第二十三話:胞子の森
ちょぼちょぼ読者が増えてきて嬉しい限りです。
朝食を終えた二人は、旅を再開した。
昨日と同じように木々を蹴って、高速で移動していくと、昼にもならない内に木の密度が薄くなり始める。
「森を抜けたが……こりゃまた、酷い場所があるもんだ」
「うーわっ、何よ、あれ」
森が完全に切れた場所で立ち止まった二人は、目の前に広がる光景に揃って顔をしかめていた。
そこに広がるのは、新しい森だ。
但し、今までのそれとは大分毛色が違う。
具体的には、大小無数のキノコが森のように連なっていた。
「……ねぇ、なんか禍々しいオーラが見えるんだけど」
「オーラじゃねぇよ。
ありゃ全部胞子だ」
毒々しい色合いの煙が森全体から立ち上っており、周辺一帯を覆っている。
あまりにも異常な光景に、初見のルセリは絶句するばかりである。
「通称、胞子の森。キノコの方が合ってると思うのだがな。
環境のバランスが崩れると発生する、大地の新陳代謝みたいなもんだ。
暫くすれば、勝手に崩壊して後には肥沃な土壌が残るっていう有難い現象だよ。
環境を崩しやすい人里近くでは、規模はともかくとして、まま見られる現象だ」
(……とはいえ、こんな山奥で発生するのは珍しいがな)
人の手が入る事によって、環境を崩しやすい場所と違い、このような原生林の中は、生態系が完成していて、中々バランスを崩しにくい。
その常識を越えて、これほどに大規模な森が発生しているとなると、尋常ではない事態が起きていると見るべきだ。
ツムギは、頭の中で思い当たる要因を検索していく。
だが、最終的に最も高い可能性は、ラピスが訳分からん謎の毒素を垂れ流しているという結論へと辿り着いてしまった。
あまりにも悲しい結論に、若干ゲンナリしていると、ルセリが僅かばかりの希望を求めて言う。
「……ご丁寧にどうも。
人里近くにも頻繁に発生するって事は、人体には無害……」
「な、訳ねぇだろ。
バリバリ有害。
要、緊急対処案件だ」
人里近くに発生した場合、炎熱系統の魔法を使える者をこれでもかと集めて焼き払うのが通例だ。
ちなみに、生えているキノコは食用にもできる。
採取にも調理にも特殊な技術が求められる為、滅多に市場に出回ることはないが、スープの出汁として用いると絶品の味わいとなる。
「ですよね。迂回するのは、ダメかしら?」
「かなり広範に広がってる。
迂回するのはちと面倒だな」
森を迂回するとなると、直線コースに比べて数日はロスしてしまう程の距離を移動する事になるだろう。
希望を潰されたルセリは、諦めたように吐息した。
「はぁ……。
じゃあ、やっぱり突っ切るしかないのね」
「だな。
大丈夫か?
人間なんて、あの胞子を一吸いするだけでイチコロなんだが」
肺から全身に回り、身体中のあちこちからキノコが生えてくるという悪夢のような状態となる。
全身の栄養を吸い上げられ、数分で死に至るという凶悪な代物なのだ。
「宇宙装備、舐めんじゃないわよ。
外気に触れずに活動するの、大前提なんだから。
……そういうあなたはどうなの? ツムギ」
「ふふん。お前こそ俺を舐めるなよ?
俺の驚異の肺活量を、見せてやるッ!」
「…………まさか、無呼吸で行くつもり?」
「余裕だぜ」
親指を立てて、断言するツムギ。
若干、どうしたものかと思うルセリだったが、彼が行けると言っているのだ。
まだ短い付き合いだが、これまでにも非常識な身体能力を見せられている事だし、信じてみようという気になった。
「そう。なら良いわ。
じゃあ、さっさと抜けてしまいましょう」
「そうすっか」
そう言って、二人は危険地域へと足を踏み入れるのだった。
唐突ですが、実はこのヒロインには明確にモデルになったキャラクターがいるのですが……どれくらいの人が気付いてくれているのだろうかと、気になっています。
舞台設定だの、登場人物だの、ストーリー展開だの、ヒロイン以外の全てがまったく違うので、あるいはピンと来ていなかったりするのでしょうか。




