第七話:キャンプには火を
一話一話が短いと、更新が早いなぁ
目的地を定めた二人は、森の中を高速で駆け抜けていく。
いや、駆ける、というよりは、跳んでいる、という表現の方が正しいだろう。
彼らは、立ち並ぶ木々を蹴り、幹や枝を足場にしてほとんど地面に下りないままに、森の中を進んでいるのだ。
「いやー、意外と身軽だなー、ルセリってば。
そんな所も素敵だぜ!?」
先導している背後を振り返りながら、しっかりと付いてきているルセリに感嘆の声を告げる。
前を見てもいないにもかかわらず、その動きに迷いはなく、足取りは安定している。
それは、鋭く研ぎ澄まされた五感によるものである。
決して特異な能力がある訳ではなく、ただ異常に高まったごく普通の五感が、視界だけに頼らずとも世界を正確に見通せているのである。
「はいはい。こんなの普通よ。
地形をスキャンすれば、何処が安全なのか、ルート検索くらいできるから」
一方のルセリも、非常に軽やかな動きをしている。
彼女の場合は、科学技術によるセンサーの賜物だ。
周辺地形を走査し、安定した足場や、そこに辿り着くために必要な力やルートを、事細かに検索して、その通りに進んでいるだけである。
本来、インドアな人間である彼女だが、その動きに慣れない事への不安の様なものは見受けられない。
それもその筈で、彼女は今、体表面に宇宙遊泳用の簡易強化外皮を展開している。
目に見えない力場だけのそれは、身体能力を底上げするだけでなく、外部から受けるダメージを受け止めるクッションの役目も果たせる。
レジャー用程度の代物ではあるが、遊びであっても宇宙装備である。
デブリなどに衝突する可能性も考慮して頑丈性は中々の物であり、地上で運用する限りにおいては相当に優秀な鎧となる。
その為、万が一、足を踏み外しても怪我一つしないという安心感が得られ、それによって彼女は自身の不安を打ち消していたのだ。
実際、ルセリには多くの余裕がある。
跳躍を繰り返しながら、手の中で鉱石を持ってその組成を調べていられる程度には。
「不思議ね」
「お? 何が?」
「これよ。
さっきのアムドラとかいうのから採取したんだけど、これ、不自然に強度が高過ぎるわ」
「んぅ? 不自然ってのは?」
「……そうね、なんて言えば良いのかしら。
これの組成はごく単純な物なのよ。
ほぼ単なる岩石、一部、カルシウムとか鉄分が多めだけど、まぁそうおかしな程じゃないわ。
この構成なら、どう頑張っても出せる強度なんてたかが知れてるのに、その常識を大きく超えているの」
言うと、彼女はとても良い笑顔を見せる。
「これは大発見よ!
どんな現象か分からないけど、これを解き明かせば、素材分野において革命が起きるわ!
ああ、こんな欠片じゃなくて、もっとたくさんサンプルが欲しいわね。
あいつの鱗、全部剥ぎ取って来れば良かったわ」
「おーい、あんなの、かさばってとても持ち運びなんざやってらんねぇぞー?」
頬を赤く染め、興奮した様子で中々外道な事を漏らすルセリに、ツムギはやや小さめのツッコミを入れた。
やろうと思えば、普通に持ち運びができ、単純に面倒臭いというだけなので、彼の指摘が弱くなるのも無理はないだろう。
「……全く、何処にツボがあんのか、よく分からんが可愛い娘っ子だぜ」
苦笑しつつも、楽しそうな様子の彼女に、ツムギもまた楽しい気持ちとなった。
~~~~~
やがて、日が暮れる。
中々、奥深い森のようで、二人の移動速度でも抜け切る事は出来なかった。
「日が暮れちまったなぁ」
「暗視くらい、私はできるんだけど、ツムギはどうかしら?」
「俺だって夜目くらい利くさ。
とはいえ、急ぐ旅でもあるまい」
ツムギは、向かう先を見据え、鼻を幾度か鳴らしながら続ける。
「どうやら拠点を定めているみたいで、移動する気配もないしな。
まぁ、気まぐれだから確実な事は言えんが、数日くらいは動かんだろ」
「そう。
なら、野宿しちゃいましょう。
大自然の中でのキャンプって、私、した事がないの。
楽しみだわ♪」
「そりゃ良いな。何事も経験するに限る」
声を弾ませるルセリに、彼は笑って同意した。
「キャンプといやぁ、火だな。
ルセリ、適当に木を集めてくれるか?
生木でも良いからさ」
「OK。あなたは?」
「ちょいと、山の幸でも確保してこようかな、と」
「成程。分かったわ。
美味しいのをお願いね」
「おう、任せとけ!
集合は……どうすっか」
ぶっちゃけ、よほど離れていなければ、ツムギの五感で常にルセリの居場所くらいは把握できるが、彼女の方から分かる方が良いだろう、と彼は頭を悩ます。
それを解決するように、ルセリは小さな球体を出して放り投げた。
それは空中でふわりと止まると、淡く発光し始める。
「蓄光球っていう物でね。
言葉通り、光を貯めておけるの。
暫くは持つから、一時間後に此処に集合で良いんじゃない?」
「よし。
じゃあ、そんな感じで行こうか!
レッツ、キャンプ!」
「おー!」
二人は、それぞれに分かれて、行動を始めた。
全ては楽しいキャンプの為に。




