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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第一章:運命の綻び
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第七話:キャンプには火を

一話一話が短いと、更新が早いなぁ

 目的地を定めた二人は、森の中を高速で駆け抜けていく。

 いや、駆ける、というよりは、跳んでいる、という表現の方が正しいだろう。


 彼らは、立ち並ぶ木々を蹴り、幹や枝を足場にしてほとんど地面に下りないままに、森の中を進んでいるのだ。


「いやー、意外と身軽だなー、ルセリってば。

 そんな所も素敵だぜ!?」


 先導している背後を振り返りながら、しっかりと付いてきているルセリに感嘆の声を告げる。


 前を見てもいないにもかかわらず、その動きに迷いはなく、足取りは安定している。


 それは、鋭く研ぎ澄まされた五感によるものである。

 決して特異な能力がある訳ではなく、ただ異常に高まったごく普通の五感が、視界だけに頼らずとも世界を正確に見通せているのである。


「はいはい。こんなの普通よ。

 地形をスキャンすれば、何処が安全なのか、ルート検索くらいできるから」


 一方のルセリも、非常に軽やかな動きをしている。


 彼女の場合は、科学技術によるセンサーの賜物だ。

 周辺地形を走査し、安定した足場や、そこに辿り着くために必要な力やルートを、事細かに検索して、その通りに進んでいるだけである。


 本来、インドアな人間である彼女だが、その動きに慣れない事への不安の様なものは見受けられない。

 それもその筈で、彼女は今、体表面に宇宙遊泳用の簡易強化外皮を展開している。

 目に見えない力場だけのそれは、身体能力を底上げするだけでなく、外部から受けるダメージを受け止めるクッションの役目も果たせる。

 レジャー用程度の代物ではあるが、遊びであっても宇宙装備である。

 デブリなどに衝突する可能性も考慮して頑丈性は中々の物であり、地上で運用する限りにおいては相当に優秀な鎧となる。


 その為、万が一、足を踏み外しても怪我一つしないという安心感が得られ、それによって彼女は自身の不安を打ち消していたのだ。


 実際、ルセリには多くの余裕がある。

 跳躍を繰り返しながら、手の中で鉱石を持ってその組成を調べていられる程度には。


「不思議ね」

「お? 何が?」

「これよ。

 さっきのアムドラとかいうのから採取したんだけど、これ、不自然に強度が高過ぎるわ」

「んぅ? 不自然ってのは?」

「……そうね、なんて言えば良いのかしら。

 これの組成はごく単純な物なのよ。

 ほぼ単なる岩石、一部、カルシウムとか鉄分が多めだけど、まぁそうおかしな程じゃないわ。

 この構成なら、どう頑張っても出せる強度なんてたかが知れてるのに、その常識を大きく超えているの」


 言うと、彼女はとても良い笑顔を見せる。


「これは大発見よ!

 どんな現象か分からないけど、これを解き明かせば、素材分野において革命が起きるわ!

 ああ、こんな欠片じゃなくて、もっとたくさんサンプルが欲しいわね。

 あいつの鱗、全部剥ぎ取って来れば良かったわ」

「おーい、あんなの、かさばってとても持ち運びなんざやってらんねぇぞー?」


 頬を赤く染め、興奮した様子で中々外道な事を漏らすルセリに、ツムギはやや小さめのツッコミを入れた。

 やろうと思えば、普通に持ち運びができ、単純に面倒臭いというだけなので、彼の指摘が弱くなるのも無理はないだろう。


「……全く、何処にツボがあんのか、よく分からんが可愛い娘っ子だぜ」


 苦笑しつつも、楽しそうな様子の彼女に、ツムギもまた楽しい気持ちとなった。


~~~~~


 やがて、日が暮れる。

 中々、奥深い森のようで、二人の移動速度でも抜け切る事は出来なかった。


「日が暮れちまったなぁ」

「暗視くらい、私はできるんだけど、ツムギはどうかしら?」

「俺だって夜目くらい利くさ。

 とはいえ、急ぐ旅でもあるまい」


 ツムギは、向かう先を見据え、鼻を幾度か鳴らしながら続ける。


「どうやら拠点を定めているみたいで、移動する気配もないしな。

 まぁ、気まぐれだから確実な事は言えんが、数日くらいは動かんだろ」

「そう。

 なら、野宿しちゃいましょう。

 大自然の中でのキャンプって、私、した事がないの。

 楽しみだわ♪」

「そりゃ良いな。何事も経験するに限る」


 声を弾ませるルセリに、彼は笑って同意した。


「キャンプといやぁ、火だな。

 ルセリ、適当に木を集めてくれるか?

 生木でも良いからさ」

「OK。あなたは?」

「ちょいと、山の幸でも確保してこようかな、と」

「成程。分かったわ。

 美味しいのをお願いね」

「おう、任せとけ!

 集合は……どうすっか」


 ぶっちゃけ、よほど離れていなければ、ツムギの五感で常にルセリの居場所くらいは把握できるが、彼女の方から分かる方が良いだろう、と彼は頭を悩ます。


 それを解決するように、ルセリは小さな球体を出して放り投げた。


 それは空中でふわりと止まると、淡く発光し始める。


「蓄光球っていう物でね。

 言葉通り、光を貯めておけるの。

 暫くは持つから、一時間後に此処に集合で良いんじゃない?」

「よし。

 じゃあ、そんな感じで行こうか!

 レッツ、キャンプ!」

「おー!」


 二人は、それぞれに分かれて、行動を始めた。

 全ては楽しいキャンプの為に。


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