第二十九話:戦利品の行方
「いやー、ハハッ、盛大に燃やしたな」
「……当たり前のように生きているわね」
爆炎が収まった頃、黒く焼け焦げた爆心地で、平然と立っている者がいた。
ツムギである。
ルセリの爆炎によって衣服は跡形もないが、彼の肌には火傷一つない。
強化外殻を分解収納しながら、彼女はツムギの頑丈さに呆れる。
「確かに、耐えきれるだろうとは思っていたけど、まさか火傷一つないとは。
ちょっとショックよ」
「ふはははっ、何、火傷しなかった訳ではないぞ!
俺の回復力はオークキング以上だからな!
焼ける端から治っていただけだ!」
「うっわ……。
お母さんったら、どんな改造したらこんな超生物を生み出せるのよ」
ツムギの自慢にドン引きしながら、彼女はナノ粒子の一部を変換して簡素な衣服を造り出す。
それを彼へと放り投げて、ルセリは言う。
「取り敢えず、服を着なさいな。
恥ずかしい」
「ふっ、俺に恥に思う所などないが?」
カッコつけて、具体的には腰を突き出すようなポーズを取りながらの言葉に、ルセリの視線が氷点下へと下がる。
「へぇ。その、粗末なものが?
恥じゃないって?」
男の致命傷へと攻撃が決まった。
ツムギの自尊心に大ダメージが入った。
「ぐふぅ!?
そそ、粗末ちゃうわい!
外見相応なだけだし!
ちゃんと成長すればビッグなハイパー兵器になるわい!」
「はいはい。成長すれば良いわね。
強化人間なあなたが、ちゃんと成長するのかは疑問だけど」
彼の言い訳を、まともに取り合わないルセリである。
ツムギの自尊心に追加ダメージが入った。
彼は泣きそうである。
もぞもぞとルセリの用意した服を着込むツムギを背景に、彼女は周辺を探索する。
そして、その結果にガッカリした様子を見せた。
「ああ、やっぱり。
命のキノコが全然残ってないわ」
苛立ちのあまりに、つい核融合爆発なんて代物を使ってしまったのは失敗だった。
おかげで、キング以外のオークも消し飛んでおり、当然、諸ともに彼らの命で実るキノコも消滅してしまっている。
ルセリの嘆きを聞き付けたツムギは、しかしそれを吹き飛ばすように明るく言い放つ。
「安心しろ、ルセリよ!
俺の毒を食らわせていたからな!
どっちにしろ食えた物じゃない!」
「あ・ん・た・ねぇぇぇぇ!」
あんまりな言葉に、ルセリは怒りに身を任せて、彼の胸倉を掴んでガクガクと揺さぶる。
「なんて事してんのよぉぉぉぉぉ!!
つーか、毒持ちとか!
ほんっとに人間じゃないわね!
解剖させなさい!」
「まぁまぁ、落ち着けって」
掴んでいる手を軽くタップして、昂る彼女の気を鎮める。
滑らかな肌の感触をこっそりと堪能していた事は秘密である。
「安心しろって。
俺がお前の期待を裏切るような事をする筈がないだろ?」
「《アーク》からの転送の時、集中を乱してくれた事、私、まだ許してないけど?」
笑顔で反撃する。
実に美しい青筋が見える。
その時、彼らの周囲に何かがぼとぼとと落下してきた。
「え? えっ?
こ、これって……!?」
落ちてきた物の正体は、オークの斬殺死体だった。
命のキノコを生やして絶命しているそれらは、キング遭遇以前にルセリが殺していた者たちの死体だ。
「ふっ、事前に空へと打ち上げておいたのだ。
俺様の機転に泣いて喜ぶが良い」
「……さ」
ふるふると震えたルセリは、拳を固く握りしめ、
「最初からそう言いなさいよ!」
「おぼぅっ!」
綺麗なアッパーカットでツムギを吹っ飛ばした。
仰け反りながら、キノコの絨毯へと倒れ込むツムギ。
だが、ルセリはまるで気にした様子もなく、キノコの収穫へと向かうのだった。
「……もうちょっと、愛情が欲しいなー」
キノコの胞子に包まれながらの言葉は、彼女には届かなかった。




