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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
79/81

亡国の夢幻

「ところで、王様? 私の方からも、一つ、話があるのだけど……」

「ふむ」


 ルセリから話を振られたヴァイスハルトは、やや警戒心を抱く。


 なにせ、〝あの〟ラピスの娘なのだ。

 能力は確かだろうし、その人格性には不穏な物を感じずにはいられない。


「ふっ」


 ヴァイスハルトは、小心者じみた己の思考を笑い、不敵に髪をかき上げて真正面からルセリを見た。


「民の声を聞くのも王たる者の務め。よかろう。謳ってみるが良い」

「…………面白いキャラしてるわね」


 過去にはいなかった類いの言動をする。

 いや、それを言い出すと、これまでに出会った者たちは誰も彼もが特異な性格をしていた。


 それもそうだろうな、と、改めて考えると納得できる。


 なにせ、今は余裕がある。

 管理された箱庭の中であろうとも、一線さえ越えなければ基本的には自由に暮らしていける時代だ。


 かつてのルセリが生きていた時代のように、明日どころか今日すらも危うい状況ではない。


 であれば、様々な個性を育む事も出来るだろう。

 いつもいつも、目を血走らせながら生き残る道を探し、敵を倒す術を研究している様な、そんな悲しい性質しか持たない時代とは違う。


 そういう意味では、遠い未来にやってきた甲斐もあると、彼女は思いながら口を開く。


「神殿? とやらから許可を貰ってからの話になるんだけど、この国で兵器を造りたいのよ」

「……兵器? 旧時代のか?」

「ええ、そうよ。まぁ、今の技術も盛り込むつもりだけど……どうかしら?」


 ツムギは鷹揚に太鼓判を押していたが、実際に権力を持っているのは一応目の前のヴァイスハルトである。

 なんだかお飾りな雰囲気を出しているし、本人のやる気もいまいち感じられないので、許可を取る必要があるのかは不明だが、社会には形式や建前は必要なのだ。

 許可を貰ったという事実がある方が、実際の行動に勢いが付くから。


 果たして、王の回答は、


「ああ、構わん。存分にやりたまえ」


 凄まじく軽いものだった。

 拍子抜けしてしまうほどに。


 現実が分かってないのか、と疑わずにはいられないルセリは、彼女には不都合だろうに確認していく。


「本当に? 本当に良いの?」

「うむ。過去の技術を現実に見る機会は中々ないからな。良い催しだ」

「そんな軽い話じゃないでしょうに。

 ……天使や神々から目を付けられるし、場合によっては本気の攻撃を受けるのよ?」


 神殿に伺いを立てて許可は取るつもりだが、勿論、その許可はダミーである。

 建造予定として見せる兵器と、実際に建造する兵器は、別物にするつもりだ。

 だって、正直に言ったら絶対に許されないし。

 神々さえも殺し得る宇宙兵器を地上で運用しようとか、正気の沙汰ではない。


 なので、いつか騙した事がバレた時点で、報復攻撃が行われる事は確定した未来である。


 だと言うのに、ヴァイスハルトはそうと知っていながら頷く。


「そうだな。まぁ、その時はその時だ。

 世に永遠がない以上、滅びる時は滅びるしかなかろう。

 まっ、盛大な花火を咲かせて滅びるがね」

「良いの?」


 どうしても心配せずにはいられない。

 自身の我が儘な行いによって、誰かが傷つく事に、ルセリは不安を覚える。


 その様子に、ヴァイスハルトは微笑む。


「ツムギ君と違って、君は優しいね。母君とも大違いだ」

「……褒めてるのよね?」

「勿論だとも。そして、故に君の暗雲を晴らそう」


 そして、彼は断言する。


「気にするな。

 我が国は、少なくとも今の世代の者たちは、君たちが原因で滅ぼうとも、何一つとして恨みも憎みもしない」


 ヴァイスハルトは、指を立てて理由を語る。


「そもそも、我らは滅んだ国なのだ」


 過去を懐かしむ、遠い目をする。亡国となってしまった運命の日を思い出す。


「既に滅び、息絶えている筈の運命。

 それが何の奇跡か、そやつらと出会い、再興してしまった。

 悪い事ではないが、しかし我らにとっては今の時は夢幻の栄光に過ぎない。

 今この瞬間に滅んでも、仕方無いと諦められる。

 奇跡が終わった。

 それだけの事だとな」

「…………」

「そして、もう一つ、付け加えようか。

 神殿に、ひいては神々に目を付けられる、という話だったな。

 それに対しては、こう言わせて貰おう。

 今更だ、とな」


 ヴァイスハルトは、呵呵と笑う。


「そやつら、『トラブルメイカーズ』が根を張っているというそれだけで、この国はとうの昔から神殿から常に監視されている。

 いつ、どんなイチャモンを付けて滅ぼしてやろうか、と、虎視眈々と狙われているのだ。

 その理由がまた一つ増える、それだけの事よ」

「……なんというか、御愁傷様?」

「ふっ、対価として中々経験できない愉悦を味あわせて貰っている」


 だから。


「故に、まぁ気にする事はない。

 存分にやりたまえよ。

 それが、愉快に笑える物であれば、猶良し。

 我らは笑いながら滅びていこう」


 尤も、と彼は付け加えた。


「『トラブルメイカーズ』の者共が、座して滅びを受け入れるとも思えんがね」

「当たり前よ!」


 ツムギが言葉を継いで言う。


「神ならばともかく! 天使なぞ恐れるに足らん! 逆に張り倒してやるさ!」

「ハハハッ、元気なものだね。さて、アルトン嬢、迷いは消えたかな?」

「……ええ、ありがとう。

 そういう事なら、思いっきりやらせて貰うわ。

 神々が出張ってきたとしても、この国を滅ばさせないくらいに、徹底的に」

「うむ、期待しているよ」


 将来への期待に、ヴァイスハルトはまた笑うのだった。

設定上のお話。


トラブルメイカーズと神殿は、戦力では互角なんですよね。総長を除けば。

なので、両者が本気で激突した場合、『神々の尖兵 vs 反逆の獣たち vs なんか周りで勝手に死んでいく有象無象』という地獄絵図が展開します。

くそ迷惑。

但し、総長が参戦した時点で、敵も味方もなく、全員が叩き伏せられます。

バランスブレイカー……。

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