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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
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第十話:戦友の家

 結局、二人がその日の内にヘリツィア王国を抜ける事は出来なかった。


 何か問題があった訳ではない。

 単純に、王都での観光もどきで時間を取ってしまった所為で、国を抜けるギリギリの所で日が暮れてしまったのだ。


「夜通し走っても良いんだけど、急ぎはしないだろ?

 この辺りで休もうぜ?」


 夜目の利く二人であるが、一応は昼行性の生物である。

 特に理由も無いのであれば、徹夜で動く必要もない。


 その確認の為、ツムギは振り返りつつ訊ねると、ルセリは渋々という様子で頷く。


「……まぁ、今更ガタガタ言わないわ。じっくりと行きましょ」


 心情としては、母ラピスを張り倒す為に、一刻も早く準備に取り掛かりたい所である。


 とはいえ、もう長期戦になる事は覚悟している。

 今更、一日二日程度で文句を言う気はない。


 なので、彼の提案に賛成を示した。


「じゃ、この近くに確か開拓村があった筈だ。

 そこに泊まろうぜ」


 言って、少しばかり足の向く先を修正するツムギに、ルセリは冷ややかな目でツッコミを入れる。


「開拓村って……。

 こんな国の端っこの村だと、宿泊施設なんてないでしょうに」


 というか、こんな状態の国の集団の中に入りたくなんてない。

 それならば、無防備に野宿した方が、まだマシだ。

 精神衛生上。


 しかし、ツムギは楽観的な笑みを浮かべて言う。


「まぁまぁ、そこは当てがあるのよな」

「……本当に?」

「多分?

 何分、この国はいっつも素通りしてたからなー。

 あんまり覚えてないわ」

「じゃあ、当てが外れたら罰ゲームね」

「おっしゃ、かかってこい。

 何をすれば良い。

 ルセリを抱きしめれば良いのか?」

「お母さんを抱きしめてきて」

「俺に死ねと言うのか」


 己の欲望を優先させた望みを言えば、笑顔で処刑宣告をされた。


 賭けの結果や如何に。


~~~~~


 少しばかり歩き、夜闇が濃くなってきた頃に、小さな寒村が見えてきた。

 外から見ているだけだが、相も変わらず陰気な雰囲気が漂っているのが見て取れる。


「……辺境であっても、状況は変わらず、ね」

「まぁ、対象はヘリツィア王国だからな。

 何処だろうと変わらんわ」


 村人全員が家族みたいな土地故だろう。

 王都の様にそこらに死体にしか見えない人間が転がっている、なんて事はないのだが、やはり人通りは見えず、無人のようにも思えるほどだ。


 とはいえ、呻き声や泣き声はやはりあちこちから聞こえており、状況は何も変わっていない事が窺える。


 そうして、誰と会う事もなくツムギが先導する形で村を横断していると、一軒の民家から出てくる人物がいた。


「……あら」


 修道服を纏った女性である。

 年の頃は40前後と思われるが、それにしては白髪の量が多く、また顔に刻まれた皴も深い。

 一見すると、老婆にも見えるほどにやつれた女性だ。


 彼女は、二人に気付くと、小さく会釈して、疲れ切った笑みを浮かべる。


「お客様とは、珍しいですね。

 生憎と、この村には宿屋はありませんが……」


 日が暮れている状態から、宿泊場所を探して来たのだろうと当たりを付けた彼女は、やんわりとした口調で二人に言う。

 しかし、その助言にツムギは首を横に振った。


「いや、心配には及ばねぇよ。

 誰も使ってねぇ空き家があるだろ?

 そこに勝手に泊まるから」

「……空き家に見えるかもしれませんが、どの家も持ち主がおりますが」


 あまりに悲惨な有様となってしまい、管理しやすいように移動させた結果、住人のいなくなった家屋は確かにある。


 だが、それらはあくまで今はいない、というだけで、ちゃんとした持ち主がいるし、今も彼らは生かされている。


 それを勝手に使わせる訳にはいかない。

 特に、よそ者となれば、鬱憤のはけ口を求めて村人が襲い掛かりかねない。


 面倒を嫌って女性はそう言うが、やはりツムギは笑っている。


「いやいや、ちゃんと持ち主の許可は取ってあるって。

 近くを通ったら、勝手に使っても良いってよ」

「それは誰が……」


 閉鎖的で孤立したような村だ。

 外に知り合いがいる者など、ほぼいない。

 己の様に移住してきた者を除けば、村の中が世界の全ての様な人間関係しか、ここには存在していないのだ。


 だから、女性は首を傾げて、ツムギを怪しむ様に見ていたが、彼が次に挙げた名に驚愕してしまう。


「あ? アリアのボケナスに決まってんじゃん」

「アリ……!?」


 一気に顔を蒼褪めさせる女性。

 その名は彼女にとって、否、このヘリツィア王国にとって忘れられない名前であった。


 思考が停止して硬直してしまった彼女を放って、ツムギは以前にチームを組んでいた仲間の持ち家へと向かっていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな連続で投稿してくれると思わなかった…嬉しくて泣く
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