ピンボール・コンボ
本日二話目ー。
「よく来たっ! そして、良いタイミングだったぞ!」
「おい、追い払っといてなんだが、良いのかよ。王様の仕事だろうが」
笑顔で出迎えるヴァイスハルトに、ツムギが苦言を放つ。
すると、彼は手を振って気軽に返した。
「構わぬ構わぬ。どうせ援助がどうのという話しかせぬからな」
滅亡以前のかつてであれば、隣国との友好関係は常に必要なものだった。
食料を代表とした各種物資、それらを購入する為の資金を用意する貿易、安全保障の不可侵条約や時として強大な相手に立ち向かう為の共同戦線条約など、国家を存続させる上で外交は重要な仕事なのだ。
あくまでも、滅亡以前の話、なのだが。
現在のユグ・ナ・メイズ王国は、単独にて完結している国家である。
食料事情は、何処かの馬鹿エルフが世界樹を突き刺してしまったおかげで、その恵みを頂くだけで国民全員の腹を満たして有り余る程となっている。
国防の観点でも、トラブルメイカーズの連中が寄って集って兵士たちを鍛えているおかげで、周辺国が連合を組んで総攻撃を仕掛けてきてもどうとでもなる戦力が揃っている。
国土的には小国でありながら、大陸随一の軍事大国にして経済大国なのである。
故に、今となってはどうでもいい。
外交なんて物は、究極的には放置していても何の問題も無い仕事なのだ。
強いてそれが必要となる重要な相手がいるとすれば、それは征罰衆のいる神殿くらいなものだろう。
「それよりも、そちの話を聞きたい。此度の遠征はどうであったかな?」
「ふっ、充実したものだったさ」
ヴァイスハルトからの問いかけに、ツムギは髪を掻き上げながら自信満々に応じる。
そして、彼は隣にいるルセリを押し出しながら堂々と断言した。
「遂に俺は愛する嫁を手に入れ「誰がよっ!」――あふぁん!」
強烈なツッコミが炸裂。
回し蹴りが思いっきりツムギの側頭部にヒットし、横向きに愉快に吹っ飛んでいった。
そこで、ルセリの予想外な事が起こる。
厳つい骨の壁に勢いよく弾丸のようにぶつかったツムギは、まさかの攻撃認定されてカウンター術式が起動したのだ。
「んぶしっ!?」
「わっ!?」
見事なバウンドしたツムギが真っ直ぐにルセリへと跳ね返ってくる。
それを優しく受け止めるような慈悲を、少なくともツムギに対してだけはルセリは持っていない。
どうせ破局しか迎えないのだ。
彼の気持ちに応える気はなく、だから希望を与えるような迂闊な真似はしない。
さっと身を躱したルセリが見送る先で、ツムギは再び壁に激突、更なるバウンドを重ねる。
勢いが弱まる事はない。
むしろ強くなっている。
多段カウンターによって推進力が追加されており、どんどんと吹き飛ぶ速度が上がっていた。
「3、4、5、6……あっと、危ない」
反射角度が変わってルセリへと直撃コースを取ったが、彼女は慌てず騒がず打ち返した。
コンボが繋がり、また跳ね返っていく。
やがて、遂に玉座のヴァイスハルトへと向かうが、
「ふっふっ、対策くらいは出来ているよ」
バタン、と玉座が背中側に倒れた。
「っ!? そんなギミックが!」
ルセリが威厳もクソもない仕掛けに驚いている間にも、倒れ込んだヴァイスハルトの眼前を勢いよく通過してツムギが背後へと突き抜けていった。
そして、そこに設置されていた正面から襲い掛かってきた襲撃者用ダストシュートへとゴールインした。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
遠く消えていく彼の悲鳴。
「…………えっと」
「…………ふむ」
取り残された初対面二人の間に、若干気まずい雰囲気が流れる。
数秒で、ヴァイスハルトが咳払いして言葉を放つ。
「いやはや、彼はいつ見ても愉快なムーヴをしてくれるね」
「これ、いつものなの? ああ、敬語が良いかしら?」
「ふっ、構わないよ。ツムギ君の良い人なのだろう?」
「不本意ながらね」
「クックッ、好かれた物ではないか」
朗らかに話していると、遠くから荒々しい足音が聞こえてきた。
「戻ってきたぜッ!!」
大音を上げて扉が開け放たれ、ちょっと見ぬ間に〝何故か〟ボロ雑巾のようになっているツムギが現れた。
「あぁー、ツムギ君。何コンボ行ったかね?」
「37コンボだぜ! 最高記録だ! 流石はルセリだ!」
「え? これ、私が褒められる流れなの?」
思わぬ流れ弾に戸惑うルセリに、ヴァイスハルトは頷く。
「うむ、今まではアリア君の33コンボが最大だからね。君にはピンボールの才があると見た」
「あんまり嬉しくない才能もあったものね……」
活用する機会が訪れる未来が、全く見えない才能の発覚であった。
イメージは、スマブラでのバンパーでの跳ね返り。
連鎖すると面白いくらいにぶっ飛びますよね、あれ。
うちのシマでは、あの現象はビリヤードの原理と呼ばれていました。
 




