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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
62/81

第二十二話:アークロンド盗賊団

本日、二話目

 特に気にせずに悠長に歩いていると、やがて眼に見える位置にまで近付いてきていた。


「んー……、あれはユニコーンって奴かしら?」


 遠目に見えたのは、6騎の騎馬たちだ。

 上に乗っているのは、如何にも粗野で野蛮そうな顔つきと恰好をした男たちである。


 それは、盗賊と言うのならば、イメージ通りの姿であり、特にどうという事もない。

 引っかかる部分もあるが。


 それよりもルセリの目を惹いたのは、彼らが騎乗する馬の方だ。

 色は様々だが、どれもが名馬の如き力強さを、遠目にしていても感じさせる。

 そして、彼らの額には鋭く長い角が一本、雄々しく生えていた。


 一角獣(ユニコーン)

 幻想上にのみ存在する馬の一種だ。


「まぁ、そうだな」


 ルセリの疑問を、ツムギは肯定する。


 盗賊たちが騎乗するのは、確かにユニコーンと呼ばれる魔物の一種だ。

 とはいえ、比較的大人しい性質であり、人の手で手懐ける事も可能な魔物である。


 何処の国でも、一部隊はユニコーンのみによって編成される騎馬隊があるほどに、ポピュラーな騎馬と言える。

 それを盗賊風情が飼い慣らしている事は、イレギュラーどころの話ではないが。


「やっぱり処女しか乗せないのかしら?

 でも、あいつら、男よね?

 あっ、でも童貞ではないかもしれないけど、処女ではある可能性も高いわね」


 目をキラキラさせながら、期待を込めてルセリが語る。

 やはり女の子なのだろう。

 白馬の王子的なものに憧れがあるのかもしれない。


 だが、残念な事にツムギはその期待を裏切る解説しかできない。


「……いや、残念だが、そんな処女厨じみた感性を、連中は持っていない。

 角が生えてて、ちょっと強力なだけの、ごく普通の馬だ」

「…………つまらないわね。がっかりよ」

「すまんな、ルセリ」


 心底、冷めた視線を向ける事に躊躇しないルセリ。

 ツムギは心からの謝罪を告げるしかなかった。


 そうこうしている内に、騎馬たちが直近にまで迫ってきており、二人を取り囲んでいた。

 地平線近くにいたというのに、大した馬力である。

 魔物の一種と言うだけの事はあるのだろう。


「ヒュー! 美人な姉ちゃんじゃねぇかぁ……!」

「こいつぁ良い金になるぜぇ!」

「兄ちゃんも痛い思いなんざ、したくねぇだろー?

 彼女渡しゃ、無事に返してやんぜぇー?」

「それとも、俺らに立ち向かってみっかぁー?

 一人でよぉ! ギャハハハハッ!」


 品性という物が欠片も感じられない、野蛮を体現したような台詞の数々。


 ルセリは唖然とせざるを得ない。

 あまりにも定番通り過ぎる茶番だったからだ。


「……ねぇ、一つ、訊きたいんだけど」

「なんだい、僕の可愛い彼女」


 盗賊たちの台詞に気を良くしていたツムギは、調子に乗ってキメ顔でそんな事を言った。


 ジュッ、と彼の腹から焼けるような音が鳴った。

 ルセリが流れるような自然な動きで、光剣を突き刺したのだ。


「流石に痛いのだが……」

「愛のある罰よ。

 甘んじて受けなさい」


 ならば仕方なし、とそれ以上はガタガタ言わずに受け入れるツムギである。

 愛は偉大なのだ。

 どう考えても用法を間違っているが。


 ちなみに、突然の味方同士におけるバイオレンスに、盗賊たちは唖然として動きを止めていた。


「で、本題に戻すんだけど、何この茶番?」

「流石はルセリだ!

 彼らの演技に気付くとは!」

「分かるわよ。

 何の悪意も殺意も感じられないもの」


 乱暴な言葉とは裏腹に、盗賊たちからはこちらを害そうという、そんな意思が欠如していた。

 しかも、彼らの身なりは、不自然に清潔なのだ。

 確かに、一見すると汚らしい恰好ではあるが、よく観察してみれば、それがわざと汚した、わざと汚く見せているだけの、見せかけのものだと分かる。


 盗賊が清潔であってはいけない訳ではないが、わざとらしく汚す事の意義をいまいち感じられなかったルセリは、彼らの害意の無さと合わせて、それを演技であると判断したのだ。


「て、テメェら! 何言ってやがる!」

「応よ!

 俺らぁが演技だってぇ!?

 何を根拠にそんな事を……!」

「ちょぉっと甘い顔をしてやれば付け上がりやがってよぉ!

 そんなに痛い目見たいってかぁ!? ああん!?」

「俺ら、泣く子も黙るアークロンド盗賊団だと知っての事かよぉ! おお!?」


 我に返った盗賊もどきたちが口々に脅しかかる。

 剣を抜いて、威嚇するように切っ先を向けてくる。


 ほとんどの装備を破壊されたルセリだが、それでも地上では尋常ならざる戦力をいまだ保有している。


 だから、それが本気であろうと脅威とは言えない。

 ましてや、それが演技ならば恐れる筈もない。


 ルセリは、白けた雰囲気を醸し出しながら、ツムギへと言葉を投げた。


「はい、説明」

「承知しました、御嬢様。

 彼らは、アークロンド盗賊団。

 ユグ・ナ・メイズ王国の王宮から盗賊免状を発行された、合法の盗賊だ」

「ななな、なん、何を言っていやがる!」


 即行で正体をばらされた彼らは、流石に狼狽える。

 彼らは、盗賊団であり、同時に密偵的な役割も担っている。

 その為、彼らの正体を知っている者は、国民にすらほとんどおらず、国外では本格的に誰にも知られていない。


 その性質上、彼らは国民の顔はほぼ知っている。

 そう広くもなく、また国民の数も多くない為に出来る離れ業だが、そのおかげで外の人間かどうかは一目で判別できるのだ。


 なのに、この二人は外の人間の筈なのに、一発で正体を看破された。


 あってはならない事に、彼らは初めて殺意を発した。

 外に自分たちの情報が漏れている。その重要性と危険性に、目の前の二人を抹殺、可能ならば捕縛すべきだと反射的に思っていた。


 瞬間。


 彼らは死を幻視した。


 自分たちの正体を語った長身の男が、横目で自分たちを一瞥した。

 その瞬間に、億千万の刃に刻まれるような鮮烈な殺意が彼らを貫いたのだ。


「おっ……」


 立ち止まるしかなかった。

 身動き一つ、出来なくなってしまった。


 ツムギは、そうして彼らを足止めしながら、ルセリへと笑って語る。


「こいつらは、王家直属っつーか、王族直属、もっと言えば、王妹直属なんだよな。

 というのも、現国王の妹姫、リースリット・メイズ・アークロンドが遊びのつもりで始めた組織だからな。

 主な仕事は、入り込んでくる本業の盗賊共の抹殺と、客人への盗賊イベントを仕掛けるお芝居だな」

「また随分とお転婆なお姫様ねぇ。

 やっている事も、前者はともかく、後者はよく分かんないし。

 つまり、こいつらのボスはそのお姫さまって事?」


「その通り。クソウゼェ雌犬だ。

 ちなみに、アークロンドの名を冠しているのも、問題ない。

 なにせ、対外的にはリースリット・メイズが本名で、アークロンドの名は明かされていないからな!

 堂々と名乗っている訳だ!」

「なんともまぁ……」


 完全に正解だ。

 否定する場所が何一つとして存在しなかった。


 恐怖を振り払い、盗賊の一人が何とか言葉を絞り出す。


「ど、何処で、そんな話を……」

「おいおい、お前らよ。

 俺の顔を忘れちまったのか?」


 そう言われるが、ピンとくるものはない。

 国民の中に、彼と一致する顔はなかった。


 弱々しく首を横に振る彼に、ルセリは溜息を吐いた。


「……ツムギ、あなたの知名度にはガッカリよ」

「そんな!

 おい、お前ら!

 お前らの無知無能の所為で俺の株が大暴落だぞ!

 どうしてくれるッ!?」


 ツムギが割と本気の声音で吠える。


 叩き付けられる威圧と、そして何よりもルセリが発した名前。

 それで彼の正体に思い至らない者など、この国の民には一人たりとも存在しない。


「ツ、ツムギ様!? でありますか!?」

「ず、随分と印象が変わりましたな!」

「ふっ、イメチェンだ。カッコいいだろう?」

「……え、あー、大変によろしいかと」


 正体に思い至った事で、ようやく威圧が解かれ、自由を取り戻した盗賊擬きたち。

 安堵の息を吐きながら、おそるおそる彼らは切り出す。


「あ、あのー、ツムギ様?」

「何かな?」

「そちらの女性は……その、どちら様で?」

「俺の嫁――おうっ」


 スパッ、と刺さったままだった光剣が振り抜かれた。


 盛大に斬り裂かれて、ごぽりと血が吐き出される。

 目に見える速度で肉が繋がり、何事もなかったように修復されるが、傷の大きさ故に、僅かな一瞬の間にツムギの足元には大きな血の池が生まれていた。


「何か言った?」

「うちの客人だ。

 残念な事にな」

「は、はぁ」


 彼らが知るツムギであれば、たとえ正当なツッコミであろうと、反撃しない筈がない。

 最も心を許しているであろう、トラブルメーカーの面々に対してでさえ、そうなのだ。

 他の誰であっても同じように対応するだろう。


 だというのに、このルセリという女性に対しては、そうはしなかった。


 彼が、本当の意味で受け入れているという証左である。


 由々しき事態だ。

 ある意味、国家を揺るがしかねない程に。


「……姫様が知れば、何と言うか」

「あん? 何だって?」

「いえ、何も」


 はっきり聞こえていただろうが、せっかく知らない振りをしてくれたのだから、それに乗っかり適当に誤魔化しておく。


「で、では、これにて失礼します、ツムギ様。

 此度の件、すぐに気付かず大変に申し訳ありませんでした」

「良いって事よ。

 とっとと行きな。

 俺らに盗賊イベントは必要ない」

「はい。では」


 一礼して、すぐに手綱を操って走り去っていく盗賊擬きたち。


「…………この国は面白い物が多いわねぇ」

「愉快な国だろう?」


 冗談が現実に固められたような国である。


人物紹介第三弾。


名前:統合式兵器群制御用自動人形試作型《アルマティア》

種族:人形

所有ギフト:なし


プロフィール:冒険者ギルド『騒動の種(トラブルメイカーズ)』に所属する冒険者。その正体は、旧文明期に開発された自動人形である。破棄された研究所の中で、3000年もの間、眠りに付いていた。遺跡を発掘したツムギによって起動され、以降、神の力を宿さない人間であるツムギを、便宜上の所有者(マスター)として登録している。便宜上なので彼の言う事はろくに聞かないが。3000年の経年劣化に加え、メンテナンスを受けずに戦闘を含めた活動を行った結果、あちこちで不具合が発生しており、完全破損しつつある。


イメージ像補足:体長は人の頭に乗れるくらいの大きさ。30㎝くらいか? 肌には、筋などが入っており、造り物だと一目で分かる。


挿絵(By みてみん)

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