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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
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第三十一話:不穏の影

「あっ、アリア。ちょい待て」

「あん?」


 喧嘩が収まり、アリアも上階にある自身の部屋に戻ろうとしていた。

 そこに、ツムギが待ったの声をかける。


 不機嫌を隠そうとしない彼女の表情は、控えめに言っても悪人のものだった。

 元が清楚美人系の顔立ちだけに、実に勿体ない。


「何ですか。

 まさか、仕事をする気になったのですか?

 あなたが?」

「それは気が向いたら手伝ってやるから。

 それよりも、……んぐっ、ちょい、おふっ……渡すもんがあるって……げぷっ」


 言いながら、彼は腹を叩きながらえずく。

 どうやら、腹に納めていた何かを吐き出そうとしているらしい。


 絵面は非常に悪いが、物をあまり持ち歩こうとしない彼にとっては、唯一の収納手段である。

 加えて、彼の体内以上に高いセキュリティは、中々用意できるものではない。


 アリアも、ツムギとはなんだかんだで長い付き合いである。

 彼のこうした行動も、よく知っている。

 なので、僅かに眉をひそめるだけに留めた。


 そして、彼の口から目的のブツが吐き出される。

 毒々しい紫色の、人の頭大の魔石だった。


「ほい、これ。お土産」

「……せめて拭いなさいな」


 胃液でベトベトのそれを受け取りながら、アリアは呟く。

 それはそれとして、彼女は大雑把にそれの鑑定を始めた。


「……ふぅん。

 まぁ、毒系統の魔石ですね。

 レベルは、百くらいでしょうか?」

「大体、そんな所だろうな」

「で、これが何ですか?

 確かに、一般的には貴重品ですが、ここでは珍しくもないでしょう?」


 人の領域である緑の大陸では、百レベルの魔物など、そうそうお目にかかれない。

 そういう風にデザインされている。


 しかし、外の大陸に出向けば、逆に当たり前の様にあるものだ。

 なんなら、そこら辺の魔物が普通に百レベルを越えている、という事も当然のように起こる。


 彼ら、『騒動の種』は、幹部資格として、外の大陸にて充分に暮らしていけるサバイバル能力を要求している。

 なにせ、創始者である四人組が、揃ってその条件をクリアしているのだ。

 彼らに物申したいならば、それくらい出来て貰わねば困る。


 故に、このギルドにおいては、百レベル相当の魔石は、そう珍しいものではない。


「いやな、それ、起源種の魔石なんだよ」

「ほう! 起源種ですか。成る程……」


 続いて明かされた正体に、アリアの興味が惹かれる。


 起源種は、非常に珍しい存在である。

 彼らでも遭遇した起源種はそう多くない。


 その魔石となれば、レベル帯に関わらず、興味を惹かれるというものだった。


「百レベル程となると、生まれたてですか。

 どちらで狩ったのですか?

 閉ざされた大陸辺りですか?」

「いや、この大陸。人の世界で」

「…………それはそれは」


 ツムギの言葉に、アリアは目を細める。


 緑の大陸においては、起源種などほとんど生まれない。

 特定条件下でしか生まれず、その脅威から人々からは魔王だの天災だのと、伝説として語られる存在である。


 アリアたちは、つい先日、近隣で発生した起源種を狩り取ったばかりである。

 故に、今後、数十年は生まれないと思っていたのだが、どうやら早々に発生していたらしい。


「……成る程。成る程成る程。

 詳しい話は後程聞きますが……。

 ふふっ、神々はよほど腹に据えかねておられるご様子で」

「まぁなー。

 最近は、調子に乗り過ぎてる雰囲気だし。

 この辺りで一発躾るつもりなんじゃないのかね」

「恐ろしいことですね」


 と、全く恐れていない様子で、アリアは言う。

 その顔には余裕の笑みすら浮かんでいた。


 ツムギも、同じように大して重大な事としては受け止めていない様子である。

 少しばかり慌ただしくなる、と、その程度の認識していなかった。


 それは、彼らが知っているから。

 起源種の発生理由を知っているから。


 それは、彼らが強いから。

 神々の懲罰程度では、絶対に死なないと確信できるから。


 だから、彼らは問題視していなかった。


「まぁ、分かりました。

 こちらでも少し調べてみましょう。

 夜逃げの準備くらいはしておきます」

「おう、頼むわ」

「それと、王宮への知らせと……神殿への問い合わせはお任せします」

「げっ」


 続けて言われた依頼に、ツムギは嫌そうな顔をする。


「王宮はともかく、神殿は嫌だぜ? 俺」

「何を言っているのですか。

 あの娘の事で、どうせ立ち寄るでしょう」


 ルセリの事を言っていると、即座に理解したツムギは、今度は苦笑いを浮かべた。


「……分かっちゃう?」

「分かり易すぎです。

 あなたが連れている、というだけで明白です」


 そう言って、アリアはツムギの背後を顎でしゃくって示した。


「ほら。窓口が来ましたよ」


 直後、ツムギの肩に手が置かれた。

 ギリギリと万力の様に締め付けてくるそれは、込められている力に反して、とても美しい肌色のたおやかな手指だった。


「ツムギ。

 少し、お話の必要があるので御座いますよ」


 振り向けば、そこにいたのは、満面の笑みを浮かべた天使――第五位階という最上位に位置する女性がいた。


 征罰衆副長、エステリアである。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう一年半程か...旅は長いな
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