第十三話:冒険者登録(力業)
「そういえば、一つ、疑問があるんだけど……」
「ん? 何だ?」
話が一段落した所で、気になっていた事をルセリが訊ねる。
「あなた、冒険者ギルドには門前払いされたって言ってたじゃない」
「ああ、そうだな」
「でも、今は冒険者なんでしょ? もしかして、自称?」
「ハハッ、それか。
いやいや、ちゃんとした冒険者だよ。
自称なんかじゃねぇ」
ルセリが、串肉を食べ終えた事を確認したツムギは、今度は間に草を挟んだネギマ風の串を渡す。
「ありがと」
「どういたしまして。
……で、何だっけか。
ああ、冒険者の話だったな」
話題を思い出した彼は、その事を語り始める。
「いや、当然、門前払い食らう訳よ。
ギフトも持たない無能、しかも姓も持たない劣等民なんてダブルパンチを所属させれば、うちの看板が汚れるってな」
「うんうん」
「だから、話の分からん受付をぶっ飛ばして次の職員を要求するだろ?」
「おっと、話がバイオレンス入ったわね」
「ガタイの良い正義気取りのあんちゃんが、暴力沙汰を起こしたとかイチャモン付けてくる訳だ」
「欠片も間違ってないわね」
「だから、そいつもぶっ飛ばす訳だ」
「道場破りでもしに来たの?」
「まぁ、似たようなもんだな。
話の出来ん野蛮人を張り倒しただけなのに、何故か怒り狂うギルドの連中」
「もうツッコまないわよ?」
「振りかかる火の粉を払うために全員纏めて薙ぎ払う俺。
最後に立っていた俺は、仕方なくギルドの看板を貰って華麗に立ち去った」
「何で看板を持っていったのか、甚だ疑問ね」
「流れだ」
力強く断言する。
ルセリの視線はこれ以上無く冷えきっているが、気にしてはいけない。
「そんで、あちこちの町を転々としながら、それぞれのギルドを各個撃破していった」
「目的を見失っている気がするわ」
「溜まっていく看板の山。
取り返しに来た蛮族を返り討ちにする俺。
倒れ伏した連中の前で、焚き火の燃料となる看板と、良い感じな焼き具合の焼き芋」
「酷く外道な事をしてるわね」
「そうか? 連中、泣きながら食ってたぞ?
よほど美味かったのだろうな。
普段、ゴミのような物ばっかり食っていたのだろう。
可哀想に」
「多分、涙の意味は違うと思うけどね」
「ま、まぁ、ともあれ、だ」
そろそろルセリの視線が凍えそうなレベルに達してきたので、ツムギは強引に締めにかかる。
「そんな感じで道場破りをしているとな」
「もはや言い繕う事すらしなくなったわね」
「ええい、茶化すな!
段々と噂が広まる訳だ。
無能の出来損ないの加入を断ると、問答無用で拳が飛んでくると」
「思ったんだけど、何で治安組織に捕まってないのかしら?
おかしくない?」
「ギルド内だけの喧嘩にしてたしなぁ。
それに、ショック・ハントで仕留めてたから、死者どころか、怪我人も出さなかったし」
「無駄に知恵が回るわね」
「ふふっ、褒め言葉としてうけとろう。
で、そうして噂を広めて実力を証明すれば、向こうの方からお願いですから加入してください、と泣いて頼んでくるようになるのだよ」
「ほぼほぼ脅迫ね。野蛮な方法だわ」
好みじゃないというルセリに、ツムギは苦い顔で言う。
「そう言うなよ。大体、この手法は実績のある代物だぜ?
俺みたいな訳有りが加入するには、これ以外に方法なんてないんだよ」
「あなたが初めてじゃないし、それが認められる世界なのね。
なんて野蛮なのかしら。
もしかして、あなたたちって蛮族なんじゃないの?」
「否定できる余地がないな」
率直なルセリの感想に、ツムギは苦笑を浮かべる事しかできなかった。
彼は誤魔化すように肉を一呑みにして、話を纏める。
「まっ、俺の冒険はそんな感じで始まった訳だな」
「最初から波乱に満ちすぎてるわね」
全くだ、と、彼は頷くのだった。




