◼️-5
青年は無言で目を通して。
魔人はその様子を見るとにやりと笑った。
次いで魔物を召喚する。
「油断したな! 黒の勇者!!」
黒の勇者と呼ばれた青年は魔人に。
そして背後から迫る魔物に視線を向けた。
振り向いた先には振りかぶられた巨大な鈎爪。
黒の勇者はそれを受け止めようと左手を伸ばす。
「素手で止まるものか!」
魔人が嘲笑と共に言った。
そして振り下ろされる鋭い鈎爪。
だが黒の勇者はその爪を容易く受け止めた。
その手が気付かぬ間に形を変えていて。
その左手は黒い鱗に覆われ、銀色の爪を持つ4本の趾が魔物の鈎爪を掴んでいる。
黒の勇者がその手に力を込めると、魔物の爪が砕け散った。
次いで黒の勇者は、うろたえる魔物へと肉薄。
身をよじると、コートの下から黒い尾が現れて魔物の胴を穿つ。
黒の勇者は貫いた魔物を尾で持ち上げた。
そして指令書を捨てると右手をかざした。
その右腕が形を変えながら5つに裂ける。
黒い硬質な甲殻に覆われたそれは鞭のようにしなりながら魔物に絡み付いた。
甲殻に覆われた触手の裏側には膨大な数の小さな歯牙が並び、それらが魔物を溶かすように咀嚼。
魔物の身体はみるみる小さくなっていき、ついには完全に消え去る。
黒の勇者は魔人へと振り返った。
血のような赤の中に浮かぶ青い瞳が先程までよりも強く発光していて。
その禍々しい視線を受けて魔人が小さな悲鳴をあげる。
「化け物か」
震える声音で魔人が言った。
「…………お前ら魔人に言われたら世話ねぇな」
黒の勇者は魔人のもとへと歩みを進める。
「頼む、殺さないでくれ」
黒の勇者は1歩また魔人に迫った。
その右腕の触手がしなる。
「あっ……あっ…………頼む。あんな死に方は御免だ」
魔人は逃れようと必死に身悶えるが、深く突き刺さった剣は微動だにしない。
その間にも黒の勇者はゆっくりと進む。
「……せめて殺すならこの剣で。生きたまま喰われて死ぬのは嫌だ」
「さんざん人間を喰っといてよく言う」
黒の勇者は魔人へとその触手を這わせた。
「頼む、止めてくれぇ」
魔人の悲痛な懇願。
だがその身体に取りついた触手は無数の牙を突き立てて。
その身体を徐々に徐々に、ゆっくりと喰らっていく。
「痛い……イタい、痛イイタイイタイ……!」
魔人が悶え苦しむ。
その様子を黒の勇者は半眼で見下ろしていた。
「ああ、この触手! 蟲型の上位種のものか。その左腕と尾は竜種の……! お前、魔物の身体を…………!」
「ああそうさ」
黒の勇者はうなずいて。
「俺は魔物の身体を自分の身体に適合させた。そしてより強い魔物の身体を得て力を増していく。それがオレ──自己改造によって力を得た【黒の勇者】レオンハルトだ」
黒の勇者──レオンハルトはぺろりと舌舐めずりした。
次いで空の彼方へ視線を向けると愉しげに笑って言う。
「今、お前はどこにいるんだ? 白の勇者。他の奴らには渡さない。お前の肉はオレが喰う」
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次の章ではアーシュの左腕を元に戻すためディアス達は【白竜の魔王】のテリトリーにある山岳の街へ。
だがその街はある勇者の出身地であり、何度倒しても甦る美女の魔人とその討伐に奔走する勇者の姿があった。
そして忽然と姿を消すエミリアとアーシュ。
ディアスは勇者と魔人を相手どりながら、2人の行方を追います。
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