第二十七話:殲滅戦
そうして二人は、オークの集落へと辿り着く。
尤も、キノコに占拠されて完全に跡地という感じだが。
ほとんどのオークは完全にキノコの苗床となって干乾びているが、中にはまだ活動している個体も見受けられた。
「上位個体は、それに合わせて生命力が高くなるからな。
高い回復力で、強引にダメージを打ち消してんだろ。
まぁ、精神の方は逝っちゃってるけども」
快楽だったり苦痛だったり、そこに浮かんでいる物は様々だが、どの個体も正気を失った様子で呻き声を漏らしながら徘徊している。
「正気を失っていようと何だろうと、敵には違いないわ。
殲滅よッ!」
作戦も何もなく、即行で飛び出していくルセリ。
「あっ、おい!」
止める間もない。
随分とオークの生態が気に入らないらしい。
ツムギは苦笑いするが、それでも良いか、と受け入れる。
別に、ルセリが好きだからではない。
好意があるからと、何もかもを許すのは間違っている、と彼は考えている。
目的が殲滅ならば、適当な突撃は悪手と言える。
敵の逃走を許してしまうからだ。
通常であれば、退路をまずもって潰してから、戦闘に突入すべきなのだ。
だが、今回はそれでも良い。
なにせ、相手は正気を失っている。
『『『ブガァアアアアアアアア……!!』』』
殺意を持って馬鹿正直に突撃してくるルセリに向かって、生き残っていた上位オークたちも馬鹿正直に殺到していた。
そこに、理性の色はない。
これ程に進化しているオークたちでは有り得ない動きだ。
つまり、何らかの脅威を抱いて逃げるという事はない。
命が続く限り、外敵の排除、あるいは獲物の確保に動き続けるだろう。
「てやぁ!」
ルセリは光学剣を振り上げ、容赦なく真っ二つにしていく。
次々と倒していく。
あまりにも簡単に、蹴散らすという表現が相応しい程に。
「まぁ、そうだろう」
一撃で殺しているが、通常ならこうはいかない。
ここが胞子の森で、既に深く寄生されているからこそ、だ。
通常の上位オークは再生力を有している。
それはかなりの物で、一撃で殺そうと思うならば、頭を粉々に砕いてやるしかない。
今のルセリがしているように、真っ二つにしている程度では死なないし、離れた部位を即座にくっ付ければすぐに治癒してしまう。
それくらいには厄介な魔物だ。
だが、今はその再生力によって、ぎりぎりで命を繋いでいる状態だ。
ちょっとばかし背中を押してやれば、簡単に死んでしまう。
斬られたオークたちは、美しいキノコを咲かせて、次々と絶命していく。
だが。
「おーい、ルセリー。
気を付けろよー」
ツムギが注意を飛ばした直後、地響きがこの場に届いた。
奥にいたのだろう。
キノコと同胞の亡骸を踏み潰しながら、そいつが現れる。
『ビュルアアアアァァァァァァ……!!』
耳をつんざく咆哮を上げる、一際巨大なオーク。
五メートルはあろうかという体躯に、武骨な大剣を両手に持っている。
その長さは、軽くルセリの身長を越えており、見るからに凶悪な代物だ。
頭の上に冠を乗せており、それが集落の長だったのだろうと思われる。
「うるさいッ!
死んでなさい、ブタ野郎!」
一瞬の恐れすらなく、ルセリは首を斬り落とした。
しかし、
「うっそ!?
何この生き物!?」
一瞬で首が接着し、飛び上がったルセリへと大剣を振るう。
彼女は向かってくる刃に足を乗せて受け止める。
だが、重量差は圧倒的だった。
装備や改造の結果、見た目以上の体重を持つルセリだが、それでも常識の範囲内だ。
オークキングは小石でも吹き飛ばすように、強く彼女を弾き飛ばした。
「きゃっ!?」
背後にあった巨大キノコに激突して、噴き出した胞子に包まれる。
「そいつはキングだなー。
再生力は異常だぞー?
倒すには、再生力が尽きるまで殴り続けるか、跡形もなく焼き尽くすしかないぞー」
「解説どーも! 他は任せるわよッ!」
胞子を振り払いながら出てきた彼女は、呑気に観戦しているツムギへと叫びながら、キングへと向かっていった。
「ククッ。はいよ。任された」
凶悪な笑みで、ツムギは請け負うのだった。




