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◼️-1

「欠片の回収を急げ」


痕跡こんせきを全て絶つのだ」


「気付かれるな」


「まだあの6人に気付かれるわけにはいかない」


「色と称号を与えられし筆頭の6人に気取けどられてはならない」


「我らの密約を」


「気付かれればこの数十年の我らの計画が無駄になる」


「『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』を総動員しろ」


「それはかえって目立たせる事になるのではないか」


「『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』の正体が明るみになれば、我らが手を結んでいる事が露呈ろていするぞ」


「では何のためのコードネーム(クリフトフ)か」


「顔を見せず、名を明かさず。それをまかり通らせるためのコードネーム(クリフトフ)だろうに」


「表立って動けぬ我らの手足となって働くための『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』だ。使わぬ手はあるまい」


「だがギルド内部にも我らの動きを勘ぐる者がいる。こちらの対処は」


「ギルド内部……『書庫の魔人』の入れ知恵か」


「すでにあの魔人はギルドの中枢深くに根を張っている」


「そして7年前に消えた1人の足取りについては────」


 深き闇に閉ざされたその空間で、言葉だけが飛び交って。


 その時、闇の中を一条の光が射した。

スポットライトのような光に照らされて1人の男が姿を現す。


 その男はコツコツと靴音を響かせながら前へと進み出て。


「欠片の回収はすでに私から『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』に任せてある。『書庫の魔人』もこちらが手の内を見せぬうちは動くまいよ」


 その男は軽薄な笑みを浮かべた。

姿の見えない相手に向けて視線を右へ左へと切る。


「なぜ姿を見せた」


「この影の議会において姿をさらすなど」


 男は声のした方向に視線を向けて。


「不特定多数の声の1つ。それでは私の主張が意味のない議論に流される。今、重要なのは『鍵』の回収だ。『始まりの迷宮(ディザイン・ヴェルト)』へと至らねば我らの悲願は成就し得ない」


「だが『鍵』は7年前に姿を消した」


 男はその言葉に舌を数回鳴らして。


「すでに捕捉済みだ」


 男が言うと周囲からは驚きの声が漏れた。

男は周囲の反応に満足げにうなずくと続ける。


「我らの『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』とは異なる『ゲーセリスィ』の個体の1つが地上に現れ、その欠片の回収を強いられているわけだが。その個体が相対した相手こそ7年前にロストした『鍵』を連れていた」


「それは何者だ」


 闇の中からの問い。


 だか男は首を左右に振って。


「それはまだ答えられない」


「答えられない? どういう意味だ」


「『鍵』の回収が最重要であると言ったのはお前だろうに」


「なぜ隠す必要がある?」


 男はカツカツと靴音を響かせながら小さく円を描いて歩いた。

闇の中に潜む相手に向けて言う。


「まだ、言えないのだよ。何故ならこれはあなた方、不特定多数の人間にとって大きな損益をもたらし兼ねない。そして影の議会も一枚岩ではない。派閥争いなぞで計画の進行に支障が出てはたまらない。ゆえに今はまだその者の名を明かさない。その者の捕縛については私から極秘裏に指令を出してあるから結果を待つといい」


「極秘裏に指令? 傘下のクロスブライト家の人間か?」


「さてさて、どうだろうね」


 スポットライトのように自身を照らす光の中から男は退いた。

その姿が闇に溶けていく。


「私はこれで失礼するよ。それではまた次の議会でお会いしよう、影の同志よ」


「待て、話はまだ終わっていない」


「戻れ、議会はまだ続いているのだぞ」


 周囲から男を引き留める声が無数に響いた。

たが男は意に介さず。

制止の声を無視して男は闇の先へと歩みを進める。


 そして男は、姿を消した──────







「…………ふーん。姿を見せないから死んだと思ってたけど」


 男は伝書の鳥から受け取った指令に目を通すと呟いた。


 茶色の髪と緑の瞳を持つ長身の男。

その男は長い後ろ髪を結わえて肩に垂らし、前髪を真ん中で分けて。

男は黒いインナーとズボンの上から鮮やかな黄色の袈裟けさを肩に掛けていた。

背中には穂先の無い槍、腰には剣身の無い剣の柄を吊り下げている。


 そして腰にはもう1つ吊り下げられた剣。

その剣身は刃も切っ先も無く、柄の先はつちになっていて。

それは剣と呼ぶにはあまりにも歪。

だがこれこそがこの男の一番の得物だった。


「君が魔人堕ちしてまで生き永らえていたとは驚きだね。そして俺を含む残りの5勇者への生死を問わない捕縛指令──実質の討伐依頼だ。わー、大変そう」

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