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4-1

 昼間でも深い闇に包まれた山岳をディアス、エミリア、アーシュは進んでいた。

真っ暗な山道をディアスの持つランタンの灯りが照らす。


 アーシュは空を見上げて。

だがその視線の先は完全な闇。

太陽も月も星々も、雲すら見えない真っ黒な空が広がっていた。

その真っ暗な空の先からは時折、地鳴りのような低い音が響いてくる。


ディアス達が歩く道中に草木はほとんどなく、所々に雪が積もっていた。


 カチカチカチカチ。

アーシュは歯を鳴らしながら震えていた。


 エミリアはアーシュの方を振り返って。


「けけけ、アーくん、そんなに寒いの? 仕方ないなぁ」


 エミリアは頭巾を取るとアーシュの首に巻いた。


「ありがとう、エミリア」


 アーシュが声を震わせながら言った。


「けけ、どういたしまして」


 エミリアが笑顔で答えた。


「ディアスにいちゃん、ここってなんでこんな寒いの?」


 アーシュがディアスにいた。


「上に何が見える?」


「上? 真っ暗だけど」


「ここは数百年ほとんど日光がさえぎられて太陽の光が届いていない。だから辺り一帯がここまで冷え込んだんだ。ここはまだ周回ルートの端だから周期的に日の当たる期間もあるが、このテリトリーの中心部分は完全に雪と氷に覆われてる」


「周回ルート?」


 アーシュが首をかしげる。


「ここはなんの魔王のテリトリーか覚えてるか」


「白竜の魔王のテリトリーだよね」


 アーシュがディアスの問いに答えると、また空の先から低い音が響いてきた。


「この空を覆っているのは白竜の魔王の召喚した巨大な竜だ。大陸のような竜が一定の軌道で周回している」


 ディアスの赤い瞳が空を見上げた。

その先からはまた巨大な竜の咆哮ほうこうがこだましてくる。


「あの空全部を覆ってるのが魔物なの?!」


 アーシュが驚きの声をあげた。


「ケケ、それも単一の個体だぜぇ。【白竜の魔王】リュナウ・シルロの操る竜の力は絶大だ。このテリトリーを囲む山岳の中は窪地(くぼち)になっているが、山岳を含めてこの辺り一帯の地形はあのばかでかい竜が暴れた結果できたものよ」


「魔宮の生成は? ボス部屋が展開されてるようには見えないけど、あの規模ならボスクラスの魔物だよね」


 エミリアがいた。


「リュナウはボス部屋をあの竜の体内に取り込んじまってる。巨大な魔物の中に広大な魔宮があるんだ」


「そんな展開の仕方もあるんだ」


 エミリアが感心したようにうなずく。


 ディアス達が進んでいると、遠方に光が見えた。

目を凝らすと岩山の陰に街が見える。


「ディアスにいちゃん、あそこ?」


 アーシュはぶるぶると震えながら、期待の眼差しでディアスを見た。

ディアスはアーシュの紫の瞳に視線を返すとうなずく。


「けけ、でもまだ距離があるね」


 エミリアは手を水平に額に当てて街の方を睨んで。


「今日中には着かないんじゃないかな」


「えー、もう見えてるのに?」


「ここは日の光は直接届かないが、本来この一帯は暖かい気候で昼は暖気が周りの土地から流れてくる。だが夜はその暖気がなくなってさらに冷え込む。そうなる前に休むのに適当な場所を見つけて暖を取らないと俺やエミリアはともかく、アーシュは凍えてしまう」


「あたしも結構寒いし、これ以上寒くなるのはちょっと」


「俺も正直しんどい」


 ディアスが体をよじると、身体を補っている刃がギシギシと軋んだ。


「刃がキンキンに冷やされて、接してる面が冷たくてかなわない」


「そうなの? じゃあ今日はアーくんとアムドゥスと一緒に寝るからディアスは離れててね」


 エミリアが言った。


「ああ、それでかまわない」


「けけ、嘘だよ。そんな顔しないで」


 エミリアはディアスの手を掴んだ。


「真顔だろ」


 ディアスが言った。


「真顔だよね」


「ケケ、俺様にも真顔に見えるぜ?」


 アーシュとアムドゥスがディアスの顔を見るが、ディアスの顔は無表情に見えた。


「えー、2人ともディアスのこと分かってないね。けけけけけ」


 エミリアはディアスの顔を覗き込んだ。


「大丈夫。あたしはずっと一緒だよ」


 にっこりと笑いかける。


「そうか」


 ディアスはエミリアから目を逸らすと小さく答えた。


 エミリアはディアスと手を繋いだまま歩いていく。


 ディアス達は山肌に洞窟を見つけるとそこで一夜を過ごすことにした。

洞窟の奥で焚き火を焚くと、3人と1羽は寄り添って暖を取る。

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