ネームバリュー
「ふむ、ふむ。まぁ、話は分かった。
出来れば、神殿に詳細なスケジュールを確認したい所だが……あそこに行くのは中々難儀故な……」
人格評価の結果、問題無しと判断された事も理由なのだろうが、神殿まで辿り着けた者に対しては、神々もそうそう無下にはしない。
それだけの才覚を示す者を取り込もうという思惑込みの優しさなのだろうが。
そして、ユグ・ナ・メイズ王国には、というか、ギルド『トラブルメイカーズ』には、神殿の試練を当たり前の様に突破できる猛者がゴロゴロしている。
文字通りに掃いて捨てるほどにいる。
統治者としては、本当に掃いて捨てたいくらいだ。
それ故に、神罰の邪魔をしない、という条件付きにはなるが、確認すればスケジュールの一つや二つは普通に教えてくれる、と思われた。
問題は、空中要塞である神殿まで足を運ぶのが、ほとほと面倒だという事だが。
「あー、それなんだが……」
「何かね?」
「実は、ルセリの件で神殿まで行く用事があってな」
「……ほう?」
旧時代の知識人、それも科学者ともなれば、その脅威を知る神々にとっては、最優先抹殺対象である。
実際に即座に探知されて征罰衆の一部隊を派遣されるくらいには、永き時の経った今でも危険視されている。
このままでは、特に理由のある襲撃を幾度となく繰り返す羽目になって、不必要に神々からの不興を買ってしまう。
なので、ここは自ら出頭して目的等の弁解をして、一時、下界に存在する許可を取った方が良いと思えた。
その手っ取り早い手段が、神々への窓口である神殿へ詣でる事となる。
そのついでに、神罰関連について確認すれば良いだろう。
副長のエステリアが実質的に職務放棄している為に総長となる天使に会わなくてはならないので、正直なところ、憂鬱で仕方ないのだが。
「ふむ、そういえば紹介の途中だったな。そこな娘は、一体何処の誰だろうか」
「ふっふー! よくぞ聞いた! 耳かっぽじってよくよく崇めるが良い!」
途中でツッコミが入ったせいで寸断されてしまっていたルセリの紹介を、ツムギがテンション高く行う。
「彼女こそ我が伴侶――」
ゴリッ(無言でレーザーガンの銃口を後頭部に押し付ける音)。
「予定の……」
「んぅ、まぁ、妥協して上げるわ。話が進まないし」
「よっしゃ、通った」
「仲が良いね、君たち」
銃を仕舞うルセリに、ガッツポーズを決めるツムギ。
その仲の良い様子に、彼にゾッコンの自分の妹では勝ち目が無さそうだとヴァイスハルトは苦笑した。
尤も、だからと言って諦めるなどと言うほど、物分かりの良い娘でもないが。
「ルセリちゃんだ! 失われし旧時代より訪れた、叡知の申し子である!」
「しばらく彼の所でお世話になるつもりよ。よろしくね、王様」
「ほぅ! 旧時代の! という事は、君はギフトを?」
「ええ、持っていないわ」
「成る程。ツムギ君が入れ込む訳だ。
そして、神殿に参る理由も理解した。
しかし、頭の硬い彼らが彼女を許容するものかね?」
人間の感情になど、頓着しない神々である。そして、旧時代は神々にとって忌々しい負の遺産だ。
その時代の叡知を持った存在など、受け入れられる筈もない。
交渉の余地もなく、即座に抹殺処分が下されるだけだろうと思えた。
「あー、それは多分大丈夫だ」
しかし、ツムギは割りと楽観的に見る。
「何故?」
「ルセリな、ラピス大先生様の娘なんだよ」
「…………なんだと?」
告げられた新事実に、ヴァイスハルトは目を剥いてルセリを凝視した。
当のルセリは、彼の反応に呆れたような顔をしている。
「……お母さんって有名なのね。
うん、はい。
ラピス・アルトンの娘、ルセリ・アルトンよ」
「そうか……。そうなのか。アルトン老師の。
で、あれば、確かに見逃される可能性も高くなるか」
「そうなんだよなー。統括官殿が庇ってくれるだろうし」
詳しい関係は知らないのだが、ラピスと征罰衆総長の天使は、何故か仲が良い。
いや、仲が良いと言うよりも、お互いに対して敬意を抱き合っている、という関係だろうか。
仮にも旧時代から生き残っている要監視対象の大罪人と、それを監視し管理し場合によっては処断する組織のトップがズブズブなのは、端から見ると意味が分からないのだが、現実にそうなのだから仕方がない。
そして、その関係を思えば、ラピスの娘という立場は大いに利用できる。
なにせ、全くもって意味が分からない事に、総長の天使に対しては、神々でさえも強気に出られないのだから。
(……統括官殿は、本当に何なんだろうなぁ)
世界の理不尽の体現者のような天使に、ツムギは遠い目をするのだった。
まぁ、最初の人物紹介でもネタバレしてますし、何処かで素性についても書いた気もしてますけど。
ただ、ツムギは総長の来歴については知らないので、ラピスとの関係を訳分からん関係と思っております。




