人脈と書いてコネと読む
「…………、……んあー、何やってんのかしら」
「おっ、ルセリ。ふふふっ、君を待っていたのさ」
「ぬぐぐぐぐぐっ……!」
特に問題なくメンバー登録を終えて奥から出てきたルセリだったが、そこで展開されていた光景に呆れの吐息を漏らした。
そこでは、先程よりも破壊痕の広がった内装があり、その中心でツムギとエステリアの二人が至近距離で絡み合っていたのだ。
勿論、言うまでもない事だが、距離感的には恋人のそれだが甘い空気はまるで存在しない。
卍固め。
一言で表現するならば、大体、そんな絡み方だろうか。
一応は神聖な存在である天使を相手に見事な関節技を極めており、そこに神々しさとかそういう代物は皆無な状態となっている。
ルセリとしては止める理由もあんまりないが。
むしろ、もっとやってやれと内心で思っているが。
エステリアは、大したダメージにはなっていないようだが、マウントを取っているツムギを振り落とそうと踠いている。
だが、馬力で負けている為に、あまり上手く行っていない様子である。
翼も上手く押さえ込まれており、羽ばたく事が出来ていない。
「……何がどうしてそうなってるんだか」
「いやな、この食い倒れ駄天使がテメェの職場の場所を把握してないもんだからな。
ちょっと仕置きを」
「言い掛かりは止めるので御座います! 調べれば分かります!」
「現時点じゃ知らねぇんじゃねぇか!」
ツムギの不名誉な物言いに、エステリアは身体を折り畳まれながらも吠えるが、即座に否定されてしまう。
征罰衆の拠点であり、神々への直通回線でもある〝神殿〟は、空を飛ぶ浮島となっている。
その為、基本的に風の吹くままに空を彷徨っており、一所に留まっていないのだ。
ツムギ自身も、あまり近寄りたくない場所なので、いちいち把握していないし。
なので、ルセリの件で嫌々渋々ながらも神殿に用のあった彼は、副長にその所在を訊ねたのだが、まさかの知らないという回答が返ってきた為、殴り合いが更に白熱してこの様な状態となったのだ。
「ふんっ、クソ駄天使めが。今日のところはこれで許してやるぜ」
「貴方に許して貰わなければならない理由がないので御座いますがー!?」
技を外したツムギに、エステリアは性懲りもなく食って掛かるが、次の一言で沈静化してしまう。
「いい加減にしねぇと、統括官殿にチクるぞ」
「……………………今日は勘弁して差し上げましょう」
そそくさと退散していく。
基本的にやる気のない征罰衆総長だが、時折、唐突に動き出す事がある。
本当にどういう基準でルナリアのやる気が作用するのかは全く以てさっぱり分からないのだが、ともあれ下手に彼女が動き出すと大抵が大事に発展してしまう。
ついでに、巻き込まれた者たちは敵味方も関係なく命の危険に直面する事態となる。
ムカつく物とよく分からない物は取り敢えず斬れば良い、とかいう主義のせいだ。
なので、総長ルナリアに対しては、兎に角、刺激しない事が大切なのである。
まさに、触らぬ神に祟りなし、だ。
神々からしてそういう対応なのだから、一介の天使では尚更だろう。
「ふっ、敗北を知りたい」
「……神の連中に喧嘩売ってくれば?」
「死ねと申すか」
「敗北、知りたいんでしょ?」
「身の程くらいは弁えているさ」
「弁え過ぎててそれはそれでムカつくわね~」
ともあれ。
「うむ、無事にメンバー登録は終わったようだな! これで正式に俺たちの仲間だ!」
「不本意ながら、ね。まっ、短い間だけどよろしくね」
本当なら、《アーク》のアクセスデバイスを回収してさっさと戻るつもりだったのに、ラピスが非協力的なせいで思わぬ長期戦となってしまった。
それでも、生涯を懸ける程の時間にはならないと予想しており、仲間意識が芽生える程の時間は共にいないだろう。
ツムギは、そんなルセリの言葉に不満気な顔をするが、すぐに取り繕うと一つの提案を行う。
「じゃあ、早速だが王宮に行こうぜ!」
「……何の為に?」
「そりゃあ、俺とルセリの結婚報告に――」
ルセリは、無言でのレーザーガン抜き撃ち三点バーストによって、アホをのたまったツムギの眉間、喉元、心臓の三急所を撃ち抜いた。
「ふふふっ、そうだね。まだ早かったね」
「永遠に来ないまだだけどね。……どうやったら殺せるのかしら」
「俺もよく分からないんだよなぁ、それ」
身体に空いた風穴を拭って塞ぎながら、ツムギは言う。
改造コンセプトは、超人を造る、と言うよりも、死なない人間を造る、である為に耐久性能は当の本人さえもその上限を知らないのだ。
「まぁ、未来の話はさておいて」
「永遠に来ないっつってんでしょ」
「これから、派手にやらかす気なのだろう? 王宮に話を通しておけば、色々と便利だぞ? 国土全体を秘密基地に出来る」
「…………意外と魅力的提案ね」
宇宙要塞を地上仕様に変更して建造するつもりである。
その為には広大な敷地が必要になる事は目に見えている。
それを思えば、事前に話を通しておく事は大変に重要な事だ。
「俺も、ちょいと国王の野郎に用事があるかんな。ついでだ、ついで」
起源種に関連した事を、一応は警告しておかねばならない。
放置していてもギルド幹部が誰かしら常駐している時点で、致命的な事態には陥らないとは思うが、事前の覚悟は必要だろう。
「まっ、そういう事なら良いわ。付き合いましょう」
「うっし! 決まり!」
アポイントメントも無しに、気軽に一国の王と謁見できる立場。
救国の英雄だからこその人脈であった。
・神殿についての、どうでもいい設定。
人々が信仰を捧げる場所としての教会や聖堂と、征罰衆が本拠にしている神殿は別物です。
教会や聖堂は、人々が信仰を捧げ、祈りやお布施をする場として地上のあちこちに存在します。その管理自体は地上の知的生命体が行っており、神々や天使は直接的には関わっていません。とはいえ、完全な放置という訳ではなく、時々、征罰衆が抜き打ちでガサ入れをしています。ちょっと私腹を肥やすくらいならお目こぼしをして貰えるけど、神への反逆に繋がるような事をすれば、無自覚無意識だろうと裁判無しで即座に粛清されます。ディストピア……。まぁ、そういう舞台設定だけど。
神殿は、空飛ぶ浮島に建設された征罰衆の拠点であり、下界を監視する施設でもある。また、一種の試練としても機能しており、下界の知的生命体が自らの力で辿り着く事が出来れば、神々に対して直談判する権利が得られる。要望等を聞いて貰えるかは、また別問題だけど。ついでに、要注意人物として、征罰衆の監視リストに加えられるけど。