失われた夢
遅くなった理由はね、固有名詞を考えていなかったからなんです。
舞台設定だとか、なんなら物語とかは割りと簡単に思い付くんですけど、固有名詞ばかりは苦手とです。
マルグリット銀河核星系。
そこには、かつての銀河帝国の中枢が置かれた重要な惑星の一つがある。
クリスティン。
それが、星の名前である。
地表部の多くを水に覆われた海洋惑星であり、政治経済を担う省庁があると同時に、富裕層に向けたリゾート惑星という側面を持っている。
そんな惑星の中で、海山と呼ばれる地形が存在する。
山のように盛り上がった大地の頂点から、星の内部に蓄えた水が溢れ出す場所だ。
水の湧出量もかなりの物だが、それを上回る広大な空間がある為、滝となって流れ落ちる縁部とは違い、中心部は驚くほどに静かに凪いでおり、鏡面の様な水の世界が作られている。
そんな中心部に、一つの城が鎮座していた。
白亜の城。
実用性よりも芸術性を重視した造形をしており、汚れ一つ無い純白の姿は、鏡の如き湖面と合わせて、お伽噺の中に迷い込んだかのような気分を見る者に与える。
クリスティン・フィーニス城。
かつての政治部の省庁が入っていた総合庁舎であり、同時に有名な観光名所の一つである。
かつては、だが。
今となっては、この宇宙の何処にも存在はしていない。
人神大戦の中で、白亜の巨城は、星もろともに宇宙の塵となってしまっていた。
だがしかし、それはそこにある。
何故なのか。
答えは簡単だ。
ここが夢の中だからである。
フィーニス城は、省庁だったと同時に名所であり、それよりも以前は城の本質と言えるような、クリスティン星を治めていた王族の住まう場所であった。
銀河帝国に吸収され、王権が変換された後も、王族は惑星の象徴的存在として、フィーニス城の王族専用のプライベートエリアに住んでいた。
今になっても生き残っている王族が、安寧を夢見る故郷への想いが、この世界を形作っているのだ。
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クリスティン・フィーニス城の中に、足音が木霊する。
美しい外見に劣らず、内装も精緻な装飾が施されており、外から見るだけでなく、中まで楽しむべき、と言われたかつての評価にも頷けるだろう。
足音の主は、一人の女性だ。
いや、この場合は一柱、と表現した方が正解だろう。
それは、白い女性だ。
肌も白く、髪も白く、纏う衣装も、全てが白い。
女性にある色彩と言えば、黄金のような瞳だけだろう。
女性らしい丸みのある均整の取れた肢体をしており、柔和な表情からは母性を感じさせる。
ゆったりとした足取りで歩く彼女の名は、エリュシエル。
しかし、その名を呼ぶ者は、もっと言えば知る者さえ少ない。
彼女の存在を知る者は、誰もが別の呼び名を口にする。
創造神、あるいは絶対神、と。
神々の頂点であり、紛う事なき第一位階。
加えて言えば、比喩でも何でもなく、間違いなくその頂点に位置している存在だ。
当然、フィーニス城と直接的な関わりを持っている訳がない。
普段は自らの領域に引き込もっており、表に出てくる事はまずないのだ。
神界でさえもそうなのだから、下界にまで出てくる筈がない。
故に、下界を映し出す夢も必然彼女のものではない。
これは、彼女が神も人も含めて、唯一、友と認めた者の夢なのだ。
久し振りの友人との語らいに、機嫌良さそうに鼻歌を奏でながら、エリュシエルは奥へと進んでいく。
やがて、彼女は、所謂謁見の間へと辿り着く。
巨大で重厚な扉へと細い指先でそっと触れれば、滑るように開いていく。
歓迎されている、という訳でもない。
その証拠に、ある程度扉が開いた所で、颶風にも思えてしまう強烈な殺意が叩き付けられる。
そして、実際に殺傷力を持った攻撃も、それに遅れて飛んできた。
大量の刃。
そこに規則性はない。
剣があり、刀があり、ナイフがあり、鋸があり、他にもどれ一つとして同じ形の無い、数多の刃がエリュシエルへと殺到した。
エリュシエルは、それを前にして、しかし何もしない。
微笑ましいと言わんばかりの笑みを浮かべて、そのまま歩を進めて室内へと入り込む。
当たる。
エリュシエルの細身へと刃がめり込み、そのまますり抜けて背後へと飛んでいった。
背中に轟音がぶつかる。
続けて、何かが崩れ落ちる音も。
おそらく、大扉が攻撃を受けて崩壊したのだろう。
もしかしたら、更に向こうにある廊下や壁も崩落しているかもしれない。
それくらいの事は、出来て当然だ。
何故ならば、それはかつての神殺しの攻撃なのだから。
広く、高い、謁見の間。
その最奥には、美しい玉座が置かれている。
ゆったりと、気怠げに身を預けているのは、一人の女性。
蒼銀の髪を長く伸ばしており、身に纏うは白と青を貴重とした優美なドレス。
頭の上には銀細工のティアラを飾っており、まるで本物のお姫様のようである。
尤も、殺意に満ち満ちた鋭い視線が、その印象の全てを台無しにしているが。
「人の夢の中に土足で入り込むとは……。斬られ足りないか」
「ふふっ、この私にその様な口を利く者は、宇宙広しと言えど、貴女だけですわ。ねぇ、ルナリア」
女性の名は、ルナリア。
夢の主であり、過去の英雄。
そして、現在は第五位階の天使となってしまった、人間もどきである。
トラブルメイカーズと征罰衆の戦力設定の補足。
基本的には征罰衆の天使連中の方が強いです。
天使の持つ《征罰者》のギフトは、下界のギフト持ちに対する特効兵器なので、なんならエステリア一人でも幹部連中含めて殲滅できます。
但し、問題はツムギとアリアの二人です。
ツムギはギフトを所有していないので、《征罰者》のギフトが効果を発揮しないので、完全に地力勝負になってしまうクソ厄介な人物となります。
もっとヤバイのがアリアです。
彼女は下界の人間でありながら、同時に死神の神格を有する神であります。
なので、彼女が相手にする場合は《征罰者》の効果が反転してしまい、バフがかかるどころか、デバフ効果となってしまいます。
征罰衆の天敵と言えるでしょう、こいつら。
たからこそ、神殿から監視対象となっている訳ですが。
片や、訳分からん超技術で改造された人型超兵器。
片や、いつ本来の位置(第二位階最上位)に覚醒するかも分からない人神。
ヤベー連中よ。
これからは、そこにルセリも加わるのですが。
ギフトを持たない超文明の継承者とか、ヤベー奴まっしぐらです。




