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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
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第十一話:ロマンの始まり

 村の端、と言っても、元々、そう大きくない村である。

 普通の都市ならば、中心街と言っても良い程の近くに、その家はあった。


「……案外と綺麗だな」

「そうね。ちょっと古びた感じはあるけど」


 目の前にある家は、他の家屋と違い、古びた印象こそ受けるが、しっかりと手入れがされているように見える。


 小さな一戸建てだ。


 その玄関扉にツムギが手を伸ばす。

 鍵はかかっていなかった。


 暗い家の中に入るが、やはり清潔感が感じられ、長年、放置されている筈なのにもかかわらず、埃っぽさはまるでなかった。


「罪滅ぼしのつもりなのかね」


 魔法か何かがかかっている、という訳ではないだろう。

 そして、持ち主である〝アリア〟が何かをしているとも、ツムギには思えない。

 彼女にとって、ここは死にたくなるほどに苦い記憶しかない筈だから。


 だから、ここを掃除しているのは、きっと村人たちだ。

 真実を知り、彼女の言葉の全てを無視して、追いやった事を後悔した彼らなりの罪滅ぼしなのだろう。


「ふぅん。ちょっと狭いけど、趣があって好きよ、こういう家」


 何も知らないルセリは、気ままな感想を漏らす。


「ふっ、俺たちの愛の巣は、こんな感じがご所望かい?」

「はいはい。一億年後くらいにお願いするわ」

「んー。骨も朽ちそう」


 ツムギの愛の言葉を適当にスルーしながら、リビングに位置する部屋へと入る。

 そうして見回すと、どうにも特徴的な物体が目に入った。


 天井から吊り下げられた、一本のロープ。

 途中で千切れているが、一体これは何に使うつもりで設置されたものなのか。


「……ねぇ、あれって」

「ああ、アリアが首を吊った記念品だな」

「事故物件じゃないの、ここ!?」

「安心しろ。

 本人、ちゃんと生き返って、今はピンピンしてるから」


 その瞬間に、死神の権能が取り付かなければ、普通に死んでいたのだろうが、結果が良ければ全て良しである。

 村人やヘリツィア王国の民にとっては、不幸の始まりであるが。


「晩飯は何が良い?」

「んー、シェフのオススメで。でも、お肉は欲しいわ」

「りょーかい」


 炊事場に、ツムギが立つ。


 ルセリは、その間、リビングで完成を待っているのだが、特に見るべき物の無い部屋である。

 すぐに手持無沙汰になったので、ホログラム装置を取り出して、テーブルの上に転がした。


 スイッチを入れれば、何らかの設計図と思しき画像が射出される。


「おっ、それ何よ?」


 炊事場から顔を出しながら、ツムギが興味本位で質問を飛ばしてくる。


「私の時代にあった、宇宙要塞よ。

 攻撃も防衛も、移動も補給もできる万能タイプね。

 まぁ、どれもこれもが中途半端って事なんだけど。

 でも生存性という意味では、結構、活躍したわ」


 全長5,000メートルという巨大兵器である。

 一個の都市を内蔵しており、要塞内でエネルギー循環がされており、無補給下でも世代を跨ぐほどに稼働し続けるという化け物兵器でもある。


 とはいえ、その所為で兵器として重要な攻撃性能や防衛性能という点で中途半端な性能となっており、戦場で活躍する事はほとんどなかった。

 代わりに、救助船や避難船としては大いに活躍しており、かつては多くの民を運んで星の海を旅させた傑作の一つである。


 ルセリがデコピンで画像を弾くと、その部分が破砕するような演出で排除される。

 それを連続して行いながら、彼女は言う。


「色々と考えたんだけど、工房はこいつをベースにして造ろうと思ってね」

「派手だねぇ。

 嫌いじゃないけど。

 むしろ好きだけど」


 この時代においてオーバーテクノロジーどころではないものを、容赦なく造るという選択を取るルセリに、ツムギは笑いかける。


 やがて、ほとんどメインフレームだけとなってしまった画像を前にして、ルセリは手を動かしていく。


「色々と改造しないと、あのお母さんには対抗できないわよね。

 素材の厳選から始めないといけないかしら? やっぱり。

 ……決められるところから決めましょうか。

 動力炉は、当然、虚空炉をメインとして、サブとして時流路を取り付けて……」


 完全にロマン優先の、私の考えた〝さいきょーへいき〟を描き出していくルセリ。


 その楽しげな様子を見れば、ツムギも楽しくなってくる。


(……うちに連れてったら、楽しくなるだろうなぁ)


 ロマンを解する馬鹿どもの集まりが、ツムギが属する冒険者ギルドの特徴だ。


 きっとルセリの事も、皆が気に入ってくれる筈だ。

 そして、彼女の提案を聞けば、悪ノリし始める事も目に見えている。


 そうして完成するのは、どんなものか。

 きっと、世界でも見た事のない凄いものが出来上がるに違いない。


 未来にあるだろう感動を想い、口を笑みに歪めるツムギだった。

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