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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第二章:
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第六話:銀河帝国とかいう怪物国家

「ヘリツィア王国って、とんな国なのかしら?」


 跳躍を繰り返し、高速で山を駆け降りながら、ルセリは前を行くツムギへと問いかけた。


 興味がある訳ではない。

 ただ、道中に無言でいるのもどうかと思い、何気ない気分で振ってみた世間話程度だ。


「そうさなー」


 少し考えてから、ツムギは語り出す。


「歴史はやたらと古い国だ。

 確か……建国してから二千年くらいじゃなかったかね?

 世界でも二番目に古い歴史を持ってる」

「それは大したものね。

 銀河帝国ほどじゃないけど」

「いや、お前らの国と一緒にすんなよ。

 こちとら、大地の上で剣と魔法でどんぱちするような原始人ですよ?

 資源がなければ適当な星でも切り崩そう。

 土地がなければ適当な星を開発しよう。

 なーんて冗談みたいな事を、大真面目にやってる国とは違うっての」


 恒星間航法が一般的になり、宇宙の海を気軽に行き来できた旧文明時代。

 星々のみならず、銀河すらも股にかけて広がる版図を持っていた銀河帝国にとって、資源や居住可能惑星は探せば普通に見つかるものでしかなかった。


 場合によっては、一個の惑星を個人で所有する事もあり、少しばかり高価な不動産、という程度の価値しかない。


 戦争が、基本的に土地や資源の奪い合いでしかない以上、そんな国家において本気の全面戦争など縁遠いものなのである。


 尤も、思想の違いによる戦争とは完全な無縁ではいられなかった訳だが。

 その最たるものが、神々と激突した大戦争であるが。


 ともあれ、そうした理由で銀河帝国は数万年という歴史を誇っており、彼らからすれば二千年など赤子も同然である。


「だから、感心してるんじゃない。

 そんな野蛮な土地で、よくも二千年も国を守りましたね、って」

「うむ。上から目線の称賛だな。

 そんなルセリも素敵だ。

 ……で、話を戻すんだが、それだけ国家を存続できたのには、当然、理由がある訳だ」

「やたらと貧しかったとか?」


 縄張りの奪い合いが戦争である。

 ならば、その縄張りに価値が無ければ、必然的に周辺から攻め込まれる可能性は低くなる。


 肥沃な土地がなく、鉱山なども所有していない貧しい土地ならば、わじわざ戦争してまで誰も奪いたいとは思わないだろう。


 だが、その可能性にツムギは首を横に振る。


「いや、そうじゃない。

 肥沃、とは言い難いが、それなりに豊かではあった」

「じゃあ、国力が凄まじかったとか?」


 わざわざ、強い相手と喧嘩したいという人間は少ないだろう。

 唯一無二の何かが得られるのならばともかく、他に代用の利く何かしかないのならば、より弱い相手から奪うに決まっている。


 だから、戦備が充実しており、またそれを維持していられるほどの国力があったのか、という予測を立てるが、それにも否定の言葉が返ってきた。


「えぇー? じゃあ、宗教的象徴かしら?

 どこぞの神様が神殿でも構えてるとか?」


 戦争を仕掛けられない理由として、宗教的象徴もある。


 世界中に信者がいれば、そこを攻撃するだけでその集団は世界の敵となる。

 あらゆる商会などにそっぽを向かれ、今日を生きる糧を得ることすら難しくなってしまうのだ。


 それ故に、余程の馬鹿をしない限りは、安全を得られる場合もある。


「おっ、当たらずとも遠からずだな。

 ヘリツィア王国は、実はとある血筋を受け継ぐ国でな。

 それを維持するために、周辺から囲われてたんだよ」

「血筋って、また偉く原始的な……。

 流出とかしなかったのかしら?」

「流出はするさ。

 家出したり、誘拐されたり。

 種だけ持ち去られたりな。

 でも、駄目だったんだ。

 その血の価値が、何故かヘリツィア王国の本家でしか開花しない。

 よその土地では何故か芽吹かない。

 どういう理由なんだか、誰も分からないが、そういう理由なら仕方ないって、国ごと存続させる方向に行ったらしい」

「それはまた、不思議な話ね。

 開花させるのに、何かしらの技術があった?

 それこそが、本当に隠しておきたい秘技だったりするのかしら?」

「さてな。

 知らんし、あんまり興味の無い話だから調べる気にもならん」

「ふーん。それで、その血筋の価値って何なのかしら?」


 ようやく核心を訊ねれば、ツムギは端的に答えた。


「《勇者》のギフトさ」

「《勇者》……。

《勇者》って、あの勇者?」

「どれか知らんが、多分、その勇者。

 ときたま生まれる魔王を討伐する為のギフトでな。

 戦闘系ギフトの中では、最上位クラスだ」

「魔王って。

 そんなものまでいるわけ?」

「いやいや、つい昨日見たじゃん。

 起源種の事を、一括して魔王って呼んでんだよ」

「ああ、あれ」


 昨夜、毒を撒き散らせていた多頭の竜である。

 確かに、一生物としては高いエネルギーを持っていた。

 戦っていないので実際の戦闘能力がどれ程かは分からないが、怪物呼ばわりも納得できる。


 とはいえ、あくまでも生物としては、である。


 ルセリの常識からすれば、そう危険なものではない。

 ちょっと特殊な害獣くらいである。


 実際、彼女の時代ならば、宇宙戦闘艦の艦載兵器と言わず、歩兵の携行武器レベルで狩り殺せる程度の存在だ。


「えっ?

 あの程度を殺せる力が、特別扱いなの?」

「それが、今の人間の限界って訳だな。

 安全な箱庭の中にいる限り、それ以上は望めない」

「……情けない、とは言わないでおきましょうか、うん。

 敗者は牙を抜かれるのが普通だし」


 神々に敗北し、それでも存続を許された。

 それで満足すべきなのだ。


 ルセリは自分を納得せるように呟く。


「話がまたずれたな。

 んで、そんなギフトが非常に発現しやすい血筋ってのが、ヘリツィアにはあって、ヘリツィアでしか開花しないってんで、周りから無視されて生き残ってきた訳だな」

「またなんとも……」

「まっ、そんな歴史も幕を閉じる事が既に約束されてるけどな!」


 馬鹿話をするように、ツムギは明るく言い放つ。


「確か、神になんかされたんだっけ?」

「いやー、されたっていうより、何もされなくなったっていうか」


 微妙に歯切れの悪い言葉を汲み取り、ルセリは理解する。


「ああ、見捨てられたの。

 馬鹿ね。

 代替もできないくせに」

「だから、お前らと今の人間を一緒にしてやるなよ」


 神々と喧嘩して、神々の恩寵を受けられ無くなった銀河帝国。


 普通の人間国家ならば、神々のありがたみを身に刻まれ、自らの愚かさを反省し、恭順の意を示すものである。


 しかし、彼らは、銀河帝国は違う。


 彼らは仕方ないなと肩を竦めて、神々の恩寵を自分たちで再現するという、神々さえも驚かせたビックリ化け物集団である。


 後にも先にも、「お前らなんざそもそもいらねぇんだよ、バーカ」と神々に対して国家全体で中指を突き立てた連中は、彼らだけであろう。

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