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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
74/81

巻き込み上等

 ユグ・ナ・メイズ王国、王城。

 かつては重厚さと風靡さを兼ね備えた歴史ある立派な代物であった。


 しかし、侵略により国は滅び、象徴たる王城も無惨に焼け落ちてしまった。


 現在のそれは、国家の再建と同時に造り直された、非常に新しく、()()()()()()()()物となる。


「……遠目から見てて思ってたんだけど、あれ何?」

「ん? 国の城だぞ?」


 世界樹の幹、その直下の空洞に建築されたそれは、あまりにも凶悪な造形をしていた。


 骨。骨骨骨。

 隙間こそ別の素材で埋められているが、柱や壁など、ほとんどの部分が白い骨で埋め尽くされている。


 溢れんばかりの殺意を、悪戯心と悪意で煮詰めて、蛇蝎で飾り立てたかの様な醜悪さである。


「武骨城塞〝ガッデム〟だ。俺たちが造った傑作だぜ」

ガッデム(神が地獄に落とす)? また皮肉じみた名前を付けたものね」


 ネーミングセンスの悪趣味さに、ルセリは呆れる。

 それよりも気になるのは、あれが見た目だけの代物なのか、という点だ。


「虚仮威し、って訳は無いわよね?」

「無論」


 ツムギは断言する。


 彼をして、自慢の作品なのだ。

 愛する人に自慢しない訳がない。


「厳選に厳選を重ねた使用骨材は、全て起源種もすくはその第一世代のもの!

 素材そのものの強度も確かだが、一本一本に〝呪〟を刻み込んであり、カウンター型の防御壁を築き上げる受動型攻撃を実現!

 ついでに最近は世界樹の恵みとも直結させたおかげで高速自動修復機能まで搭載した!

 クククッ、起源種が徒党を組んで襲い掛かってきてもビクともしないぜ!

 まぁ、そもそも緑の大陸レベルの起源種だと世界樹の守りを突破する事すら出来んと思うが」


 確かに凄まじい傑作である。

 であるのだが、残念な問題点としてその機能が発揮される事態に、そもそも陥らないという事が挙げられる。

 全ては、国を覆い尽くす世界樹とかいう最強の防壁が悪いのだが。


「…………なんというか、城そのものも大概だけど、とことん世界樹が無駄に猛威を振るってるわね、この国」

「それな。マジであのショタエルフの野郎め。俺たちの努力を無に消しやがって」


 人畜無害そうな可愛い顔をしている、やらかし具合ではトップクラスの馬鹿エルフである。

 彼が緑が欲しいとかのたまって謎の苗木()を城の中庭にぶっ刺した結果が、現在のこの国の惨状なのだ。

 その一例だけで、脳ミソのネジがどれ程に八艘飛びしているのかが理解できるだろう。


「ふぅむ。まぁ、多分、私がその程度は超えてみせるわよ」

「ルセリちゃん? 張り合わなくて良いんだよ?」

「私、お転婆なのよ。知ってた?」

「ラピス大先生様を見てれば分かるよ」


 そうしたい訳ではないのだが、ぼんやりと想定している要塞工房を建造してしまえば、きっとユグ・ナ・メイズ王国も今の形を保っていられないだろう。


(……まず天使連中には目を付けられるわよねぇ~)


 旧時代の技術をふんだんに使用した上に、現代の神々の因子を取り込んだ、最新式の超要塞である。

 間違いなく天使連中から攻撃されるだろう。

 もしかしたら、神々が直に出てくるかもしれない。


 目的を果たした後ならば、どうしてくれようと構わないのだが、そんなこちらの事情を考慮してくれるような寛大な思考を、上の連中はしていない。


 絶対に、即座に、破壊しに来る。


 壊したい神々と、壊されたくない自分。


 ならば、どうするか。


 簡単な事、抵抗すれば良い。

 天使を落とし、神々を蹴散らしながら、母をぶん殴ってやるしかないのだ。


 当然、そんな事をすれば王国も巻き込まれるだろう。


 ルセリは、凄惨になるかもしれない未来を脳裏に描きながら、ツムギを見遣る。


「何だい? 俺のカッコ良さに惚れたか」

「自意識過剰って言葉を辞書で引いてきなさい。ないから、それ」


 ツムギは、喜んで巻き込まれに来てくれる、と、断言してしまうのは勝手な妄想だろうか。


 ルセリは、彼から視線を外して周囲を見回す。


 歩く街道には、人々の営みがある。

 人が行く。

 エルフが行く。

 獣人が行く。

 …………アンデッドが嫌そうにドブ掃除をしている。


 最後に変なものが混じった大変に不可思議な光景だが、平穏で平和な雰囲気だ。

 たとえ、箱庭の中の事なのだとしても、それがとても得難い黄金よりも猶貴重なものだと、彼女は痛いほどに知っている。


 これを壊しかねない事をしようとしている。

 その事に、ルセリは一人心を痛めた。


「……まっ、気にすんな」


 そんな彼女の頭に、無骨な手が載せられる。

 金糸のような美しい髪を、クシャクシャと雑にかき混ぜながら、ツムギは見透かした様に断言した。


「俺たちを舐めるな? 【騒動の種(トラブルメイカーズ)】と、それを受け入れた国だぜ?」

「……別に、何も気にしていないわ」


 ぶっきらぼうに言って、ルセリは頭の上の手を払い除ける。


「ほら、行くわよ。時間は貴重なんだから」

「はいよ。お姫様」


 軽くなった心模様を表すように、ルセリは軽やかな足取りで王城を目指していくのだった。

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