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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
77/81

神罰の報せ

「で、気を取り直すんだけど、実は駄弁りに来た訳じゃねぇんだわ」

「ほう? その娘との婚姻報告ではないのか?」

「王様? 貴方も蹴ってあげましょうか?」

「ふっ、悪いが我のレベルは50レベルに満たない。そなたの戯れで死ねるぞ」


 自信満々に情けない事をほざく。

 とはいえ、そんな事を言われてもギフトを、レベルという物を持たないルセリには、ピンと来ない表現であった。

 なので、隣のツムギへと小声で訊ねる。


「……私ってレベル準拠でどれくらいなの?」


 ふむ、と、彼は僅かに考えながら答える。


「レベルとは参考数値でなー。所持ギフトでかなり変わるのだ」

「ふぅん」

「で、まぁ、それでもおおよその平均値も一応はある」

「回りくどい言い方してないで、とっとと言いなさいよ」

「さっきの蹴りは百レベルは超えてる」

「……ひゃく?」

「ワン・ハンドレッド」


 告げられた現実を噛み砕いてゆっくりと理解する。


「確か、この大陸だと、三桁クラスっていないって話じゃなかった?」

「おう。起源種が生まれながらに百レベルくらいで、大陸の中だとそれ以上にはならん」

「あれ、そんなに強くしてないわよ?」


 ヴァイスハルトの言う通り、戯れ程度の一撃だった。

 殺す気など毛頭なく、ツムギなら充分に耐えられるというか、そもそも傷付きすらしないだろうというレベルに抑えていた。

 だと言うのに、それが巷の最高クラスに分類されると言うのだから、正直なところ、世間の脆弱さにドン引きせずにはいられない。


「ちなみに、俺、レベル表記すると、大体8000台くらいな!」

「……予想外に高い」

「更にちなみに、ラピス大先生様はカンストの9999な?」

「頭の痛くなる話ね」


 相手次第では、単独で神々にも勝てる。

 それくらいの破壊力はあると判断していたツムギよりも、遥か高い位置にいると断言されてしまうと、危険度を更に高く設定し直さなければならない。


(……どれくらいまで上げないといけないのかしら。まさか、第一位階?)


 最高位の神と匹敵するとは、思いたくなかった。

 本当にそうだとすれば、確実に勝ち目などない。

 最高神に対抗できた存在は、後にも先にもかつての大英雄ただ一人だけなのだから。

 デサイン・チルドレン第一号ルセリのオリジナルとなる人間だけ。


 その領域となると、もう自力でどうにか出来るかという段階ではない。

 諦めるという選択肢は無い以上、屈辱的な話だが神々に懇願してどうにかして貰うしかないだろう。

 

《アーク》の完全破棄を求められる可能性も、高くなってしまうが。


 ルセリは、ツムギを見る。


 そうなってしまえば、自分の帰る場所も理由もなくなる。

 この時代に放り出される事になる。


(……あなたは、待っててくれる?)


 それが決定的になるまで、自分はきっとツムギを受け入れられないだろう。

 きっと、それまで冷たくあしらい続けるに違いない。


 勝手な、都合の良い考えだとは思う。


 それでも、それまで待っていて欲しいと、思ってしまうのだ。


 真っ直ぐに好意をぶつけてくれる彼の事を、ルセリもまた好ましく思っているから。

 自分の新たな帰る場所になって欲しいと、そう思うくらいには。


 ルセリが思考に沈んでいる内に、ツムギたちの話は進んでいた。


「ヴァイス、実は今日は警告に来たんだ」

「ほほう? 遂に我が国を滅ぼしたくなったのか」

「違ぇよ、バカめ。西の方で起源種をぶっ殺したんだ。生まれたてのな」

「…………成る程」


 語られた内容に、ヴァイスハルトは警告の意味を理解する。

 だが、勘違いを起こしてはいけないと一応は確認した。


「そういえば、先日、君たちは起源種を一体ほど屠っていなかったかね? 確か、北の方だったかな?」

「よく覚えていたな。1ヶ月ちょい前って所だな」

「成る程。成る程成る程、成る程ね。これほどの短期間で魔王が二体も生まれていた、か」


 その事実が示す現実の裏側は、凄惨な暗黒時代を示していた。

 理解したヴァイスハルトは、楽しげに笑う。


「クッ、クカカカカッ、確かに最近は調子に乗っていたからな! 神々の勘気に触れたか!」


 懲罰の兆候だ。

 神々が、下界の人間へと下す、裁きの訪れである。


 人間は世代交代する。

 故に、時と共に神々の恐怖を忘れ、自らこそが至上の存在だとのたまい始める。

 何度も何度も、懲りもせずに。


 その事を理解した神々は、定期的に災いをもたらして恐怖を思い出させるのだ。

 その尖兵こそが、魔王と呼ばれる起源種の大量出現である。


「勇者は……いたかな?」


 本来ならば、勢い余って信仰の家畜である人間が滅んでしまわない為のセーフティとして、対魔王特効の《勇者》のギフトが存在する。

 だが、《勇者》を占有していたアリアの故郷が酷い事になってしまったせいで、それは失われていた。


 ギフトシステムが崩壊していない以上、いつかは復活するだろうが、そんな話は聞いた覚えがなかった。


「いや、俺も知らんな」

「クククッ、それは素敵な事だ。人間滅ぶんじゃないか?」

「……うちの国は残るだろ。だから、神罰落とす気になったんじゃねぇか?」

「信頼されているのだな」

「気持ち悪いことに、な」


 起源種は、やたらと強いだけであり、特定の存在でなければ倒せない、などという事はない。

 実際にツムギは単独で倒しているし、ギルド幹部の面々ならば同じ事が出来る。

 出来ないと幹部になど認定されない。


 《勇者》がおらずとも、その代わりとなるだけの戦力はある。

 そして、その者たちは神罰を阻止するような無粋な連中でもない。


 そうと神々から信じられているのだ。

 神々を嫌っているツムギからすれば、寒イボが立つような信頼だが。


「ふむ、分かった。報告、ご苦労。災いには備えておこう」

「おう、まぁ適当に頑張ってくれや」

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