第二十五話:豚狩り
オーク。
それは、二足歩行する豚の様な姿を持つ魔物である。
人型に近い魔物は、総じて頭が良い傾向にあり、彼らもその例に漏れない。
通常個体ですら、武器を使用する程度の知能はあるし、個体によっては罠なども駆使してくる。
そして、上位種になるほどにその知能は爆発的に向上するという特徴がある。
力ある個体が王となり社会を形成する事もあるし、人間の言葉を学んで会話の成立するほどの知能を持つ者も確認されているのだ。
ちなみに、美的感覚が意味不明であり、何故か同族の異性ではなく、人型に近い別種族の異性に反応し、生殖行為を行おうとする。
特に、人間や亜人がお気に入りであり、よく拉致されて種馬や苗床にされていたりする報告がある、明確な人類の敵だ。
「おかしい。
何で胞子の森にいるんだ」
「何が?
具体的に説明して」
首を傾げるツムギに、ルセリは振り下ろされる斧の下から飛びのきながら、問い質す。
彼は、オークから付かず離れず、翻弄しながらオークの基礎知識を語る。
その上で、疑問点を言った。
「こいつはかなり上位の、オーク将軍だ。
人里近くで活動しているなら、言葉だって通じるくらいには頭の良い個体だぞ?
そいつが危険な胞子の森にわざわざ踏み込む筈がない」
下位種ならば、迷い込む事も充分に考えられるが、これ程の上位種であれば、絶対にあり得ないと言い切れる。
「最初からいたんじゃないの?
ここに住んでたとか」
胞子の森は、土地がバランスを崩せば、脈絡なく出現する物である。
そうであるが故に、棲み処を乗っ取られて縄張りを追い出されてしまう事もある。
だが、決して前兆がない物ではないのだ。
敏感な獣たちならば、確実に事前に察知して避難できるものなのである。
本能と知性を併せ持つオーク将軍に察知が出来ない訳がない。
しかし、そうすると、非常に重大な問題が持ち上がってしまう。
「そうとしか考えられん。
が、そうだとすると、逃げる間もなく森が広がった事を意味するんだ。
これはまずいぞ。
何が原因で胞子の森が出来たんだ?」
急速に浄化しなければならない程の危険な毒素が、この辺りにばら撒かれたという事を示しているのだ。
本当に原因がラピスにあるのであれば、一体何をしているのだ、と胸倉を掴んで吊るし上げてやらねばならない程の事態と言える。
「まっ、何はともあれ、する事はただ一つよ」
「ああ、そうだな」
意識を切り替えるように明るく言うルセリに、ツムギも同意する。
今、この場で考えても答えは出ないのだ。
ならば、する事はただ一つ。
「この森を早急に脱っしゅ……」
「オークを殲滅するわよ!」
「つ、って……おや?」
なんだか思っていた物と違った。
「スキャンしてみたら、こいつと同種っぽい生体反応がたくさん見つけられたわ。
こいつら、間違いなく集落を形成してるわよ」
「いや、それはまぁ分かるんだが……滅する理由って何かあったか?」
「あるに決まっているわよッ!」
ルセリは眉を吊り上げて断言する。
「ツムギの話じゃ、こいつら、女の敵じゃない!
苗床って何よ!
女を子を産む機械だとでも思ってんじゃないの!?
セクハラよ!
セクハラ生物、死すべしッ!」
光学剣を起動させたルセリは、赤い光の刃でオーク将軍を一閃して殺害する。
「いや、女の敵っつーか、人類の敵っつーか……。
そもそも魔物の一種だから、敵で当然なんだが……」
「あん!? なんか文句あんの!?」
「いや、別に。
ルセリがそれで良いなら、俺は付き合うさ」
「なら、黙って付いてきなさい」
彼女は光学剣を振り上げながら、気炎を上げる。
「豚狩りじゃああああぁぁぁぁ!!」
「…………楽しそうで何よりだよ。ほんとに」
ツムギは、煩悩は可能な限り抑えようと、内心で誓ったのだった。




