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婚約者を捨てさせられた魔法使い

好きだった。

政略で結ばれた婚約とは言え、僕達は確かに想い合っていたんだ。

優しくて穏やかに微笑む彼女との幸せな未来を夢見ていた。

あの日、神子が僕との結婚を望むまでは。


神子とは、女神によって異世界から招かれた救世主だ。

この世界を救ったら、何でも一つだけ願いを叶えられる。

そう女神と約束を交わした神子は、一年かけて世界中を旅して世界を救った。


その旅に選ばれたのは、騎士と神官と商人と王子、そして魔法使いである僕。

神子が直々に選んだというメンバーは、見た目のよい男達だけ。

長くなるであろう旅に同性のメンバーを選ばなかった時点で、僕は神子が男好きだと判断した。


その判断は間違っていなかった。

神子は旅に出てから一ヶ月足らずで、見事に僕以外のメンバーを虜にしていったのだ。

僕だけは婚約者がいるからと、神子に対してしっかりと距離を置いていた。

神子に夢中になる彼らと、彼らに囲まれて満足げに笑う神子。


その状態がしばらく続いた後、神子は僕だけにあからさまに近寄ってくるようになった。

神子は僕が虜じゃないのが気に入らないらしい。

婚約者がいるからと取り付く島のない僕に、神子はその婚約者の話が聞きたいと言い出した。

断ったら、王子から話せと命令される。

仕方なく話せば、話を聞いた神子は婚約者の悪口ばかり。

僕にまですり寄ってくる神子も、神子に夢中になっている彼らにも、もううんざりだ。


この旅が終われば、婚約者の彼女に会える。

それだけを希望に旅を終わらせたら、神子は僕と結婚したいと言い出した。

断ったけど、女神との約束の報酬だと言われれば、それ以上の拒否はできない。

こうして、僕と彼女の婚約は破棄され、彼女との未来はなくなった。


僕は彼女に会って謝りたかったが、彼女に会うことは許されなかった。

手紙を出す許可だけは貰えたので、彼女へ謝罪の手紙を出した。

彼女から返事はこなかった。


そんなある日、神子が彼女に直接謝罪したという噂を耳にした。

神子に真偽を確認すれば、事実だという。

あなたの元婚約者、やっぱりあなたのことはどうでもいいみたいだわ。

もし本当にあなたのことが好きなら、私に対して何か言ってくるはずだもの。

私が何を言っても、元婚約者の人は俯いてばかりだったのよ。

彼女の気持ちを勝手に決め付けて話す神子に、僕は初めて人を殺したいと思った。


神子が願った結婚を避ける手立てはない。

だが、神子と結婚した後なら話は別だ。

別居はもちろん、神子を抱くことなど有り得ない。

そして、この国では三年間白い結婚のままだったら、離婚も可能だ。

三年白い結婚を貫けば、神子と離婚して彼女と結婚することも不可能ではない。

絶対に神子と離婚してやる。


僕はまず、その考えを両親に話した。

両親は最初こそ渋ったものの、最終的には協力してくれることになった。

次に、彼女と彼女の父親へその旨を伝えるべく、それぞれ手紙を出した。


しかし、どうしてだか、この事を神子に知られてしまった。

どうして!?と泣きわめいていた神子は、急に笑い出したと思ったら、部屋を出ていった。

この時、何が何でも神子を止めていれば……。

次に神子と顔を合わせた時には、どうしようもなくなっていた。


元婚約者が結婚式を滅茶苦茶にする可能性があるからと、彼女の参列を拒否。

三年後にもし離婚したとしても、彼女と結婚させないようにするため、結婚式の翌日には彼女を隣の国へ嫁がせる。

おそらく王子に泣き付いて決定させたことを声高に語る神子。

これ以上神子を刺激したら、彼女に危害が加えられるかもしれない。


そして、やってきた神子との結婚式。

上辺だけの誓いの言葉を交わし、神子と大聖堂の外に出る。

祝福のために鳴り響く鐘の音は、僕にとってはただの呪いでしかない。


神子を連れて我が家へと帰ってきた所に、彼女の家から急な知らせが届いた。

適当な部屋に神子を押し込め、僕は知らせの内容を聞いて言葉を失った。

僕と結婚できない未来を儚んで、彼女が自殺したという。

読ませて貰った彼女の遺書は、僕への想いに溢れていた。

神子に悪感情を抱く彼女は、地獄行きを覚悟していたようだった。


だったら、僕も彼女を追って逝けばいい。

神子への悪感情なら、誰にも負けないだろう。

今度こそ彼女を独りにさせるものか。

彼女に再び会えたその時は、もう二度と離さない。

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