魅了の術をとく術も見つけましたし、あの聖女をどうにかしてあげますが」
「……」
手の平の上で転がされているような感じでしたが、もうこれしかないと私は頷きました。
このままだと辺境行きが免れても、逃亡しかする道はありません。
「…なら」
賢者様の手を取ると、転移の陣が現れ…私たちは城に戻りました。
そこからは賢者様の独壇場でした。
魅了の術を解かれたみなは元に戻り、婚約破棄? と不思議そうに聞いてきます。
皆に怒鳴り散らす聖女様は拘束されて、公爵令嬢であり、王太子の婚約者である私に乱暴を働いた罪で、元の世界に返され、私が国の本神殿の聖女を務めることになりました。
婚約は私から破棄しました。
魅了の術に簡単にかかる人は、誰も愛する人がいないだけだと聞いて、百年の恋も覚めたからです。
「賢者様、ここは」
「はいはいここはこう読むのですよ」
私は賢者様とともに今日も聖女としての勉強をしています。
賢者様にどうしてあの聖女の魅了が効かなかったのか? と聞いてみましたが…。
「愛する人がいるからです」
とにこっと笑って言われましたが、それ誰なんでしょうねえ。
幼いころから一緒にいるけど知りませんわ。
「…そろそろ名前で呼んでくれませんが、リリス」
「賢者様は賢者様ですわよ」
「…」
賢者様が不満そうに口を尖がらせるのをかわいいななんて見てしまいます。
こんな日々もいいかななんて思う私です。でももう召喚なんてこりごりですわ。
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