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「…………アーシュ、あれほど変な気は起こすなって言ったよな。あとなんでそっちの姉弟きょうだいまで捕まってるんだ」


 武器を奪われて。

アーシュとスカーレット、シアンはエミリアと同じ魔人封じの小さなおりにぎゅうぎゅうになって詰め込まれていた。


 ディアスはおりの上から前のめりになっておりの中を覗いている。


「ディアスにいちゃん!」


 ディアスの顔を見るとアーシュの顔に笑顔が広がった。


「なんだこいつは」


 周囲を囲んでいた冒険者は突如現れたディアスに気付くと武器を構える。


 荷台の先頭に座っていた男は手綱たづなを引いて馬を止めると、おりの上に立つディアスを見上げた。

その瞳が赤く発光している事に気付いて。


「こいつ、魔人だ!」


 慌てて立ち上がり短杖たんじょうとナイフを抜く。


「ブラザー」


「ああ。いいぞ、アムドゥス」


 ディアスはアムドゥスの呼び掛けに答えた。


 するとアムドゥスがディアスの身体から離れて。

ディアスの身体はアムドゥスによって補われていた箇所を瞬く間に自食の刃で構成し直す。


 アムドゥスはその形を変えると、いつものカラスのような姿に戻った。

頭に被る頭蓋骨の眼孔がんこうからつぶらな鳥の瞳が覗き、額に現れた第3の眼が周囲を見据えて。

アムドゥスはバサバサと羽ばたくとディアスの肩にとまる。


「顕現しろ、俺の『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』」


 ディアスの全身から無数の刃がおどり、魔人封じの白いおりを斬り裂いた。

 ディアスはバラバラになったおりの前へと飛び降りると後ろを振り返って。


「待たせたな、エミリア」


「けけけけ。ううん、来てくれてありがと」


 エミリアが答える。


「きゃー、助けて!!」


 突如スカーレットが芝居がかった悲鳴を上げた。

次いでシアンの腕を引いて走る。

スカーレットは荷台の先頭に立つ冒険者の腕にしがみつくと振り返って。


「許してください! できるだけの事はやろうとしたんです!」


 スカーレットが上ずった声でディアスに言った。


「俺達、あの魔人に脅されて仕方なく魔人を逃がそうとしたんだ。じゃないと俺達を生きたまま喰うって」


 どこか棒読みでシアンが訴える。


「本当に赤の勇者様を倒して私達を追ってきたのだわ!」


 スカーレットが言うと冒険者達はどよめいて。


「確かにあの顔、赤の勇者様一向の馬車に乗せられていた魔人じゃないか!?」


「馬鹿な! 勇者様が魔人相手に遅れをとるなど」


「勇者の肉は、まぁその……普通の人間と大差なかったナー」


 ディアスはそう言うとにやりと笑った。

歪な笑顔で。

だが逆にその作り笑いの不気味さが冒険者達の不安をあおる。


「助けてー! 早く逃げないと勇者様と同じように食い殺されるわー!」


 スカーレットが叫んで。


「冒険者狩りの魔人だ。たずさえる剣は全てS難度攻略パーティーの筆頭だった人達の得物だよ」


 シアンがあおる。


「戦略的撤退、大いにあると思います!」


 スカーレットはそう言い残すと荷台を飛び降り、街道の先へと走って。

そのあとをシアンが追う。


「高難度の魔人なら5人で相手するのは無茶だ」


「だが逃げられるか?」


 冒険者達はじりじりと後退しながら言葉を交わす。


「逃げたければ逃げるがいいわ。主様が狙うのは名のせた冒険者。有象無象(うぞうむぞう)になど用はないもの」


 エミリアが冷たい声音で言った。

その瞳から赤の炎が燃え上がって。


「さぁ、どうする? 名も知らぬ人間どもよ」


 エミリアは不敵に笑って。


「それとも殺されたい? やっぱり殺されたいの? けけ、けけけけけけけ……!!」


 いで狂気をはらんだ笑い声をこだまさせる。


 その迫力に怖じけ、1人冒険者が逃げ出した。

その姿を見て次々と冒険者が逃走する。


 その後ろ姿をエミリアは眺めて。


「えー。次アーくんで、最後にアムドゥスに脅かしてもらおうと思ってたのに。けけけけけ」


「ケケケケケ! あの姉弟きょうだいも大概だったが、ブラザーは何やらしても才能ないなぁ!」


 アムドゥスが翼で腹を抱えて笑う。


「……? 俺が一番演技うまかったろ」


「ケケケケケ!」


 アムドゥスは笑ったままディアスに答えない。


「…………ディアスにいちゃん、赤の勇者を殺してきたの?」


 不安げにアーシュがいた。


「できれば苦労ない。真っ向勝負なら一撃で俺のけだ」


「そっか。じゃあ人は殺してない?」


「ああ。傷つけてもいないよ」


「良かったー」


 アーシュが笑みを浮かべる。


「あ! そういえばディアスにいちゃん『その刃、(ソード・)暴虐の嵐となりて(テンペスト)』使ったんでしょ! エミリアから聞いたよ! おれも見たい、おれも見たい、おれも見たいー!」


 目を輝かせてアーシュがねだる。


「悪いがあれが最後だ。今度こそ、もう2度と使えない」


「え」


 スッ、とアーシュの瞳から輝きが消えた。

しょんぼりと肩を落とす。

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