口ずさみたくなった男
男の物語は、寂寥感が漂った。
男の鞄の中には、数冊の台本が入っていた。
この春の上演に向けて静かに出番を待っていた。
しかし、最早世界的な萎縮の中で
次々と行き場を失い
一冊、また一冊と書棚へ帰って行った。
心待ちにしていた子供たち大人たちの
顔を見る事なく、帰って行った。
男は、そこに書かれた文字たちが
生きた物語となって、多くの人たちを
笑わせ、泣かせ
心震わせる日が来る事を
願って止まなかった。
ここまで書き上げたところで
男は、何故か
「おもちゃのチャチャチャ」を
口ずさみたくなった。