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旅の終わり……  作者: 方丈陽田
第一章:運命の綻び
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第十九話:メッセージ

 ひょっこりと顔を出した天使。


 レインは一瞬の希望を抱く。

 任務を無事に果たし、仲間が戻って来たのだと。


 これが昼日中であれば、あるいは彼女が冷静であれば、気付けただろう。

 同僚の表情に生気がなく、彼女がもう死んでいる事に。


 だが、今は暗い夜であり、気が動転していたレインには、気付ける道理はなかった。


「ばぁ!」


 その背後から、ルセリが勢いよく顔を出した。

 ツムギは気付いていたのでまるで動じなかったが、一握りの希望を抱いていたレインは、びくりと大きく反応した。


「あっ、驚いた? 驚いたわよね?

 ふふふっ、やったわ。

 悪戯、大成功っ!」


 ぺろりと舌を出して笑う彼女は、つい今しがた、人の似姿をした生物を殺戮してきたとは思えないほどに、愛らしいものだった。

 彼女にとって、天使を殺戮する事は至極当たり前の事であり、一々、気に病むような事ではないのだ。

 あくまでも、時代における価値観の違いであり、決してルセリの精神が異常な訳ではない。


「やぁ、狸娘ちゃん。

 おはよう。清々しい朝だね!」


 にこやかに、爽やかな挨拶をするツムギに、ルセリも笑みを見せる。


「ええ、おはよう。まぁ、悪く気分ではないわ。

 でも、私は狸より狐の方が好きだわ。

 化かして遊ぶ生き物では、ね」

「そうだな!

 君の毛色からして、狸の耳と尻尾より、狐のそれの方が似合いそうだ!」


 手を叩いてツムギは同意する。


 ルセリの金髪には、暗い色のイメージのある狸よりも、明るい色のイメージがある狐の方が似合いそうだと納得したのだ。


(……その内、狐の耳と尻尾を付けて貰おう)


 想像してみれば、あまりの可愛らしさに悶死しそうになってしまうツムギである。


「それで……」


 悪戯は済んだので、天使の死骸を投げ捨てたルセリは、いまだ無事でいるレインへと視線を向ける。


「そいつが今回の主犯なのかしら?」

「まぁ、実行犯ではあるな」


 黒幕は、それこそ神殿だとか神々になってしまうのだが、現場で指揮を取っていたのは、間違いなくレインである。


「そう。じゃあ、殺しておきましょうか」


 簡単に言って、光学剣を起動させる。


「クッ……!」


 レインは無手のまま、何とか離脱しようと周囲を見回すが、どうにかなるような状況ではない。


 ツムギの脅威は身を以て理解させられたし、無事にここに来たという事は、ルセリもかなりの強さを持っていると予想できる。

 おそらく、分けた部隊の者たちは、全滅かそれに近い被害を受けて、とても助力を期待できる状態ではない、と判断したレインは、せめて一矢でも報いようと覚悟を決めようとした。


 だが、その前にツムギが待ったをかけた。


「ああ、待て待て。

 殺すな殺すな」

「……何?

 戦う力のない奴は見逃すとか、そんな人道主義でも語るつもり?」


 止められた事に、明らかな不満をぶつけるルセリに、彼は首を横に振る。


「そんな事はないぞ。

 だけど、こんな事がずっと続いても面倒だろ?

 って訳で、ちょいとお前さん、伝言、頼まれてくんね?」

「……嫌だと言ったら?」

「仕方ねぇ。俺の夜食になるだけだ」


 即答で猟奇的な事を言うツムギ。

 ルセリは、信じられない者を見る目をしながら、彼を見て言う。


「え? 食べるの?

 こいつら、美味しくないわよ?」

「ルセリよ、お前、喰った事があるのか……?」


 逆に戦慄させられた。

 自分の行動が一般的に見て、異端というか、常軌を逸している自覚があった彼としては、ルセリが経験済みな事に驚きを隠せない。


「昔は食糧難だったのよ。

 天使にだって肉があるんだし、人型なだけで人じゃないんだから、食べても良いでしょ、って判断だったの」


 とはいえ、それはあくまでも最終手段だ。

 どうしても他に食料が無い時に、仕方なく食べようという程度の物だ。


 何故ならば、美味しくないから。

 栄養価もあまり高くない為、食べた気分くらいにはなれるな、という程度の扱いだった。


 そうした事を話すと、納得したツムギは、自信ありげに言う。


「そういう事ならば仕方ないな。

 では、今度、君に美味しい天使料理をご馳走しよう。

 栄養価はやっぱりあんまりないが、食えた物ではないという程ではないぞ」

「あら、それは楽しみね」


 レインを放って盛り上がる二人だが、その視線が途端に集中する。


「逃げようとしないの。

 逃がす訳ないんだから」


 じり、とほんの僅かに後退しただけだ。


 だというのに、目ざとく見咎めたルセリが、光学剣を射出し、レインの足元に威嚇の穴を開けた。

 それだけで、レインは動けなくなる。


「うむ。逃げられると後顧の憂いを晴らす為に殺すしかなくなるからな。

 自分が大切ならオススメはしないでおこう。

 なに、伝言を持っていくだけだ。

 簡単な事だろう?

 子供にだって出来る」


 実質、拒否権の無い要求。

 レインに、選択肢はなかった。

 彼女は苦虫を噛み潰したような苦渋の顔で、頷く事しかできなかった。


「うむうむ。素直でよろしい。

 では、征罰衆の統括官殿に伝えてくれ」


 告げられた宛名に、ルセリもレインも驚いた。

 下界最強と彼が語り、神殿の最高権力者と罪人に気軽に伝言を託せる程度には親交があるという事が、あまりにも予想外だったのだ。


 そんな視線を受け流しながら、彼は旧知の怪物への伝言を託すのだった。


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