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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第一章:運命の綻び
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第二十八話:毒と太陽

「さて、ブタども。

 可愛い女の子と遊びたい気持ちは分かるが……痛い程に分かるが、残念だが俺が相手だ」


 キングの加勢へと向かおうとしていたその他のオークの前へと、ツムギは躍り出た。

 彼らに理性はなく、優先順位や戦術などの思考もない。

 敵が現れれば、それを倒す事しか考えられない。


 だから、目の前に現れたツムギへと、彼らはあっさりと矛先を変えた。


「ショック・ハントばかりが芸ではないと、見せてやろう」


 じわり、と、彼の肌が黒く染まる。

 その部分から、汗が噴き出した。

 肌の色を反映したような、黒い汗だ。


 まともな獣なら、この時点で逃げる物だが、本能すらも壊れているオークたちは気にしない。

 雄叫びを上げながら、拳や武器を振り上げて襲い掛かってくる。


 ツムギは腕を振って、黒い汗をばら撒く。


 オークの肌に付着する黒い液体。


 瞬間。


 ドサドサ、と、次々に倒れた。

 息をしておらず、完全に死んでいる事が分かる。


 彼らの身体からは、美しい命のキノコではなく、毒々しい色合いをした浄化のキノコが咲き誇っていた。


「即効性だぜ。

 せめて苦しまずに殺してやる俺の慈悲に、あの世で感謝してろよ」


 ツムギが持つ、ツムギだけが世界で生成できる毒物である。


 ラピスの研究で様々な毒素を体内へと注入してきた。

 改造された彼の完成度を確かめる為の実験だったが、排出される前に次から次へと注入した結果、体内で融合して新種の毒物へと変化したのだ。


 その殺傷性の高い新毒を受けて、ツムギの身体は受け入れる為に更なる進化をした。

 毒物への耐性を得るだけに留まらず、更にはその力を自分の物にするべく、毒を生成する機能を備えてしまったのだ。


 今では、自己進化の一環で数多の毒を勝手に生成しては、勝手に抗体を作っていく事を繰り返す、謎の薬毒機関へと変貌している。


 黒い汗は、その中でも特に危険性の高い毒、即効性にして致死性の毒を混ぜたものだ。


 既に崖っぷちのオークでは、一滴浴びただけで、一瞬すらも耐えられずに死んでしまう。


「こういう時以外に、中々使い道がないからな」


 普段から使えば、その度に周囲を汚染してしまう。

 前に、彼の毒素が原因で胞子の森が形成されてしまった事もあるほどの劇物である。


 既に汚染され、浄化に動いているような土地でもなければ、おいそれと使う訳にもいかない危険な能力なのだ。


「さてと、こっちは終了、と」


 最後の一体も屠り、キノコの苗床に変えてやったツムギの肌から、黒の色が消える。


 毒を引っ込めたのだ。

 必要以上に使えば、更に胞子の森が発展してしまう。

 世界の事は嫌いだが、世界を壊すつもりはない以上、配慮は必要なのだ。


「ルセリの方はどうかな?」


 呟いて振り向いた直後。


 派手な閃光がツムギの目を焼いた。


~~~~~


『ブガァァァァァ……!』


 キングは両手で軽々と大剣を振り回す。


「あー、もう! 鬱陶しいわね!」


 その暴力の嵐を潜り抜けながら、ルセリは攻撃を繰り返す。


 しかし、普通の生き物なら致命傷になるほどの深手だが、有り余る再生力が胞子のダメージさえも超越して、それらの傷を治癒させてしまう。


 距離を取った彼女は、射撃モードでハチの巣にしてやるが、瞬く間に元通りの姿を取り戻す。


「ここまで来ると、寄生したままのキノコの方が異常ね」


 あれほどの回復力があって猶、排除できないキノコの繁殖力は異常そのものだ。

 人里近くでは躊躇なく焼き払われる、という話にも納得である。


 それからも何度か攻撃を繰り返すが、キングの動きが衰える事はない。


「再生力が尽きるまで付き合っているのは、まぁ面倒ね」


 オークの殲滅は、あくまでもついで、である。

 本来の目的は、キノコ狩り……ではなく、森を抜けてラピスに会う事にある。


 こんな所で無意味に時間を浪費している場合ではない。


 仕方ないので、ルセリは片を付けるべく、もう一つの選択肢へと移行する。


 すなわち、跡形もなく焼き尽くす。


 彼女はポーチの中から、小さな金属板を取り出した。

 見る事もせず、指先だけで起動スイッチを入れたルセリは、それをキングへと投げつける。


 キングはそれに脅威を抱かない。


 当然だ。

 それは科学の力のみで造られた兵器であり、魔法もギフトも使われていない。

 単なる金属板にしか、今の時代を生きる者には見えない。


 故に、気にせずに踏み込んでしまう。


「知識を持たない哀れな生き物ね」


 無知は罪ではない。

 だが、無知は命取りである。


 そうと信じる彼女は、戦闘用の強化外殻を起動させる。


 胸のペンダントに格納されていたナノ粒子が放出され、彼女の身体を覆い尽くして鎧の形を取った。


 直後。


 灼熱の炎が発動した。


 核融合手榴弾 《陽炎(プロミネンス)》。


 手榴弾程度の小型であるが故に、効果範囲はあまり広くないが、爆心点の熱量は核爆発に相応しい物である。

 まともな生物など、骨も残らず蒸発してしまう。


「放射能汚染があるけど……まぁ、このキノコたちが一緒に浄化してくれるでしょ」


 解析してみた所、問題なく放射能も除毒してしまう性質がある事は分かっている。

 なので、ルセリは躊躇なくこの札を切ったのだった。


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