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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第一章:運命の綻び
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第二十二話:朝食の席

 レインは伝言を届けさせる為にリリースしたが、他にも生き残っていた第九位階天使を逃がしてやる理由は存在しない。


 ツムギの拳の余波を受けて、墜落だけで済んでいた者たちだが、彼らはこの場からの離脱を図るために四方八方へと逃げ散っていた。

 二人はそれらを殲滅すべく手分けして追い回し、最後の個体を粉砕した頃には、夜が明けてしまった。


 なので、丁度良いと朝食を取る事にしていた。


「……まさか、こんな森の中でパンを食べられるとは思わなかったわ」


 コンガリと焼き上げたトーストに、蜜の残りや野生の果物から作ったジャムをまぶした物を齧りながら、若干、納得していない様子で呟くルセリである。

 それを笑いながら、ツムギが答える。


「正確には、パンもどきだな。

 ちゃんと作った物に比べれば、断然に味が落ちる」

「食べられるだけマシよ。

 それにしても、パンを生らせる樹木か……。

 興味深いわ。

 どういう進化をしたらそんな事になるのかしら」

「興味があるか?

 なら、この種を進呈しよう。

 パンの木の種だ」


 言いながら、彼は指先大の種を弾いて寄越す。

 受け止めたルセリは、簡単に外見を観察する。


「見た目は別にどうという事のない種ね」

「まぁな。だからこそ、危険でもあるが。

 間違っても生で食べるなよ?

 焦げるくらいに焼かないと死ねる」


 注意をするツムギに、ルセリは首を傾げた。


「そうなの?」

「ああ。そんなんでも魔樹の一種だからな。

 生命力が半端じゃない。

 まだ生きている状態で食うと、胃の中で発芽して身体中の栄養を吸い尽くされる。

 干からびるまでな。

 前に食って、えらい目に遭った」

「……食べた事、あるんだ?」

「応。

 マザー大先生に美味しいからって騙されてな。

 なんとか噛み砕いて、逆に消化してやって事なきを得たが、死ぬかと思ったのは間違いない。

 指差してゲラゲラ笑ってやがったあの人を、おもっくそぶん殴ってやった俺も間違ってない」


 その後、反撃してくるラピスと三日三晩殴り合いを続けたものである。


 その時の事を思い出したツムギは、遠い目をした。


「……今、思い出しても、実に腹立たしい嫌な記憶だ。

 思い出したくもねぇ」

「でしょうね」


 ツムギの話を聞いて、ルセリは同意しつつ、小さく吐息した。


「はぁ。

 お母さん、ほんとに変わっちゃって。

 昔はそんなにマッド気質…………では、あったわね、そういえば」


 言葉を紡ぎながら、ゆっくりと結論を変えた彼女は、後半の言葉を言い換えた。


 そもそも、ラピスという女は、デザイン・チルドレンという相当に生命を冒涜する研究の音頭を取っていたのだ。

 そんな人間がマッドではない筈がない。

 そういう一面をルセリに対して見せていなかっただけで、本性の一つである事は間違いない事実なのだろう。


「そういえば、話は変わるのだが、ルセリには驚いたぞ」

「え?」


 ツムギに言われ、とっさに何の事か思い当たらず、ルセリは首を傾げた。


「あれだ。あの天使連中を威圧した時の事だよ。

 大丈夫だろうと判断したからなんだが、あの時、お前にも威圧が飛んでたと思うんだが……ルセリってば全然動じてないのな。

 俺ちゃん、ちょっとショック。

 自信なくすわー」

「ああ、そのこと」


 トーストを一口齧りながら、彼女は何でもないと言う。


「当たり前よ。

 だって、私、モニター越しだけど、第一位階の神霊だって見たことあるのよ?

 生物領域の威圧なんて、大した事じゃないわ。

 人神大戦経験者、舐めんな」

「……マジ?

 第一位階って、それ、天辺じゃん。

 俺だって、第二位階までしか見たことないのに」


 統括官が処分保留を直訴してくれた時に、同席していた事で邂逅した経験がある。


 運が悪ければ、あれと相対する事になっていたのか、と思うと中々に肝が冷える思いだが、ルセリはそれよりも更に上を知っているという。

 戦場に直に立たない科学者でさえそれなのだから、つくづく当時の狂気ぶりが窺えるというものだ。


「……俺、その時代に生まれなくて良かったわー」

「まっ、それもそうでしょうね。

 心から同意してあげるわ。

 神ってのは好きじゃないけど、神と喧嘩しようってのも馬鹿な話よ」


 当時の悲惨さをよく知っているからこそ、その時代に生まれなかった者たちは、それだけで幸運なのだと思う。


 そして、そんな時代を生き残って未だに人間が存在している事実を嬉しく思う。


 たとえ、それが神の家畜なのだとしても、種として存続しているだけで、あの頃を頑張った甲斐があると思うルセリだった。

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