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レオンハルトは青い瞳で頭上の女を睨んだ。
その目に走る焼けるような痛みと熱。
次いでその目に灯る青の光が強く瞬いて。
その眼から放たれた青と灰色の閃光を受け、女の動きが一瞬止まる。
その刹那にレオンハルトは後ろに跳んだ。
そして女の大きなハサミが空を切って。
ジャキン、とハサミの刃と刃が擦れる音がトンネルに響く。
女が着地。
と同時にレオンハルトは異形の左腕でハサミを掴んで。
閉じられた刃を握り締め、その凶刃を抑え込む。
女が赤く光る瞳でレオンハルトを睨んだ。
レオンハルトはハサミを握ったまま、竜の尾を女目掛けて突き出した。
得物を手放し、横に駆けてかわす女。
レオンハルトは女を追うように竜の尾を横に薙いで。
黒い竜の尾がガス灯や壁面を薙ぎ払いながら女に迫る。
女は身体を捻りなら跳んで。
迫り来る尾をすれすれで飛び越えた。
その顔に不敵な笑みを浮かべる。
「ねぇ王子様。あの小さな病院があなたのかかりつけなのかしら」
身をひるがえして着地すると女が言った。
レオンハルトは女に向けて大きく踏み込んで。
「さぁ、な!」
レオンハルトは巨大なハサミを右手で握り、突きを放った。
鋭利な切っ先が女の胸元に突き刺さる。
女は痛みに顔を歪めると血を吐いて。
口許から首筋にかけて鮮血が滴る。
「あらあら、もう少しお相手してもらおうと思ってましたのに」
女は胸を貫かれながらも不敵な笑みを絶やさない。
レオンハルトはハサミをより深く女の胸に突き立てた。
次いで黒い鱗に覆われた4本の趾が女の首を掴んで。
「今度こそ死ね」
レオンハルトは左腕で女の身体を持ち上げる。
女は微かに首を左右に振った。
レオンハルトがより強く女の首を締めるが。
「いいえ、またお会いしますわ」
女は目を閉じるとチュッ、と唇を鳴らす。
次いでトンネルに響いたのは女の首が砕けた音で。
花を手折るようにレオンハルトは女の首を折った。
その頭がだらりと傾く。
レオンハルトはハサミを引き抜いた。
傷口から吹き出した返り血を浴びてレオンハルトの顔半分が真っ赤に染まる。
レオンハルトは返り血をぺろりと舐めて。
「味はやっぱり同じか」
レオンハルトは呟くとハサミを投げ捨て、右手を女の胸の傷口へと差し込んだ。
胸の中の魔結晶を掴むと、それを引き抜く。
魔結晶を失い、砂となって崩れていく女の身体。
レオンハルトは手の中の魔結晶を見下ろして。
「さて、これで倒せてりゃいいが」
レオンハルトはため息を混じりに続ける。
「ダメだろうな」
「ケケケ、まさか取り逃がすとはなぁ」
アムドゥスが言った。
ディアスは物陰から物陰へと身を隠しながら走っていて。
フードの中に潜むアムドゥスを横目見ると顔をしかめる。
「地理の把握ができていれば逃がさなかったさ」
「街の人間なんて気にせず攻撃しまくりゃ倒せてたのになぁ。ケケケケケ」
「エミリアやアーシュもいる。迂闊な真似をして魔人だとバレるわけにはいかない」
「ケケ、2人がいなくてもやらねぇくせに」
アムドゥスはフードの中で肩をすくめた。
「ひとまず衛兵達はまけたか? ブラザー」
アムドゥスの問いにディアスは首をかしげて。
「どうだろな。この街は白竜の魔王の魔物による襲撃を警戒して、他の魔王のテリトリーと比較して監視が厳重だ。……ここには滞在できない。まだ魔人を追っていた一介の冒険者としてしか見られてないとは思うが、一度警備の気に止まった以上、バレる前に早く離れないと」
通りを横切り、川を越え、路地を抜けて。
ディアスは再び病院へと戻ってきた。
ディアスは周囲を警戒すると扉を潜り、中へと入って。
だが中に人影はなかった。
入口のカウンターの傍らに、女の魔人によって胴を両断された女性の亡骸がそのままになっている。
「エミリア」
ディアスが呼び掛けたが返答はない。
ディアスは奥の部屋へと続く扉を通った。
その部屋で左にある階段と右の扉を見て。
そして異臭を放つ右の扉の方へと向かう。
その扉の先には部屋の中央に鎮座する赤く染まった台座と、そこに突き立てられた巨大なハサミの姿。
「先回りされたのか」
ディアスは周囲に視線を走らせた。
次いで手前の部屋に戻って。
「エミリア! アーシュ! 誰もいないのか!」
ディアスが大きな声で呼び掛けた。
だが、返事はない。




