もういいかい?
◆夏のホラー2021 かくれんぼ。もういいかい? まあだだよ?
弟が嫌いってわけじゃない。
俺の弟は、女の子にも間違えられるくらいすっごく可愛い。
しかも小さいのに我が儘も言わず、育児も手のかからない子だったらしく、両親からもかなり溺愛されている。
一方、兄である俺は、確かにまだ子供。されど子供特有で、長男のくせに、と言われては、我が儘三昧。世界は俺を中心に回ってると本気で思ってた時期だった。
だからと言って、弟を虐めてたわけじゃない。子供の時期の意地悪と、ちょっとした悪戯心からだった。
ある日、近所の友達や幼馴染みたちを誘い、近所の公園でかくれんぼで遊ぶことになった。
小さい子に人気の象の形の滑り台と、ブランコ、鉄棒、シーソー、ベンチもあり、周囲の花壇には子供が隠れれるくらいの太さの木がまばらに立つ小さな公園だ。
弟は、お腹の調子が朝からおかしいから今日は見学だけでいいと断ったけど、俺は、
「兄ちゃんが鬼になって最初に必ず見つけるから。」と弟の手を引っ張り強行して参加させた。
弟が隠れる場所はいつも決まってお気に入りの象の滑り台の土台の間だ。非常にわかりやすい。
しかし俺は、みんなを時間をかけて見つけ、わざと最後に弟を残した。
すると、弟の隠れた場所から異臭がし出した。
「みいつけた。」
弟は、大きい方をおもらししてぐずぐずと泣き崩れていた。
友達や幼馴染たちは、泣いてぐずる弟を、可哀想にと心配したが、俺だけが、げらげらと大笑いして嘲笑った。
しかし、俺は、そんな出来事などすっかり忘れたまま大人になった……。
*****
「もういいかい?」
「まあだだよ?」
どうして俺がこんな目に!
「もういいかい?」
「まあだだよ?」
誰でもいい。どこでもいいから開けてくれ!
「もういいかい?」
「まあだだよ?」
扉を隔てて、ノックしまくる。
「もういいかい?」
「まあだだよ?」
階を移して、限界まで耐えに耐えたが……。
「もういいかい?」
「まあだだよ?」
俺はとうとう限界を超えて、その場で爆発した……
「みいつけた。」
「……もう……いいよ……」
あれから数十年が経ち、弟の経営する会社に営業の売り込みにきていた。
しかし、そんな時に限って、今朝からお腹の調子が悪かったが、薬を飲んで何とか今までは抑えていたのだ。
プレゼンが終わると、営業先で恥ずかしかったが、そんなこと言ってられない状態に陥った。
速攻でトイレを探し駆け込むが、そんな時に限ってどこの階のトイレも、満室で使用中か、清掃中か、故障中……。
弟は、プレゼン中の俺の様子がおかしかったことから心配して、追いかけてきてくれた。
おかげで俺は……あの時の弟の居たたまれない気持ちを悟ったのだった……。
END